デビュー当初は理解されなかった? BMW Motorrad「GS」シリーズはいかにして人気モデルになったのか
バイクのニュース / 2024年4月6日 11時10分
BMW Motorradの水平対向2気筒エンジンを搭載する「GS」シリーズは、アドベンチャーモデルというジャンルを確立させ、その世界でトップを走り続ける大きな存在です。その歴史を振り返ってみましょう。
■理解されなかったコンセプト
BMWモトラッドを代表するモデルであると同時に、アベンチャーツアラー界の先駆車にして王様……フラットツイン(水平対向2気筒エンジン。ボクサーツインとも言う)を搭載する「GS」シリーズに対して、近年では多くの人がそんな認識を持っているのではないでしょうか。
1980年から発売が始まった「R80G/S」は、フラットツインGSシリーズの原点であり源流。最高出力は50psで、装備重量は186kg、タイヤサイズはフロント3.00-21、リア4.00-18
とはいえ、このシリーズの最初の十数年間は、必ずしも順風満帆ではありませんでした。と、私(筆者:中村友彦)は思っています。当記事ではそのあたりも含めて、フラットツインGSシリーズが現在の地位を獲得するまでの経緯を振り返ってみようと思います。
まずは第1号車として1980年に登場した「R80G/S」(俗称:スラッシュ・ジー・エス)の話をすると、200万円前後が珍しくない昨今の中古車相場を考えると想像しづらいですが(1980年型の当時の日本市場での新車価格は135万円)、デビュー後の数年間、このモデルのセールスはあまりパッとしませんでした。
当時の一般的なライダーが大排気量車に求めていたのは、クラストップの最高出力や最高速、過去に前例がない新技術で、そんな状況下で大きなオフロード車、と言うより、オフロード車の美点を取り入れたロードバイクに注目する人は、わずかしか存在しなかったのです。
ちなみに、1980年頃のBMWモトラッドの主力は、量産車初のフルカウルを装備する「R100RS」(1976年~)で、それに次ぐのはグランドツアラーの「R100RT」(1976年~)だったようです。
いずれにしても、当時のライダーが「RS」や「RT」ではなく、さらに言うならネイキッドの「R100」(1980年~)やカフェレーサーの「R100CS」(1980年~)でもなく、「R80G/S」を選択するには、信念や勇気、思い切りの良さなどが必要だったはずです。
■パリダカールラリーにおける大活躍
そんなフラットツインGSの評価が変わるきっかけになったのは、パリダカールラリーにおける大活躍でしょう(1981年・1983年・1984年・1985年に優勝)。そしてレースで培った技術を転用して開発され、1987年から発売が始まった「R100GS」は、初代の「R80G/S」と比べれば、多くのライダーからの支持を獲得したのです……が。
1980年代前半のパリダカールラリーで、フラットツインGSは4度の栄冠を獲得。写真のライダーは1984年・1985年に優勝を飾ったガストン・ライエ
1988年以降に登場したライバル車、ホンダ「XRV650」「XRV750アフリカツイン」や、ヤマハ「XTZ750スーパテネレ」、カジバ「エレファント750」などに対して、「R100GS」が圧倒的な優位を築けていたのかと言うと、必ずしもそうではありません。
なお、BMWモトラッドのフラットツインエンジンは、1993年からすべてをゼロから構築した新世代への移行を開始するのですが、そのトップバッターを務めたのはスポーツツアラーの「R1100RS」で、2番手の「R1100GS」がデビューしたのは1994年でした。
■位置づけが、「RS」と入れ替わった
というわけで、なかなか大人気には至らなかったフラットツインGSシリーズですが、オフロードテイストが濃厚だった「R80G/S」や「R100GS」とは異なり、オンロード指向のキャラクターに舵を切ったことが功を奏して、新世代の「R1100GS」は、「R1100RS」を上回る高評価を獲得します。
1994年にデビューした「R1100GS」は、第2世代フラットツインGSシリーズの1号車。最高出力は80ps、装備重量は243kgで、タイヤサイズはオンロード指向を多分に感じるフロント100/80-19、リア150/70-17となった。フロントサスペンションはBMWモトラッド独自のテレレバーを採用
そういった状況を考慮したBMWモトラッドは、1999年から展開を開始した「R1150GS」シリーズで、第1号車に「GS」を選択しました(RSは2番手に)。
もっとも、現代の視点で考えると「R1150GS」は過渡的な印象が強いモデルで、既存のフラットツインGSのユーザーの中には、「らしくない」と異論を述べる人がいたようです。
