【MotoGP現場ぶら歩き】山に囲まれたムジェロ・サーキットに感じたコントラストと、コース“外”で上がるエキゾーストノート
バイクのニュース / 2024年6月30日 12時10分
MotoGP第7戦イタリアGPの取材のために、ムジェロ・サーキットに行きました。初めて訪れたそこでは、ムジェロ・サーキットの「顔」を少しだけ、知ることができたように思います。
■あらためて実感、サーキットにも個性がある
MotoGPのイタリアGPが開催されるムジェロ・サーキットは、イタリアの中部、トスカーナ地方に位置するサーキットです。わたし(筆者:伊藤英里)にとっては、今回が初めてのイタリアGPの現地取材でした。ムジェロ・サーキットを初めて訪れたわけです。
サーキットのエントランスには巨大ヘルメットがあって、中は小部屋のようになっていた
それまで滞在していたブルガリアの首都ソフィアからローマで飛行機を乗り継ぎ、フィレンツェ・ペレトラ空港でレンタカーをピックアップして、フィレンツェの宿に向かいました。空港から宿までは約8kmの道のりです。ムジェロ・サーキット近郊の大きな街は、フィレンツェになるでしょう。
今回予約した宿は、アパートメントタイプでした。イタリア語しか通じないオーナーと翻訳アプリを使って会話します。なんとも便利な時代になったものです。そして、宿の説明を終えたイタリアン紳士に、いつもの質問をしました。機会があれば、わたしは現地の人にこの質問をすることにしています。
「MotoGPは見ていますか?」
彼は少し困ったように「今は見ていないんだ。以前は見ていたんだけど、今は(視聴するのに)有料になってしまったからね……」と答えてくれました。
そのイタリアン紳士は、サッカーファンなのだそうです。とはいえ、「MotoGP」が説明なしで通じるあたり、イタリアだなと感じます。カタールやブルガリアでは、「MotoGPというのはね……」という説明から始めなければならなかったのですから。
日曜日のMotoGPクラスの決勝レース後の様子。多くの観客がピットレーンとメインストレートになだれこんでいた。イタリアだけにバレンティーノ・ロッシのゼッケン「46」のグッズを身に着けた人も多かったが、それ以上にドゥカティの赤をまとう人が多かったように思う
さて、フィレンツェの空港から宿まではとても近くて便利なのですが、ムジェロ・サーキットとフィレンツェはクルマで片道約40kmの道のりです。わたしが泊まっていたフィレンツェ西部にある宿からムジェロ・サーキットまでは、高速道路と片側1車線の一般道、そしてすれ違うのもやっとな道幅の道を走ります。
サーキット周辺の道ではサーキットやその近くでテント泊でもしているのだろうファンたちがわいわい話しながらふらふらと歩いているので、本当にドキドキです。レースウイークの往復はなかなかに大変でした。
山の間を縫って高速道路を走り、現地に着いてみると、サーキットがどんな場所にあるのかがわかります。ムジェロ・サーキットは周りを山に囲まれた場所にあるのです。駐車場から、最も低い位置にあるパドックとメインストレートが見下ろせるのです。パドックやピットレーンを歩きながら目線を上げると、眼前には山々がそびえていました。そんな中、レーシングマシンのエキゾーストノートが響き渡っているのです。
今回は、コースの前半の3分の2ほど、コースサイドを歩いてみました。実際に歩くと、アップダウンの大きさがわかります。くねくねとS字のカーブが続き、上ったかと思えば下り、そして長い長いメインストレート。
標高差は41.19mで、メインストレートは1.141kmもあります。長いロングストレートによって、MotoGPクラスでは366.1km/hの最高速が記録されています。
1コーナー側から見たメインストレート。まっすぐではないし、フラットでもないことがわかる
といっても、このストレートは最終コーナーの立ち上がりから1コーナーまでずっと「まっすぐ」というわけではないのです。ゆるやかに右、その後、左にカーブしています。また、フラットではなくて、とくにピットレーン出口付近が少し上り坂になっていました。
実際に歩いてみると、映像で見るのとは印象が異なるのだなと感じた部分です。それにしても、1km以上の“ストレート”は歩いてみるととても長い……、ともつくづく感じました。
調べてみると、ムジェロ・サーキットはとても歴史の長いサーキットだそうです。その始まりは1914年にまでさかのぼります。1988年にフェラーリに買収され、フェラーリのテストコースになっています。
コースサイドを歩いていると、斜面になった草の上に座り込んだり、テントを立てたりして走りを見守る観客の姿が見えました。そして、セッションがない時間でも、どこからともなくエキゾーストノートが聞こえてきます。どうやら、観客が自分のバイクを走らせたり、エンジンをふかしたりしているようなのです。
そういえば、MotoGPライダーの囲み取材でも、こうした「コースの外の音」についての質問が上がっていたような……。この「音」は、ムジェロ・サーキットの特徴のようです。サーキットに泊まり込むファンも多いのでしょう。
実際のところ、日中に歩いているだけでも、いつまでもいつまでも響くそれに、「まいったなあ」と、苦笑いしてしまったわけですが。
斜面に座り込んでライダーに熱い視線を送る観客。エキゾーストノートもひっきりなしに上がっている
山が見えて、どこかのどかな風景なのに、そんなエキサイティングな音が入り混じっていて、ムジェロ・サーキットは不思議なコントラストを持つ場所のようにも感じられました。
不思議なムジェロの魅力に惹かれながらサーキットのマップを眺めていると、見知った顔のスペイン人ジャーナリストが話しかけてきました。
「僕はこのサーキットがいちばん好きなんだ。あなたは?」
「うーん、ヘレスかな」
スペインの情熱的な歓声を思い出しながらそう答えると、スペイン人の彼は嬉しそうに笑いました。イタリアのサーキットであるムジェロには、まだまだ奥の深い魅力があるのかもしれない……と思った、やりとりです。
歴史の長いサーキットはさらに、一度では全容をつかむことなどできません。だから、また足を運んで、「ムジェロのMotoGP」を取材したくなるのです。
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