「リッター馬力」って、どういう意味?
バイクのニュース / 2024年5月21日 11時10分
バイクの性能や魅力はパワーがすべてではありませんが、やっぱり最高出力は気になります。とはいえ排気量が大きいほどパワーが出るのは、ある意味で当たり前。それなら、排気量が異なるエンジンの性能は何を基準にすれば良いのでしょうか。
■「リッター100馬力」が目標だった
本格レースにも登場する、いまどきの排気量1000ccクラスのスーパースポーツは、いまや200馬力オーバーが当たり前で、とてつもないパワーを発揮します。しかし半世紀以上昔、国産バイクが世界に打って出た1970年代頃は、高性能なスポーツバイクの最高出力の指針として「リッター100馬力」という言葉がありました。
初めての「CB」であるホンダ「ベンリィCB92スーパースポーツ」(1959年発売)は、排気量124ccで最高出力15馬力、リッター121馬力を発揮
「リッター馬力」とは、「排気量を1000ccに換算したら何馬力になるのか?」という数値のことで、排気量が異なるエンジンを比較する際に用いられました。そして当時は、高性能エンジンは「リッター100馬力」を達成するのが目標とされていました。
計算はいたって簡単で[最高出力(PS)÷排気量(cc)×1000=リッター馬力]です。
当時、リッター100馬力を目標としていたのは4ストロークエンジンで、じつは2ストローク車はリッター100馬力を超えているモデルも少なからず存在しました。これは4ストロークがクランクシャフト2回転で1回爆発するのに対し、クランク1回転ごとに毎回爆発する2ストロークの方が馬力を稼ぎやすかったためでしょう。
ちなみに、国産メーカーが2ストロークでパワーを競う中、ホンダは当時から4ストロークで勝負していました。「CB」の名を始めて冠した「ベンリィCB92スーパースポーツ」は排気量124ccで最高出力15馬力、すなわちリッター121馬力を達成していました。
とはいえ、当時のホンダのスポーツモデルはほとんどレーシングのような作りのため、プライスも飛び抜けていました。
■400クラスで、初めてリッター100馬力を達成したのは?
ホンダから「CB750FOUR」(1969年発売)が登場した頃、あまりのハイパワーと事故の増加などの社会問題から、1969年以降は国内販売モデルの排気量上限の自主規制ができました。そこで有名なのが、カワサキの輸出モデル「900 Super4」こと「Z1」と、国内モデルの「750RS」こと「Z2」です。
当然ながら排気量で勝る「Z1」の方がハイパワーですが、リッター馬力に換算すると90.8馬力となり、「Z2」がリッター92.8馬力で勝っています。
1977年発売のホンダ「HAWK II CB400T」は、排気量375ccで最高出力40馬力、リッター101.3馬力。4ストロークの400ccクラスで初めてリッター100馬力を超えた
そして猛威を振るう暴走族対策などから、1975年に免許制度の改正が行なわれ、当時の国内のスポーツバイクは250ccや400ccが主軸になりました。そのためホンダ以外のメーカーも4ストロークに力を入れ始めましたが、400ccで初めてリッター100馬力を達成したのは、やはり先行していたホンダで、1977年発売の「ホークII」でした。
1980年代初頭に空前のバイクブームを迎えると、とくに250/400クラスは目まぐるしくパワーアップします。4ストロークの400は4気筒化してリッター150馬力に迫る勢いで、2ストロークの250はほとんどレーシングマシンのような作りとなり、リッター180馬力を超えました。
■まさかの自主規制で、パワー競争は終了か?
1980年代のパワー競争は目を見張るものがあり、その後ますますパワーアップ……と思いきや、そうはなりませんでした。なんと「最高出力の自主規制」が始まったのです。レーサーレプリカ系の事故が増えたり、原付(50cc)では使用目的に対して性能が高過ぎるなど(真偽は定かではないが)、諸々の理由により、排気量に応じて最高出力が制限されたのです。
1989年に馬力自主規制が明文化され、1992年には250ccと400ccがさらに引き下げられた(参考として各排気量クラスのリッター馬力も表記)
こうなると「リッター馬力」もあまり意味を成しません。数値的に当初は250cc、後半は125ccがリッター馬力で優れている……、というだけのモノになってしまいました。
1990年には国内販売の排気量上限の自主規制が撤廃され、スズキの「GSX1100S KATANA」やカワサキの「GPZ900R」(いわゆるNinja)、ヤマハの「VMAX」などの国内販売が始まりました。
……が、馬力上限の自主規制は継続されます。こうなるとリッター馬力どころか、同一モデルでも輸出仕様車と国内販売モデルでは最高出力が大きく異なり、「逆輸入車がエライ」みたいな風潮や、なんとなく不公平感が漂いました。
■リッター馬力は、どこまで行く?
そして2007年7月、日本自動車工業会と国土交通省の合意のもとに、最高出力の自主規制が撤廃されました。ところが、かつてのようなパワー競争が再燃! とはなりませんでした。
すでに騒音規制と排出ガス規制が厳しさを増す時代に突入にしており、これらの規制をクリアすること自体が高いハードルになっていたからです(この時点で排出ガスで不利な2ストロークエンジン車は姿を消すことに……)。
もはや最高出力にこだわるのは、スーパーバイクレースのベース車両にもなる1000ccスーパースポーツのみ、という状況になっていました。
カワサキ「Ninja ZX-4R」(2024年モデル)は、排気量399ccで最高出力77馬力(ラムエア加圧時80馬力)なので、リッター馬力は193馬力(ラムエア加圧時はリッター200.5馬力)
そんな厳しい時代に、カワサキは2020年に新開発の4気筒エンジンを搭載した「Ninja ZX-25R」を発売し、現行モデルはなんとリッター196.8馬力(ラムエア加圧時)。さらに2023年にはリッター200.5馬力(ラムエア加圧時)の「Ninja ZX-4R」が登場しました。これらは1000ccスーパースポーツに迫る数値です。
バイクのスポーツ性能は、もちろんパワーがすべてではありません。しかし、最高出力の追求や進化が止まってしまうことには寂しさも感じます。その中で「ZX-25R」や「ZX-4R」の登場は、希望の光にも見えるのではないでしょうか。
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