「第3のクルマ」というイノベーション! ホンダ「ストリーム」とはどんな乗りもの?
バイクのニュース / 2024年4月8日 19時40分
1981年にホンダから革新的な乗りもの「ストリーム」が登場しました。「スリーター」と呼ばれる原付の3輪スクーターは、現在の「ジャイロ・アップ」にも採用されるスイング機構を採用した、新感覚の走りを持っていました。
■乗用車の居住性とゆとり、2輪車のスムーズな軽快さ
2輪車の国内生産台数は、1980年には約650万台にまで増え、この時期にピークを迎えていました。1970年代はバイクの性能向上はもちろんのこと、エンジンや車体の構造や製造技術の現代化が進み、どんどん新しいバイクが生み出された時代です。
輸出車両では排気量1000ccクラスの大型バイクも登場しましたが、国内では50ccの原付バイクがビジネス実用車やスポーツモデル、さらにレジャーバイクやファミリーバイクまで、数多くのカテゴリーが誕生します。さらに各メーカーはそのカテゴリーそれぞれに複数台の車種を投入するほど飽和状態の市場になっていました。
近未米をイメージさせるスタイリングで登場したホンダ「ストリーム」(1981年型)は、左右にスイングするフロントボデイなど、全てが革新的な「スリーター」だった
そんなバイクブームの中で、革新的な乗りものが登場します。1981年に発売されたホンダ「ストリーム」です。「乗用車の居住性と快適さ」と「2輪車のスムーズで軽快な走り」を両立し、しかも経済的というバリューを持つ「第3のクルマ」というユニークな位置付けでした。
構造的にはフロント1輪/リア2輪の3輪車ですが、フロント部分はライダーの乗車スペースでもあり、旋回時はバイクの様に傾きます。フロント部分に連結したリア部分にエンジンや駆動系、リア2輪があるというものでした。
駐車中は4輪車のようにパーキングブレーキを使い、車体は傾くことなく固定されます。乗車する際はバックレストの付いたシートに腰かけ、足を前方へ伸ばし気味に座ります。それはまるで乗用車の運転席を思わせる、のびのびとした乗車姿勢と居住空間です。
既存のスクーターは膝を直角に曲げ、足をシートのすぐ前に置いていましたが、「ストリーム」は「ボンネットスタイル」と呼ばれたフロントカウル部分の下に設けられた広いステップフロアに足を伸ばします。シート高は658mmで、両足がラクに地面に届きます。
現代のスクーターでは一般的な前方に伸びるステップフロアは、この「ストリーム」から始まっています。
ライダーが乗車するフロント部分が傾くと、スイング軸の傾きによってリア部分がコーナーの出口へ向くよう設計。デファンレンシャルクラッチで回転差も吸収
メインキーの横のパーキングレバーを解除しても、フロント部分を垂直に保つ適度な復元力があります。スクーターのようにスタンドを払う動作もなく、セルモーターのボタンを押せばエンジンが始動し、ギアチェンジ不要のオートマチックなのでアクセルをひねれば発進、走行できます。
曲がる時にはバイクやスクーターと同じように、フロント部分がスイングするように傾いて旋回しますが、エンジンが搭載されているリア部分は2つのタイヤで踏ん張り、安定感のあるコーナリングを楽しめます。
スイングの回転はシート下部に位置するスイングジョイントユニットで行ないます。1本のリアショックはスイングユニットとフロント部分の間で作動するのでモノサスペンションのような乗り心地の良さです。
スイング軸には傾きをつけ、コーナーでスイングさせるとリア部分も曲がる方向にボディを振り向ける構造になっています。フロント部分を垂直に保つ適度な復元力は、同時にスイングする時の安定感も提供します。
この独特なスイングする新感覚の走りは、さまざまな場面で乗りやすさを提供し、ロングホイールベースの3輪構造により、バイクでフラついてしまうような超低速走行でも優れた直進安定性を発揮します。
乗用車的なスピードメーター。手前のパーキングレバーをセットするとスイングジョイントと後輪軸を同時にロックし、自立するのでスタンドの必要がない。インナーレッグシールドにはグローブボックスも装備
3輪による優れたブレーキ性能で、リア2輪を均等に制動するイコライザー機構を備えていました。
また後輪の駆動軸に内蔵されたデファレンシャル・クラッチにより、回転差が調整されてシャープなコーナリングやスラロームも楽しむことができました。
新設計のエンジンは最高出力3.8PSと、当時の同クラスのスクーターと比べても最高レベルの性能を発揮しています。
ユニークなスタイリングは未来的でその個性と魅力を十分に表し、100m先からでも「ストリーム」であると認識できるデザインでした。
シート下部付近のスイングユニット。フロントボディとは分離しており、旋回時は後輪から押されながらバンク方向にスイングする。さらにスイングアームのような上下方向にも動く
1981年に原付ブームが沸騰する中で登場した「スリーター」の初号機でしたが、残念ながら後継車はありません。「ストリーム」というモデル名は、後年ホンダの4輪車で使用されました。
「スリーター」シリーズとしては、「ジャイロX」(1982年)や「ジャイロ・アップ」(1985年)が登場し、「ジャイロ・キャノピー」(1990年)などが現在でも食品デリバリーなど多彩な活躍を見せています。
また2021年には「ジャイロ・キャノピーe:」や「ジャイロe:」といった電動モデルとして、その姿を継承しています。
ホンダ「ストリーム」(1981年型)の当時の販売価格は19万8000円です。
■ホンダ「ストリーム」(1981年型)主要諸元
エンジン種類:空冷2ストローク単気筒
総排気量:49cc
最高出力:3.8PS/6500rpm
最大トルク:0.46kg-m/5500rpm
全長×全幅×全高:1665×570×970mm
シート高:658mm
車両重量:74kg
始動方式:セル、キック併用
燃料タンク容量:4L
タイヤサイズ(前後):3.00-8-2PR
フレーム形式:低床バックボーン
【取材協力】
ホンダコレクションホール(栃木県/モビリティリゾートもてぎ内)
※2023年12月以前に撮影
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