憧れだった「ナナハン」は、もはや死語!?
バイクのニュース / 2024年6月4日 11時10分
「僕も昔は“ナナハン”に乗っていたんだよね」と、パーキングなどで自慢げに声をかけてくるオジサンの姿を目にすることが稀にありますが、熟年ライダーにとって、どうして「ナナハン=排気量750cc」は特別な存在なのでしょうか?
■「ナナハン」は、開発時のコードネームだった
バイクの排気量は、250(ニヒャクゴジュウ)や1000(セン)などと呼びますが、なぜか750(ナナヒャクゴジュウ)は「ナナハン」と呼びます。そして熟年ライダーは、ナナハンという呼び名と排気量に憧れや畏怖を感じる方も多いようです……が、なぜ750ccを特別視するのでしょうか?
ホンダが1969年に発売した「ドリームCB750FOUR」は、国内外で大人気を誇った
まずナナハンの呼び名ですが、これはホンダが1969年に発売した「ドリームCB750FOUR」が由来です。市販量産車初の4気筒エンジンや、当時高性能スポーツで鳴らした英国製バイクを超える750ccの排気量、油圧式ディスクブレーキなど多くの“世界初”や“最大・最高”のスペックを持つ「CB750FOUR」だけに、開発中は国内外のライバルメーカーに察知されないよう、機密保持のために「ナナハン」と呼んでいました。それを後に、雑誌記者が一般に広めた……と言われています。
ところが高性能な「CB750FOUR」の登場で、バイク事故の増加や暴走族などの社会問題がクローズアップされるようになりました(もちろん、バイクに責任はありません)。そして国内のバイクメーカーは、国内では750ccを超える排気量のバイクを販売しない自主規制を設けました。
この自主規制により、カワサキは「900 Super4」いわゆる「Z1(ゼットワン)」を輸出モデルとして製造し、国内では「750RS」いわゆる「Z2(ゼッツー)」を販売しました。
カワサキの輸出モデル「900 Super4」いわゆる「Z1(ゼットワン)」のボア×ストロークを再設計し、排気量を746ccに縮小した国内モデルの「750RS」(写真)いわゆる「Z2」は、「ゼッツー」の愛称で親しまれた
排気量の自主規制は外国車や輸入車は対象外でしたが、それらは“高嶺の花”で簡単には手に入らず、国内のバイクの最大排気量は、実質的に750ccになりました。そして「CB750FOUR」のナナハンの呼び名が“750ccの総称”になり、大排気量のナナハンに乗ることがステータスになったのです。
さらに暴走族や増加するバイク事故の対策として、1975年に二輪の免許制度が改定され、それまでの自動二輪免許はすべての排気量に乗れましたが、1975年からは中型限定自動二輪(400ccまで)と、小型限定自動二輪(125ccまで)ができました。
しかも教習所で取得できるのは中型限定自動二輪までで、現在の大型自動二輪に相当する自動二輪免許は「限定解除」と呼ばれ、取得は運転試験場での一発試験のみでした。それは容易に免許を取らせないことが目的なので、当時の合格率は1~3%ほどで、取得するには非常に高いハードルがありました。
その影響も大きく、「ナナハン」はいっそう特別な存在になったのです。
■漫画の主役は、もちろんナナハン
そして当時の漫画にもナナハンが登場します。1975年に週刊少年チャンピオンで『750ライダー(ナナハンライダー)』の連載がスタートしました。
漫画『バリバリ伝説』の主人公、巨摩郡(こまぐん)が登場時に乗っていたホンダ「CB750F」は、1981年のFB型と思われる
そして1980年代は空前のバイクブームとなり、週刊少年マガジンで1981年に『あいつとララバイ』が、さらに1983年から『バリバリ伝説』の連載が始まりました。いずれも高校生の主人公がナナハンに乗っていることが共通点で、いまだバイク漫画の金字塔と言えるでしょう。
これらの漫画に憧れ、非常にハードルの高かった運転試験場の限定解除試験に挑戦したライダーは数多く存在しました。
■「オーバーナナハン」が続々登場して……
ところが、「ナナハンがエライ!」という風潮は、1980年代後半頃から変化してきました。現在も人気の高いカワサキ「GPZ900R」(いわゆるニンジャ)や、スズキ「GSX1100S KATANA」の登場から数年が経ち、「逆輸入車」を扱うショップが増えたり、プライスも高いとはいえ徐々にこなれて手に入りやすくなってきました。
そして1990年には排気量上限の自主規制が撤廃され、実質上最大排気量だったナナハンの長い時代は終わりを告げ、次々と「オーバーナナハン」の国内販売が始まりました。
ちなみに、次なる自主規制として「馬力の上限」が1989年から始まっており、750ccを超える車両は上限が100psと決められたので、せっかく登場したオーバーナナハンですが、国内仕様は輸出モデルより大幅にパワーダウンされました。
1985年に登場したヤマハ「VMAX1200」。1990年の排気量上限自主規制の撤廃後、運輸省型式認定第1号となった国内モデルの最高出力は98馬力(輸出仕様は145馬力)だった
そのため、この時代は「ナナハンがエライ!」から「逆輸入車がエライ」に変わったイメージがあります(国内の馬力自主規制は2007年に撤廃)。
■身近になった大型免許で、ナナハンのステータスが消えた
1990年代に入って国内の排気量上限の自主規制が撤廃されたり、輸入車(外国車や逆輸入車)が入手しやすくなったりしましたが、1995年にはついにバイクの免許制度が改定され、排気量無制限の大型自動二輪免許が自動車教習所で取得できるようになったのです。
こうなると、せっかく大型免許を取ったのだからビッグバイクに乗りたい……と思うのが人情というモノ。それに呼応するように、1000ccを超える大排気量車も多数ラインナップされ、もはやナナハンにこだわる理由は無くなった……と言えるでしょう。
1998年に発売されたヤマハ「YZF-R1」は、リッターバイクとは思えない軽量・コンパクトな車体に排気量998ccエンジン搭載し、150馬力を発揮。現在の1000ccスーパースポーツの祖と言えるバイク
かつては大排気量と高性能の証であり、ステータスでもあったナナハンですが、このような時代背景を経て激減し、現在は国内メーカーでナナハンを生産しているのはホンダのみとなり、キャリアの長い熟年ライダーは少々寂しく感じているかもしれません。
とはいえ現在、全国の自動車教習所の大型自動二輪免許の教習車はホンダ「NC750L」(市販モデルのNC750X、または前モデルのNC750Sがベース)が主流で、じつは多くのライダーが「ナナハン」のお世話になっているのです。
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