スズキの8耐ファクトリーチーム「チームスズキ CN チャレンジ」 チームディレクターに直撃インタビュー 「GSX-R1000R」はまだまだ終わらない!?(後編)
バイクのニュース / 2024年7月6日 7時10分
2024年7月19日から 21日にかけて三重県鈴鹿サーキットで開催される 「2024 FIM 世界耐久選手権"コカ·コーラ" 鈴鹿 8 時間耐久ロードレース第45回大会」にスズキのファクトリーチームとして参戦する「チームスズキ CN チャレンジ」のチームディレクター佐原伸一さんに、モーターサイクルジャーナリストの伊丹孝裕さんが直撃インタビューを行いました(前編/中編/後編の全3回に分けて掲載)。
■「GSX-R1000R」はまだまだ終わらない!?
2024年のFIM 世界耐久選手権第3戦「鈴鹿8時間耐久ロードレース」に、スズキが「チームスズキCNチャレンジ」として参戦します。マシンの仕様やチーム体制のあれこれをプロジェクトリーダーの佐原伸一さんにお聞きしたインタビューの第3弾(最終回)です。
「チームスズキ CN チャレンジ」が手掛けたGSX-R1000Rをテストする濱原 颯道(はまはら そうどう)選手
―――これまで幾度か、「次のチャンス」とか「次回があれば」という言葉がありました。鈴鹿8耐を終えていないタイミングではありますが、今後の展望としてはどのようなものを描いてらっしゃいますか?
会社として検討を始めているわけではありません。ただし、たとえば40%バイオ由来の燃料でデータを採取し一定のリザルトを収められたなら、次は100%のもので狙っていかなきゃいけない。じゃ、それで24時間走るとどうなるのか……と、個人的な興味は尽きません。特に技術者なら誰もがそうだと思います。
―――では、あくまでも佐原さん個人に伺います。やはり8時間耐久の先には、24時間耐久を見据えてらっしゃいますか?
個人として、と強調しておきますが、いつかはそこを目指さなきゃと思っています。と言いつつも、散々“24時間はつらい”と聞かされていたこともあって、実はこれまでその現場に足を運んだことがなかったんです。でもそれじゃいかんということで、今年のル・マン(4/18~22)は観に行きました。
2024 FIM世界耐久選手権(EWC) Rd.1 ルマン24時間レースを制したヨシムラSERT Motul
―――ヨシムラSERTモチュールが優勝したEWC第1戦ですね。
はい。そこでヨシムラの加藤ディレクターから“24時間を経験すると8時間なんてアッと言う間だから”と発破をかけられて、まぁ確かにそうなんですよ。そういうところも含めて、いろいろモノやコトを目の当たりにできた経験は大きかったですね。
―――ひとりのモータースポーツファンとしても、スズキがMotoGPから撤退し、その後の活動が見えてこないようでは、あまりにも寂しい。そこに関しても、サステナブル(=持続可能)に積極的であってもらいたいです。
そういう意味じゃ、MotoGPの後、私自身これまでの経験を活かすことができる場を求めていたので、このプロジェクトは私自身の再利用みたいなものですよ(笑)。 おっしゃる通り、MotoGPが活動停止に至った最大の理由がサステナビリティの実現であり、環境負荷低減と環境性能の開発のため、持てるリソースを注ぐことにしたわけです。水素あり、EVありといったマルチパスウェイの中で、サステナブル燃料に関わる開発にも取り組む必要があり、その手段のひとつが耐久レースだと考えています。
「チームスズキ CN チャレンジ」が手掛けたGSX-R1000Rをテストする生形 秀之(おがた ひでゆき) 選手
―――モータースポーツには様々な意義があると思います。技術開発に加え、販売促進や人材育成など。スズキとしては、これらをどのように捉えられているのでしょう?
まさにその3つが最も大きな割合を占めています。あとはブランド力の向上もそうですね。特に今回の取り組みは、スズキのみならず、多くのパートナー企業あってのこと。環境問題に真剣に向き合っている姿勢を口だけでなく、行動で示さなくてはなりません。当然、技術開発と製品へのフィードバックにも直接影響するため、その意義は大きいですね。
―――販売促進としては、いかがですか?
チームの成り立ち自体が環境負荷低減を目指すものですから、世の中に対して胸を張れる活動です。そういう会社のバイクだから、クルマだから買おうというきっかけになればありがたいですね。
―――人材育成の面で期待することは、どんなことでしょう?
