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ホンダのスクーター第2弾「ジュノオM型」は「E-クラッチ」の元祖? 世界GP初優勝の年に市販した変速機の革命

バイクのニュース / 2024年5月20日 19時40分

1961年に登場したホンダ「ジュノオM型」は、スクーターとしては常識はずれの排気量125ccの水平対向OHVエンジンを前輪ギリギリの位置に搭載し、世界に類を見ない油圧式の自動変速機を組み合わせた、ホンダ初のオートマチック・スクーターです。

■スクーターの概念を変える可能性を持っていた意欲作

 戦後とともに始まった国産スクーターの第1次流行期は、1970年ぐらいまで約20年ほど続きました。1959年のピーク時には自動二輪車全体の約15%である12.5万台が生産されています。当時は免許制度などの影響で、排気量は125ccから200ccが中心でした。原付スクーターが台頭する第2次流行期は、1980年代に入ってからです。

ホンダのスクーター第2弾「ジュノオM型」の水平対向2気筒OHVエンジンは、排気量124ccと169ccのバリーションがあった。写真は排気量169ccの「ジュノオM85型」(1962年型)ホンダのスクーター第2弾「ジュノオM型」の水平対向2気筒OHVエンジンは、排気量124ccと169ccのバリーションがあった。写真は排気量169ccの「ジュノオM85型」(1962年型)

 1961年に登場したホンダ「ジュノオM型」は、そんなスクーター流行時の、ホンダのスクーター「JUNO(ジュノオ)」第2弾でした。

 1954年に発売されたホンダ初のスクーター、初代「ジュノオK型」は、全天候型アクリルルーフ+プラスチックボディという斬新な新機構を満載したモデルでした。

 その2代目となる「ジュノオM型」の外観は、現代のビジネススクーター的で初代とは大きく異なります。そしてその見どころは、エンジンや変速機などのメカニズムにありました。

 今も昔も、スクーターはシートの下付近にエンジンを搭載していることが常識です。世界で最も有名なイタリア製のスクーターは、後輪軸上にエンジンを搭載しています。

 一方「ジュノオM型」のひとつ目の特徴である空冷4ストローク水平対向2気筒OHVエンジンは、ステップボード前方(ハンドルの真下)にレイアウトされています。

 当時、国産スクーターでは少数派の4ストロークで、さらに水平対向2気筒エンジンのスクーターは、世界でも類を見ないと思われます。

 ちなみに、世界で初めての量産の排気量125ccの2気筒エンジン車は、1958年発売のホンダ「ベンリイC90」です。その3年後のスクーターに水平対向2気筒エンジン投入するとは驚きです。

1962年発売の「ジュノオM85型」は、エンジンをフットボードの前、前輪の後ろギリギリに配置し、長い油圧式変速機を経由してチェーンで後輪を駆動する1962年発売の「ジュノオM85型」は、エンジンをフットボードの前、前輪の後ろギリギリに配置し、長い油圧式変速機を経由してチェーンで後輪を駆動する

 そして「ジュノオM型」で最も注目すべきは、ホンダ初の二輪車用自動変速機(いわゆるオートマ、ATのこと)です。当時の国内各社のスクーターは、Vベルトやトルコン(トルクコンバーター)、自動遠心クラッチ(クラッチレバー操作併用のものもあり)などのさまざまな自動、または簡単な操作の変速装置を装備していました。

「ジュノオM型」で開発された変速装置「HRD」(Honda R&Dの頭文字)は、いずれの変速装置とも違う、世界的にも珍しいものでした。原型はイタリアのバダリーニ社が開発した無段変速機「HMT(Hydraulic Mechanical Transmission)」で、特許権を取得したホンダが独自に改良を加え、水平対向エンジンと組み合わせました。

 構造的にはエンジン出力を油圧に変換し、回転板が任意の角度で変速比を発生させ、再び回転力に変換して後輪へ出力されます。

「ジュノオM型」では左手グリップを捻ることでクラッチ操作なしにローギアサイド/ハイギアサイドへと任意に変速できました。ただしATとは違い、常に左手で変速操作する必要があり、運転には慣れが必要だったようです。

 HRDは理論的にはトルコンよりも出力伝達効率に優れていました。エンジンも当時としては高出力の11PSを発揮しましたが、オイル漏れの懸念から高圧な油圧作動が達成できず、その伝達効率は当初の想定を大幅に下回っていました。

 最初に排気量124ccのM80型、その後に169ccのM85型を発売しましたが、結果的に1963年までの3年間で5880台を生産するに留まりました。

左手グリップを進行方向に捻るとローギア、手前に捻るとハイギアに変速する。右手のウインカースイッチは上下にスライドするタイプで、上→右/下→左となっている左手グリップを進行方向に捻るとローギア、手前に捻るとハイギアに変速する。右手のウインカースイッチは上下にスライドするタイプで、上→右/下→左となっている

 ホンダは創業当初から、手で行なっていたクラッチ操作を省き、左足だけでギアチェンジできる機構を「ドリームD型」に搭載していました。それから60年にもおよぶホンダの自動変速へのチャレンジが始まります。

「ジュノオM型」のHRDも、その思いの中のひとつです。また自動遠心クラッチ搭載の「スーパーカブ」は大ヒットしますが、「ホンダマチック」と呼ばれるトルコンを「CB750FOUR」に搭載した「EARA(エアラ)」(1977年発売)等はヒット作とはなりませんでした。

 そして月日は流れ、HRDは「HFT(Human Fitting Transmission)」と名称を変更し、モトクロスバイクの「RC250MA」に搭載されて1990年に全日本モトクロス選手権でチャンピオンを獲得します。

 HFTは市販化への試行錯誤を繰り返し、2000年に北米向け4輪バギー「TRX500FA フォートラックス・ルビコン」や、大型ツアラーモデル「DN-01」にも搭載されました。

 ホンダの自動変速への挑戦は終わらず、2010年には「DCT(Dual Clutch Transmission)」、さらに2023年にはシフト時にクラッチレバー操作が必要ない「Honda E-Clutch」も登場しました。

前側から見た水平対向2気筒エンジン。排気量169ccなのでコンパクト。低重心化にも効果があった模様前側から見た水平対向2気筒エンジン。排気量169ccなのでコンパクト。低重心化にも効果があった模様

 ホンダ「ジュノオM85型(1962年)」の当時の販売価格は16万9000円です。

■ホンダ「ジュノオM85型」(1962年型)主要諸元
エンジン種類:空冷4ストローク水平対向2気筒OHV
総排気量:169cc
最高出力:12PS/7600rpm
全長×全幅×全高:1820×675×1030mm
車両重量:157kg(乾燥)

【取材協力】
ホンダコレクションホール(栃木県/モビリティリゾートもてぎ内)
※2023年12月以前に撮影

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