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ハーレー「ロードグライド3」を試乗したからこそ感じる トライクの安全性と現実

バイクのニュース / 2024年7月29日 8時10分

ハーレーダビッドソンの大型トライク「ロードグライド3」の乗り味や特性、改善すべきポイントについてライターの渡辺まことさんが解説します。

■トライクならではの独特の乗り味

 2014年に登場したFLHTCUTGトライグライド・ウルトラを皮切りに、ハーレーダビッドソンのラインナップに加わった『トライク』シリーズ。今回はその最新モデルであるロードグライド3を走らせてみたのですが、当たり前のことをあえて最初に言ってしまえば、やはりその乗り味はバイクとはまったく違います。

三輪という構造ゆえ、車幅感覚に慣れなければならないのもトライクの宿命。この日は横浜中華街の路地などを走ったのですが、縁石や看板などを引っかけないよう気を使ったのも本音です。やはりバイクとは違う操縦感覚が要求されます三輪という構造ゆえ、車幅感覚に慣れなければならないのもトライクの宿命。この日は横浜中華街の路地などを走ったのですが、縁石や看板などを引っかけないよう気を使ったのも本音です。やはりバイクとは違う操縦感覚が要求されます

 通常、バイクはコーナリングの際、車体を傾けリーンさせて走らせますが、ホンダの「ジャイロ」などと異なり、『左右に傾かない三輪』という構造上、当然、トライクではそうはいきません。コーナリングの際、車体はクルマのようにロールし、横Gを感じるのですが、最初に乗った際は多くのライダーが違和感を覚えるであろう独特の乗り味となっています。

 さらに直進時でも道路の轍を踏んだ際に感じる車体の「横揺れ」はバイクとはまったく異なる乗車感覚であり、おそらく「バイクの動き」を期待するライダーなら違和感を覚えることは必至。ともすれば慣れるまでに相当な時間を要するかもしれません。三輪という構造上、「立ちゴケ」をしないという安心感があり、それゆえに528kgという車重でも問題ないといえば問題ないのですが、やはりトライクはトライク。「バイクとは、まったく別モノ」と考えるのが妥当でしょう。

コーナリングの際は曲がる方向にグリップを引く独特の操作感。立ちゴケの心配がないゆえ、意外と女性ライダーが購入の選択肢としそうですが、運転するにはじつは結構、力を使いますコーナリングの際は曲がる方向にグリップを引く独特の操作感。立ちゴケの心配がないゆえ、意外と女性ライダーが購入の選択肢としそうですが、運転するにはじつは結構、力を使います

 ちなみにコーナリングの際にハンドルを切る感覚は、曲がる方向のグリップをグイと手前に引き、反対側のグリップは逆に前に押し出すという感じになるのですが、こうした一連の動作は意外と腕のチカラを使います。また狭い路地の交差点では後ろタイヤが縁石などにヒットしないよう車幅感覚をアタマに入れなければならないでしょうし、ハイスピードでの急なコーナリング、特に下り坂のタイトコーナーなどは横転の危険性もはらんでいると言わざるを得ないのも正直なところでしょう。

 日本の法規上では四輪の免許さえ所有していれば誰でも乗ることが出来る上、ノーヘルOKという点も魅力なのでしょうが、バイクともクルマとも違う乗車感覚や操作方法は、まったく別の乗り物として新たな免許カテゴリーが制定されたとしても決して不思議ではありません。むしろトライクはそれほどまでに特殊な運転のスキルが求められます。

全長2,615mm、ホイールベース1,670mm、そして車両重量528kgを誇る車体の存在感は数あるハーレーの中でも随一。トライクならではの姿は、やはり迫力です全長2,615mm、ホイールベース1,670mm、そして車両重量528kgを誇る車体の存在感は数あるハーレーの中でも随一。トライクならではの姿は、やはり迫力です

