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【インタビュー】Moto2小椋藍選手、カタルーニャGPの優勝に「安堵」の意味。長年コンビを組むクルーチーフが語る「小椋藍の強さ」とは

バイクのニュース / 2024年6月4日 14時10分

Moto2クラスに参戦する小椋藍選手(MTヘルメット - MSI)は、2022年の日本GP以来、1年半ぶり、そしてMTヘルメット - MSIに移籍して初の優勝をカタルーニャGPで飾りました。この優勝について、小椋選手と、小椋選手のクルーチーフであるノーマン・ランクさんに聞きました。ランクさんには小椋選手の強さの背景などについても質問したところ、とても詳しく答えてくれました。

■今シーズン初優勝を飾った小椋選手、その心境を語る

 2024年のMotoGP第6戦カタルーニャGPのMoto2クラス決勝レースで、小椋藍選手(MTヘルメット – MSI)がシーズン初優勝を飾りました。2022年の日本GP以来、1年半ぶりの優勝でした。

2024年のMotoGP第6戦カタルーニャGPで、今季初優勝を飾ったMoto2クラス小椋藍選手(#79/MTヘルメット - MSI)2024年のMotoGP第6戦カタルーニャGPで、今季初優勝を飾ったMoto2クラス小椋藍選手(#79/MTヘルメット - MSI)

 レースの展開を、おおまかに振り返りましょう。4列目10番手スタートだった小椋選手は、素晴らしいスタートを切って、1コーナーの時点で3番手に浮上していました。序盤は周囲もタイヤがフレッシュな状態だったために少しポジションを落としましたが、周回を重ねながらポジションを上げていきました。残り4周でトップに立ち、先頭でチェッカーを受けたのです。

 カタルーニャGP後、連戦であるイタリアGPの開催地ムジェロ・サーキットで、小椋選手にこの優勝についてインタビューをしました。

「序盤にあまり攻めすぎなかったので、それが結果的に良かったということですね」と、小椋選手は終盤まで維持したペースについて語ります。小椋選手が選んだタイヤは、フロント、リアともにソフトでした。小椋選手は、レース終盤に向けてリアタイヤを温存していたのです。

「レース中にリアタイヤをセーブしたい場合は、フロントを多く使ってタイムを出していく方向でリアをセーブします。逆にフロントをセーブしたいなら、スロットルを開けるところで頑張って、タイムを維持しながらフロントを長くもたせる。そのどちらかになると思うんです。そういうところを理解して走れていたんだと思います」

 残り4周でチームメイトのセルジオ・ガルシア選手をかわし、トップに浮上したときの心境を尋ねると、小椋選手は淡々と「僕がガルシアを抜いたときは、彼のタイヤがだいぶ終わっていたころだったんです。ミスなく走っていれば(優勝できると)思っていました」と言います。

「(1年半ぶりの優勝という期待や緊張は)なかったですね。最後まで争っていたわけじゃなく、周回ごとに差が開いていく展開でしたから」

今シーズン初優勝を飾った表彰台で、笑顔を見せた小椋選手今シーズン初優勝を飾った表彰台で、笑顔を見せた小椋選手

 小椋選手にとっては、1年半ぶりの優勝というよりも、「ボスコスクーロ」勢として優勝できたという安堵のほうが大きかったそうです。2024年シーズンのMoto2クラスでは、小椋選手を含む2チーム4名のフル参戦ライダーが、ボスコスクーロのシャシーを使用しています。

「チームメイトも今年は調子が良いし、チームの中でもチームメイトが勝っている状況。ボスコスクーロ内でも、僕以外はみんな優勝していました。僕もそこに混ざれてよかった、という安心感はありましたね。勝てていないのは自分だけだったから」

「(2022年日本GP以来の優勝というのは)とくに気にしていなかったです。今年のパッケージでまず1勝できたことへの喜びの方が大きかったです」と言う小椋選手に、勝てずにいた1年半、焦りはなかったのか、と質問しました。

「もちろん、勝ちたいとは思っていましたけど、焦りはないですね。勝てるときは勝てるし、勝てないときは勝てない、と思っているので。焦り、というのはなかったです」

 2023年シーズンは開幕戦前に負った左手首の負傷、序盤の欠場が響き、未勝利に終わりました。小椋選手の目標は、チャンピオン獲得です。優勝しなければ必ずしもチャンピオンになれないわけではありませんが、タイトル争いが難しくなるのは確かです。しかし、小椋選手はやはり、「焦燥感などはなかったです」と繰り返すのです。

