スズキの8耐ファクトリーチーム「チームスズキ CN チャレンジ」 チームディレクターに直撃インタビュー(前編)
バイクのニュース / 2024年7月4日 7時10分
2024年7月19日から 21日にかけて三重県鈴鹿サーキットで開催される 「2024 FIM 世界耐久選手権"コカ·コーラ" 鈴鹿 8 時間耐久ロードレース第45回大会」にスズキのファクトリーチームとして参戦する「チームスズキ CN チャレンジ」のチームディレクター佐原伸一さんに、モーターサイクルジャーナリストの伊丹孝裕さんが直撃インタビューを行いました(前編/中編/後編の全3回に分けて掲載)。
■順調な仕上がりを見せる「チームスズキ CN チャレンジ」
2024年のFIM 世界耐久選手権第3戦「鈴鹿8時間耐久ロードレース」に、スズキがファクトリー体制で参戦します。どんな仕様のマシンなのか、チーム体制はどうなっているのか。そんなあれこれをチームディレクターの佐原伸一さんに聞きました。
「チームスズキ CN チャレンジ」ディレクターの佐原伸一さんと「GSX-R1000R」。「GSX-R1000R ヨシムラ SERT MOTUL EWC 仕様」をベースとしています
今年3月に開催された「東京モーターサイクルショー2024」において、スズキはサプライズ発表を行いました。それが「チームスズキ CN チャレンジ」という名のもと、鈴鹿8耐へ出場するというものでした。CNは、カーボンニュートラル(温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡させてプラスマイナスゼロにすること)を意味し、ゼッケンはその象徴である「0」になること、そして実験的なマシンが走る「エクスペリメンタルクラス」にエントリーすることが明かされたのです。
その詳細を聞くべく、チームを統率する佐原伸一さんにインタビューした内容が下記の通りです。(前編/中編/後編の全3回に分けて掲載)
「チームスズキ CN チャレンジ」が手掛けた車両でテストを行う渥美心選手
―――まずは鈴鹿での合同テスト、お疲れ様でした。公の場で走りが披露されたのは今回が初めてですが(6/4~5)、かなりいいタイムでしたね。
直前に、竜洋(スズキのテストコース)でベース車両の確認を済ませてから鈴鹿入りしています。いくつかの課題に対して、竜洋で事前に対策品の確認ができていたおかげで、鈴鹿では大きな問題はなく、ホッとしています。最初に、ヨシムラSERTモチュール(以下、ヨシムラ)の渥美心選手に乗ってもらったところ、すぐに7秒台(2分07秒台)でしょ。ピットへ戻ってきた時に“どう?”と聞くと“普通です”と。普通という言葉に、あんなに安心したのは初めてです。
―――久しぶりの走行になった濱原颯道選手も8秒フラット。2日間通しての結果は、トップグループに位置するものでしたが、その仕様から言って、スピードはもう少し落ちるものだと想像していました。
7秒台に入った時は、そのまま6秒台も……と考えましたが、テスト項目を優先することにしました。狙っていないのにあのタイムが出たことは嬉しい誤算でしたね。渥美選手にとっても手探りだったはずですが、パッと乗りではあまりに普通で、つまりヨシムラのマシンとそれほど変わりがなく、“たいしてコメントすることがなくてつまんない”って言ってました。
―――テスト走行時のマシンは、本番と同じ仕様でしょうか?
カラーリングも含めて、カウルだけはまだでしたが、それ以外はほぼ同じです。
―――燃料もオイルもタイヤも?
基本的にテストで使用したものと同じ仕様を本番でも使う予定です。
―――今回のエクスペリメンタルクラスは賞典外扱いということですが、それであのタイムなら上位に入ってくるポテンシャルがありますね。
いや、それほど簡単な話ではありませんが、最善を尽くすつもりです。ガソリンやオイルは事前のベンチテストで確認し、ある程度予想通り。タイヤに関して未知数の部分もありましたが、問題なく機能してくれています。他のチームとは異なるとはいえ(再生資源・再生可能資源比率を引き上げたタイヤを使用)、当然ブリヂストンの厳しい社内基準をクリアしているものなので信頼性についての心配はしていません。
―――竜洋での事前テストは、どれくらいしたのですか?