 もちろん、そうした部分を念頭に置き、走らせればトライクにはトライクでしか味わえない独特の面白さがあると言えます。慣れてくればハンドルを切ってコーナーを回る感覚も、その際に受ける横Gも、まるでカートに乗っているかのような爽快さを感じさせるものとなるのかもしれません。

 生粋のバイク好きが免許の関係や「立ちゴケ」対策としてトライクを選ぶことは正直、個人的にはあまりオススメできませんが、あくまでもトライク独特の乗車感覚を求める人であれば、これはこれで乗り物として存分に楽しめるのではないでしょうか。バイクはバイク、トライクはトライクと割り切ることが肝要です。

■トライクだから浮き彫りになった問題点とは?

 そうした部分を考えてもトルクを重視したハーレーのエンジンはトライクという乗り物に最適と思われがちですが、しかし、残念ながら車重があるトライクだからこそ浮き彫りになる問題があるのも正直なところです。

排気量1868ccのミルウォーキーエイト114エンジン。最大出力87hp/5020rpm、最大トルク159Nm/3000rpmのスペックは申し分ないですが、トライクの巨体で圧縮比が10.5:1という設定ゆえ、かなりの熱を感じたのが正直なところです排気量1868ccのミルウォーキーエイト114エンジン。最大出力87hp/5020rpm、最大トルク159Nm/3000rpmのスペックは申し分ないですが、トライクの巨体で圧縮比が10.5:1という設定ゆえ、かなりの熱を感じたのが正直なところです

 それがハーレーの圧縮比と日本のガソリンオクタン価の問題なのですが、まず空冷の大排気量、2気筒のOHVツインであるハーレーは日本のガソリンオクタン価に適した圧縮比に改善しなければ、多くの場合、トラブルを引き起こします。

 ちなみに空冷のハーレーでは理論上、1800ccまでは8.5以下、2000ccまでは8.2以下が圧縮安全値となるのですが、スペック上のロードグライド3は排気量1868ccで圧縮比は10.5:1。実際に今回の試乗でも思ったのですが、まだ春先の肌寒い季節だったにも関わらず、エンジンの熱をかなり感じたのも正直な感想です。

ノッキングによってダメージを受けたクランクピンとピニオンシャフト。ピストンのみならずクランク周りにも大きなダメージを及ぼします(写真・イラスト提供 サンダンスエンタープライズ/ハーレーダビッドソンダイナミクス(株式会社マガジンマガジン刊)ノッキングによってダメージを受けたクランクピンとピニオンシャフト。ピストンのみならずクランク周りにも大きなダメージを及ぼします(写真・イラスト提供 サンダンスエンタープライズ/ハーレーダビッドソンダイナミクス(株式会社マガジンマガジン刊)

 排気量が大きいから、それだけ熱量があり、エンジンもヒート気味になると考える人も多いかもしれませんが、しかし、多くの場合はエンジンの過剰な高圧縮による「プレイグニッション」(プラグが点火する前にシリンダー内の空気と燃料の混合気が着火する現象)と「ノッキング」(異常燃焼によるエンジンからの異音等)が原因です。

 ノッキングの原因は、不適切に低いオクタン価のガソリン使用や早すぎる点火時期、高すぎる圧縮化、ガソリンの希薄な混合気セッティング、燃焼室形状の悪さ、オーバーヒート、車重とギア比の選択ミスによる高負荷時などがあるのですが、これらによって異常燃焼が起こると燃焼室内の圧力は圧縮上死点前でありながら最大値まで上昇してしまいます。それがピストンやクランクに物凄い衝撃の負荷を与え、致命的なトラブルにつながるのです。

燃焼室内の異常燃焼により圧縮上死点前でありながら圧力が最大値まで上昇することでおきるノッキング(イラスト提供:サンダンスエンタープライズ)燃焼室内の異常燃焼により圧縮上死点前でありながら圧力が最大値まで上昇することでおきるノッキング(イラスト提供:サンダンスエンタープライズ)