「だめでも自分が足りないんだな、と思うだけですから。もちろん、自分に残念な気持ちにはなりますけど、それは焦りとは違います。焦りはなかったです」

 淡々と自分のやるべきこと、改善すべきことに注力する、小椋選手らしい答えでした。その取り組みが、こうして再び小椋選手を優勝に導いたのでしょう。

■長年、隣にいたノーマン・ランクは、小椋藍の強さをこう見る

 そして今回は、小椋選手のクルーチーフを務めるノーマン・ランクさんにも話を聞くことができました。

 ランクさんは小椋選手がFIM CEVレプソルMoto3ジュニア世界選手権に参戦した2017年からコンビを組んでおり、今季、小椋選手がイデミツ・ホンダ・チームアジアからMTヘルメット – MSIに移籍した際にも、小椋選手の希望で共に移籍しています。

「自分にとってほかのメカニックとは違う、特別な存在です」と、小椋選手が信頼を寄せるクルーチーフなのです。

長年、小椋選手のクルーチーフを務めるノーマン・ランクさん長年、小椋選手のクルーチーフを務めるノーマン・ランクさん

 ランクさんは、「外は騒がしいから」と言って、チームのトラックに案内してインタビューに応じてくれました。

 元々はライダーだったドイツ人のランクさんは、ヨーロッパ選手権やドイツ選手権などに参戦したのちに、50ccから125ccのレーシングバイクをレンタルする会社を設立。元GPライダーがそのバイクをレンタルした縁で、クルーチーフとして、MotoGPのパドックでの仕事をスタートしたそうです。初めてのインタビューでしたが、ランクさんはとても饒舌でした。

「ル・マンですでに、我々が正しい方向にあるのだという大きな兆候は見えていた。我々のターゲットはただレースに優勝することではない。チャンピオン争いをすることだ。だから、カタルーニャはとてもうれしかったよ。我々があまり強くないサーキットで、彼(小椋選手)が勝ったんだからね」

 カタルーニャGPの小椋選手の優勝についてそう語ったランクさんに、小椋選手のタイヤマネージメントについて尋ねました。カタルーニャGPでは、フロントにミディアムタイヤを選択するライダーがいる中、小椋選手は前後ソフトを選択。そして、フランスGPに続き、後方からの追い上げと終盤でのオーバーテイクに成功しているのです。

「ピレリのタイヤ選択は、少し違うんだ。ミディアムタイヤは、硬めのタイヤ、というだけではない。ミディアムタイヤで旋回性が良いと感じるライダーもいるし、シャシーにもよるが、ソフトのほうが良いというライダーもいる」

「ただ、最も重要なことは、彼がタイヤをゆっくり理解しているということだ。彼はライディングスタイルを適応させている。序盤はフロントタイヤをより多く使ってラップタイムを稼いだ。レース終盤に立ち上がりでタイムを稼ぐのにリアが必要だと知っていたからだ。つまり、レース中に彼は自分のスタイルを変えたんだ。レースを正しく理解していたということだ」

 小椋選手の優勝を含め、ボスコスクーロ勢が今季、5勝を挙げています。結果を見るとボスコスクーロはカレックスよりも優れた部分があるのではないか、と思えます。しかし、これについて、ランクさんは否定しました。

「外からはそう見えるだろう。確かにバイクは良いが、バイクだけではないんだ。ライダーのためにバイクをセットアップしなければならない。今季、4台のボスコスクーロが参戦していて、ライダーのセットアップはかなり違う。ボスコスクーロのライダーチョイスは、非常に賢い。トップクラスの4人のライダーを揃えたことで、パッケージが良くなった。4人の速いライダーがいる。つまり、ひとつのセッションで4つの良いタイムがある。連鎖反応のようなものだ」

「カレックスはライダーチョイスがちょっとアンラッキーだった。カレックスを使っている(チェレスティーノ・)ヴィエッティはチームを移籍して、新しいサスペンション、WPを使うことになった。それで今は苦しんでいるんだ」

クルーチーフはライダーにとって重要な存在。コース上ではライダーは1人で戦わなければならないが、本当の意味で戦っているのは、1人ではないクルーチーフはライダーにとって重要な存在。コース上ではライダーは1人で戦わなければならないが、本当の意味で戦っているのは、1人ではない