となると、フラットツインGSシリーズが現在の地位を獲得したのは、大幅なパワーアップと軽量化を実現し、本来のオフロード指向をある程度取り戻した、2004年型の「R1200GS」から……ではないでしょうか。「R1150GS」の最高出力/装備重量が85ps/262kgだったのに対して、「R1200GS」は100ps/240kgとなっています。
2004年に登場した「R1200GS」から、フラットツインGSシリーズは第3世代に進化。最高出力は100psで装備重量は240kg。タイヤサイズは「R1150GS」と同じフロント110/80R19、リア150/70R17
そんな「R1150GS」と「R1200GS」の人気に刺激を受けたようで、2000年前後は他メーカーから新世代のアドベンチャーツアラー、ホンダ「XL1000Vバラデロ」、スズキ「Vストローム1000」、カジバ「グランキャニオン900」、ドゥカティ「ムルティストラーダ1000」、トライアンフ「タイガー955i」、KTM「950アドベンチャー」などが続々と登場しました。
そしてBMWモトラッド寄りの意見を記すなら、他メーカーのライバル勢をきっちり迎撃したからこそ、フラットツインGSはアドベンチャーツアラー界の王者、という地位を獲得できたのだと思います。
■「GS」の進化に影響を及ぼした2台
ここからはちょっと長めの余談です。前述したように、フラットツインGSシリーズは、当初はオフロード色が濃厚だったのですが、1994年型でオンロード指向を強め、2004年型からは再びオフロード性能に力を入れるようになりました。そしてその路線変更には、以下の2台が影響を及ぼしたのではないか……と、私は感じています。
1990年代の欧州で大人気を獲得したヤマハ「TDM850」は、「XTZ750スーパーテネレ」の設計思想とエンジンの基本を転用して生まれたオンロード車。タイヤサイズは110/80-18(前)、150/70-17(後)で、ホイールトラベルは160mm(前)、140mm(後)。「XZT750スーパーテネレ」は90/90-21(前輪)、140/80-17(後輪)、235mm(前)、240mm(後)
1台目は、1991年にヤマハが発売した「TDM850」です。既存の「XTZ750スーパーテネレ」を、思いっ切りオンロード指向にしたと言うべきこのモデルは、アドベンチャーツアラーの美点を取り入れつつも、アドベンチャーツアラー特有の手強さを排除したのが特徴で、その資質が評価され、ヨーロッパでは大人気を獲得しました。
もっともBMWモトラッドも、1983年に「R80G/S」のオンロード仕様となる「R80ST」を発売しています。とはいえ、「R80ST」のセールはいまひとつだったようですし、時代の流れを考えれば「R1100GS」の開発陣にとって、「TDM850」は意識せざるを得ないモデルだったはずです。
そして2台目は、2000年、2001年にプロトタイプが公開され、2002年にパリダカールラリーで優勝を飾り、2003年から市販が始まったKTM「950アドベンチャー」です。
2003年から発売が始まったKTM「950アドベンチャー」は、KTM初の大排気量Vツイン車。タイヤサイズは90/90-21(前)、150/70-18(後)で、ホイールトラベルは前後230mm(上級仕様のSは前後265mm)
「R1150GS」を含めた同時代のライバル勢とは異なり、オフロード性能と軽さを徹底追求したこのモデルは、当時としては異端の存在でした。とはいえ、「950アドベンチャー」に刺激を受けたからこそ、「R1200GS」は原点回帰と言うべき路線を選択したのではないでしょうか。
もっとも、「R1100GS」と「R1150GS」で培ったオンロード性能の維持にもこだわった「R1200GS」は、「950アドベンチャー」と真っ向勝負ができるモデルではありませんでした。
2005~2008年に限定販売された「HP2エンデューロ」は、「R1200GS」以上に原点回帰の姿勢を感じるモデル。タイヤサイズは90/90-21(前)、140/80-17(後)でホイールトラベルは270mm(前)、250mm(後)。パリダカールラリーのレーサーである「R900RR」をルーツとするフレームは専用設計で、フロントフォークはテレスコピック式を採用
その事実が腑に落ちなかったのでしょうか、BMWモトラッドは王者としての矜持を示すべく、2005~2008年に限定車として、「950アドベンチャー」の性能(最高出力98ps、乾燥重量198kg、装備重量は非公表)を凌駕する、「HP2エンデューロ」(最高出力105ps、装備重量は199kg)を発売しているのです。
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