そもそもチームのメンバーが決まったのが、今年の4月末。ゴールデンウィークもあったので、5月中旬の1回と、後は鈴鹿入り直前に1回の計2回です。
「チームスズキ CN チャレンジ」が手掛けた「GSX-R1000R」。「GSX-R1000R ヨシムラ SERT MOTUL EWC 仕様」をベースとしています
―――ライダーはやはり渥美選手でしょうか?
いえ、竜洋は津田拓也選手にお願いしました。鈴鹿8耐は違うチーム(オートレース宇部レーシングチーム)からのエントリーですが、スズキファミリーの一員ですし、なによりMotoGPマシンの開発に長く携わってくれていましたから、モノの良し悪しを判断する経験と能力は非常に高い。我々としても、彼のコメントがなにを意味するかが理解しやすく、力になってくれたことを感謝しています。
―――今回のマシンはGSX-R1000Rをベースにしたもので、そこにいくつものサステナブルアイテムが投入されています。それに関して、教えてください。
まずカウルは、JHI製の再生カーボン材です。再生カーボンというのはいろいろな意味で使われるのですが、よくあるのは一度成形して用済みになったものを粉砕し、再度焼き固めるという手法。それだとカーボン繊維が切られるため、どうしても本来の強度が保てないんです。
―――JHIのものは、そうではないと?
はい。高温高圧で成形される前の素材は、布状のカーボン繊維に樹脂を染み込ませていますよね。あれって実は保管がかなりシビアで消費期限も短く、それを過ぎたものは廃棄するしかなかった。ところが、JHIさんは一度含有した樹脂を飛ばし、成形し直せる技術をお持ちのため、それを活用させて頂こうと。もちろん通常のものと遜色のない強度や軽さを維持しています。
「チームスズキ CN チャレンジ」が手掛けた「GSX-R1000R」。天然亜麻繊維が主な素材とされた前後フェンダーを装着しています
―――フェンダーは、それとも異なるものですね。
前後フェンダーはトラス製で、こちらはBcompという天然亜麻繊維の複合素材です。成形方法はカーボンとほぼ同様なのですが、その工程で発生するCO2が少なく、用途が終わればそのまま焼却できるなど、環境負荷が少ないのが特徴です。
―――ブレーキも気になるところですが、ディスクは一般的なステンレスではない?
サンスター製の炭素鋼です。ブレーキディスク製造時のCO2は、その半分が熱処理の工程で発生するそうです。今回、熱処理を廃止することによって、それを削減できることの意味は大きく、もちろんパフォーマンス面も安全面も高い技術でクリアして頂いていることを確認済みです。
「チームスズキ CN チャレンジ」ディレクターの佐原伸一さん
―――気になるのは、やはり燃料です。エルフ製の40%バイオ由来のものとのことですが、通常の燃料からの移行は問題なく進んだのでしょうか?
ご存じの通り、全日本のJSBクラスは、すでに100%非化石由来の燃料を使用しています。また、MotoGPとSBKは40%。それぞれメーカーは異なりますが、ラップタイムの推移を見て頂ければわかる通り、性能的に問題ないのは明らかです。ただし、耐久となると、スプリントとは異なるファクターが関わってきます。
―――たとえば、燃費ということでしょうか?
そうです。精製方法の違いで同じ条件なら燃えにくい方向になり、それでも出力を優先すると燃料の供給量を増やさざるを得ません。
―――燃費をとるか、パワーをとるかの選択を迫られると。
もちろん、レースですから結果は欲しい。一方で、新技術の開発という、このチーム本来の目的も忘れてはいけない。そのあたりのバランスを図りながら、決勝に向けてテストを進めていきます。
―――バイオ由来燃料の場合、しばしばクランクケース・ダイリューション(未燃焼ガスがオイルに混入し、潤滑性能が低下したり、オイル量が増える問題)が課題として挙がります。これについては、いかがですか?
8時間を戦う上で問題ないことは確認できています。今年は40%のものを使用しますが、次のチャンスがあるなら、その時は100%でやりたい。そう思えるほどですから、デメリットにならないと考えています。
―――ということは、決勝中にオイル交換を要するような事態も想定していない?
その通りです。
―――お話を聞けば聞くほど、「実験的な車両で、まずは完走」というレベルではありませんね。次回はライダーやチームのメンバーに関して、お聞かせください。
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