 それでは、ランクさんが見る小椋選手の強みは何でしょうか。タイヤマネージメントか、ブレーキングか……。しかしランクさんは、最初に週末のアプローチを挙げたのです。その答えは、カタルーニャGPの優勝の要因につながるものでした。

「最も優れている点は、バイクをセットアップするために、私やクルーと共にその週末をどう始めるのか、どう考えるのか、どのように分析するのか、という取り組み方だ。セッションの度にバイクを改善し、彼自身のライディングも向上させていくんだ。そして、多くはないが、はっきりとしたコメントをする」

「常にレースペースについて考え、取り組んでいる。1発の速さについてはそこまで気にしていない。彼は、10周を速く走るセットアップを望んでいる。たった1周のスーパーラップではなくね。レースでは10周、20周の安定したラップタイムが必要だ。そして、タイヤをマネージメントしなければならない。つまり、ユーズドタイヤでできるだけ長くラップタイムを維持することが、彼の最も優れている点だと思う」

「また、レースでバトルになったときに、バイク、タイヤの状態が良ければ、ほとんどの場合、彼が勝つ。彼は、ブレーキングでとても強いんだ。バイクの止め方を知っている。でもそれは、分析的、実践的に取り組み、週末をスタートし、我々と取り組んだ結果なんだ」

 さらにランクさんは「彼の長所は、目標をたったひとつに絞っていることだね」と言います。確かに、外側から取材をする身としてさえ、小椋選手の目標に向かう凄まじい集中力とそれに対する尽力は感じるものがありました。

「できるだけ速く走り、レースで目標を達成すること以外に、彼は注意を払っていない。わたしにはそう見える。ほかのことにかけている時間はない。そこに全てのエネルギーを注ぎ、努力しているんだ。彼にとって大事なことは、ここで勝つこと、そしてチャンピオンになることだ。彼は世界選手権でランキング5位、6位で終わるライダーではない。彼はレースに勝つ人間だ。そうとは口に出さずとも、彼はそれを知っている」

「小椋藍がノーマン・ランクに信頼を寄せている」ように、「ノーマン・ランクもまた、小椋藍をリスペクト」していることが窺えました。

 そこで、「MTヘルメット – MSIにともに移籍したとき、迷いはなかったのですか?」と聞きました。ライダーと同じように、クルーチーフにとってもキャリアは重要です。そこには大きな決断と、決断させたものがあったはずです。

 一方で、ライダーにとっては、自分に理解のあるクルーチーフが結果にとって重要なもののひとつであると言えるでしょう。バレンティーノ・ロッシ選手とジェレミー・バージェス、マルク・マルケス選手とサンティ・エルナンデス、Moto3クラス時代の佐々木歩夢選手とエマヌエーレ・マルティネッリなど、チャンピオンやチャンピオンを争ったライダーたちには存在の大きなクルーチーフがいることも少なくありません。

「なかった。迷いはなかったよ」と、ランクさんはきっぱりと言い切りました。

「私たちはとても良いデータベースを持っていて、お互いを知っているし、彼はとても特別なんだ。1人で新しいチームに行けば、彼がスタッフを信頼するのに、スタッフが彼を理解するのに半年かかる。私は彼を知っている。長いこと一緒に仕事をしているからね。そして、ここが彼をMotoGPに昇格させるプロジェクトを完了させるポイントだ。私はお金や仕事のためにここにいるのではない」

「数年前に彼のような才能あるライダーと出会えて、私はラッキーだよ。彼とともに成長して、彼から多くのことを学んだよ。クルーチーフというのは、ライダーに教えるだけではないんだ」

「私たちはすでに2度、チャンピオン争いをした。どちらも最終戦まで争ったが、チャンピオンを獲得できなかった。チャンピオン獲得のためにはたくさんのことが完璧でなければならないし、運もある。しかし、それは私たちの誇りでもある。最終戦までMoto2、Moto3クラスでチャンピオンを争ったんだ。昨年は負傷をした。しかし、今年は再びチャンピオン争いをするよ。私としては、このプロジェクトに参加できて、これ以上嬉しいことはないんだ。それが、質問に対する答えだよ」

 2024年シーズン、小椋選手は優勝という形でチャンピオン争いに名乗りを上げました。カタルーニャGP終了時点で、Moto2クラスのチャンピオンシップのランキング3番手につけています。ここから、ランクさんとともに3度目のチャンピオン争いに臨むはずです。

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