走れば、必ずいくつか課題が見つかるものです。たとえば、その課題をロガーデータの出力と照らし合わせて分析し、新たなパーツを用意する。そういう場面での原因究明の方法や対策の早さ、対応の臨機応変さって、レース現場ならではのものなんです。普通なら1ヶ月掛かるところを1週間でなんとかするスピードを知っているかどうかでは、感覚が大きく異なりますから、それだけでも意味があることだと思います。
チームスズキエクスターとしてMotoGP 活動停止前最後のレース(2022年11月6日バレンシアGP)で優勝を飾ったアレックス・リンス選手と抱き合う佐原伸一さん
―――佐原さんは、MotoGPにおける活動休止(2011年)と活動停止(2022年)のいずれの年も、その最前線にいらっしゃった。また、その間はスーパースポーツのフラッグシップであり、結果的に国内最終型(カラーリング変更・マイナーチェンジを除く)になったGSX-R1000R(L7型)のチーフを務められています。そういう節目節目に立ち会っている人が、今回の新たなプロジェクトを率いている。なんというか、すべてがここへ集約されているような、大きな流れを感じます。
たまたまですよ。あ、そうそう。ひとつ訂正しておきたいのは、GSX-R1000Rがこれで終わりだなんて、誰も言っていませんからね。確かに今は国内販売をしていませんが、GSXの名を持つモデルはたくさんあって、それらすべてに、今回の技術をフィードバックし、たくさんの人に体験して頂きたい。もちろん、フィードバックなんて口で言うほど簡単じゃないんです。レースで培ったモノを市販車に入れるのは本当に大変で、技術もさることながら覚悟や意地がないといけない。
―――そういう意味では、歴代のモデルの中でもL7型ほど、MotoGPマシンとの深いリレーションを感じさせるモデルはありません。その両方に深く関わっていた佐原さんあってのことであり、あらためて「人」なんだなと思わされます。
いえ、私に特別高い能力があるわけじゃなく、自分で作り出したものなんてごく限られている。ただ、技術って人に付いてまわるところがあって、周りの人にひたすらお願いし、頼りながらでないとモノにならない。長年いろいろな現場を渡ってきたので、なにかが起こった時にどこに相談して、誰と誰をつなげばいいか。そういう判断はできるのかもしれません。
「チームスズキ CN チャレンジ」のメンバー
―――形あるハード面と同様、そうしたソフト面も継承されていくべき部分ですね。
MotoGP活動が終わった後、経験や失敗も含めて様々な出来事を伝えられる場が失われることを心配しましたが、こうしてまた、いい機会を与えてもらえた。いろんなところに一丁噛みしながら楽しんでコミュニケーションをとっています。
―――佐原さんは、今回のチャレンジ全体のプロジェクトリーダーであり、チームの中ではディレクターという立場ですが、どのような役割ですか?
なんでも屋、雑用係です。リーダーとか偉そうな肩書ですが、東京モーターサイクルショーで展示されたマシンがあったでしょ? あのカウルにステッカーを貼ったりもしました(笑) 。現場では、レース部門で長く設計を担当してきた田村という者にテクニカルマネージャーとして多くの役割を託し、全体を見てもらっています。そのぶん負担は掛けていますが、ポジションが人を育てるのは確かで、傍目にも頼もしさが増しています。一方で入社1年目みたいな新人さんもいて、彼らもいつか後進を育成する立場になるわけです。その出発点を見ているんだなぁ、と思うと感慨深いものがありますね。
「チームスズキ CN チャレンジ」ディレクターの佐原伸一さんとライダーの生形 秀之選手
―――後進に託すという意味では、佐原さんは鈴鹿8耐のレースウィーク中に節目の年齢をお迎えになりますね。
そんなことまで調べるんですか(笑)。そう、決勝前日で還暦です。すぐに引退というわけではないものの、本当はご意見番のような立場で、どーんと後ろで構えて楽しみたいところです。
―――さて、では最後に、鈴鹿8耐での目標を聞かせてください。
公言はしません(笑)。 公言はしませんが、スタッフ全員、“完走できればいい”なんて思っていません。これくらいはいかなきゃな、という手応えはそれぞれにあって、それをきちんと遂行できるように、準備と練習を重ねています。東京モーターサイクルショーの会場では、レース参戦に対して、涙をながして喜んでくださっている人がいたんです。そういうファンの方たちの思いに応えたいですし、今回の挑戦を通して、いろいろな人といろいろな感情をシェアできるといいな、と考えています。
―――ありがとうございました。
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