電動アシスト自転車の礎を築いたヤマハ「PAS」プロトタイプ開発秘話
バイクのニュース / 2024年7月22日 8時10分
近年、もはや一般的な存在として使用されている「電動アシスト自転車」ですが、そのパイオニアといえるヤマハ「PAS」の初代モデルが誕生してから31年が経過しました。ここではその礎となったプロトタイプについて解説していきます。
■「世界初」を生み出すまでの軌跡
近年、もはや一般的な存在として使用されている「電動アシスト自転車」ですが、そのパイオニアといえるヤマハ「PAS」の初代モデルが1993年に誕生してから31年が経過しました。
ヤマハ「PAS」プロトタイプ
経済産業省の統計によると、2022年の電動アシスト車(一部の輸入車を除く)の国内販売数は79・5万台と、初めて一般の自転車(69・7万台)を上回るなど、着実にそのシェアを伸ばしています。
ヤマハ発動機はPASのプロトタイプが製作された1989年より以前、1970年代後半からエネルギー問題、地球環境問題、交通問題、少子高齢化問題など、さまざまな社会問題対応のひとつの糸口として、パーソナル・モビリティの原点である自転車の有用性に着目してきました。
ヤマハ「PAS」プロトタイプで採用されていたフレーム
それまでヤマハはエンジン付きの自転車を開発していましたが、どれも成功には結びつかなかったといいます。
そこで、自転車の持つ手軽さや利便性を活かしながら、自転車の基本的弱点(坂道や向かい風、荷物積載時の負荷など)を効果的に補い、誰もが快適に乗れるパーソナル・コミューターとして「ペダル踏力に比例したモーター駆動補助機能付き自転車」を開発。当時はバッテリーやコンピュータの小型高性能化など、エレクトロニクスの急速な技術革新も背景にあったといいます。
ヤマハの拠点となる静岡の森町で開発されたPASは、当初はバッテリーが重く、それに耐えられる車体にしてしまうと車重が増えてしまうという問題が起こるなど、課題は山積みだったといいますが、ヤマハの得意とする二輪車、その中のオフロードバイクのフレームを参考にマウンテンバイクのような車体を開発し見事に強度試験をクリアしました。
徹底的に割り出した「時速24km」までのアシスト力制御をヤマハの技術で実現
その後、ヤマハは試乗会を何度も開催し改良を加えていきますが、開発者は当時の法制度では「動力付き」の場合には、道路運送車両法と道路交通法との兼ね合いにより免許が必要のなるのではと考え、警視庁や運輸省などに掛け合うも難航。社内では「お百度参り」と呼ばれていたようです。
その後、自転車を使用する様々な年齢層をリサーチし、割り出した「時速24km」までにアシストを制限することを取り入れた技術を追加し、警視庁の試乗会で認められることで自転車として認定。
■順調に見えたプロジェクトにも意外な落とし穴が
ヤマハ「PAS」プロトタイプの従来車と新型車
完成した車輌の社内試乗会が行われると、社員からも高い評価を受けますが、ここで意外な問題が発覚。
それがスカートの場合にフレームの位置が高すぎることで乗れないという点で、ヤマハの開発陣はそれらを踏まえ、取り外しは犠牲になるものの、バッテリーをサドル後方に移すと共にメインフレームを一本にしスカートでも乗れる車輌を完成させます。
ヤマハ「PAS」プロトタイプ
また、車名はPower Assist Systemの頭文字を取った「PAS」とされ、1993年に正式な許可を得た初代モデルが誕生。同年7月に「世界新製品」として発表され11月1日より神奈川、静岡、兵庫の3県で地域限定販売を開始。翌1994年4月1日に全国販売へと漕ぎ着けました。
その後も1995年に脱着式ニッケルカドミウム電池搭載モデルの発売や、バッテリーマネジメントシステム「I.F.E.S.(Intelligent Flexible Energy System)」や小型軽量センターマウント式ドライブユニットの採用、2004年からはリチウムイオンバッテリーを搭載するなど常に進化をつづけてきた「PAS」シリーズ。
今後もどのような進化を遂げていくのか期待が高まります。
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