 バイクでもハーレーなどの空冷大排気量車の場合、上り坂などでエンジンから「キンキン」という音を感じたという方も多いと思いますが、これがノッキングであり、サイドカーやトライクなど牽引負荷の大きい重量のある車両の場合、それが顕著に表れます。実際、この日に試乗したロードグライド3は同時に乗ったストリートグライドやロードグライドといった「単車」より明らかにエンジンからの熱を感じたのですが、そうした部分を改善するにはやはり圧縮比の適正化が必要となります。

 ちなみにガソリンオクタン価の規定には「低速アンチノック性」を表す尺度であるリサーチオクタン価(RON)と「高速アンチノック性」を表す尺度であるモーターオクタン価(MON)の二つの測定法があり、それに準じて世界各国ではガソリンオクタン価が表記されています。

 アメリカはRONとMONの平均をオクタン価として表記し、対して日本のオクタン価表記はRONが採用されています。この問題に関して詳細まで書くと、かなりの文字数になってしまうゆえ、ここでは割愛させていただきますが、つまりはアメリカでの100オクタンは日本では実際には93.55となっており、同じ100オクタンでも実際には6.5近く低いのが現実です。

■ところでオクタン価って何?

 ではそのオクタン価とは何ぞや、ということを改めて説明すると、これは「ガソリンの自然発火のし難さ」を示すパラメーターであり、この数値が高ければ高いほど自然発火が「ガマンできる」ということになります。

アメリカのガソリンスタンド(イメージ写真)アメリカのガソリンスタンド(イメージ写真)

 ガソリンエンジンはスパーク着火式であるため、最適な着火タイミング以前にガソリンが自然着火することがないよう、コントロールする必要があるのですが、当然、エンジンのピストン上昇による圧縮発熱によって自然着火してしまうことを避ける必要があります。それを防ぐのが、いわゆるハイオクガソリンなのです。

 そして、この『自然発火』はカムタイミングや点火時期(遅角)で防げる類のものではありません。ゆえに日本のガソリンオクタン価事情を考えると燃焼室加工やピストンの変更による圧縮比の適切化が必要になります。

 基本的にはアメリカという市場を見据え、生産されているハーレーを、そのまま日本で走らせると明らかな過剰圧縮なのですが、コストや市場規模の問題を考えると、いちいち日本仕様を生産することが出来ないのも現実なのでしょう。重量のあるトライクの場合、エンジンの熱を顕著に感じたのも気になったポイントです。

適切な圧縮比を実現するサンダンス製のピストン「Sundance-Omega T-Spec Hyper Pistons for TC」適切な圧縮比を実現するサンダンス製のピストン「Sundance-Omega T-Spec Hyper Pistons for TC」

 もちろん、筆者個人としては、こうしたことを書いてネガティブなことを伝えたいわけではなく、少しでも注意喚起になればと思うのも本音です。幸いにもハーレーにはドレスアップパーツのみならず、エンジンを日本仕様に適正化するピストンやシリンダーヘッドなども市場に流通しているので、改善の余地は必ずあります。

 たとえば「トライクは転倒の心配がない」「普通自動車免許で乗れる」などをテーマにし記事にすることも簡単ですが、独特の操作感覚や車体重量とエンジン圧縮比の関係などの現実を伝えることもメディアの使命なのではないかと個人的に考えます。

全長2,615mm、ホイールベース1,670 mm、そして車両重量528kgを誇る車体の存在感は数あるハーレーの中でも随一。トライクならではの姿は、やはり迫力です全長2,615mm、ホイールベース1,670 mm、そして車両重量528kgを誇る車体の存在感は数あるハーレーの中でも随一。トライクならではの姿は、やはり迫力です

 そうしたことを踏まえ、バイクとは違う運転特性や重量によるエンジン負荷などを分かった上で楽しむ分にはトライクを否定する要素はありません。先日、街中でハーレーのトライクをタンデムで楽しむカップルを見かけたのですが、それはそれで微笑ましい光景でした。だからこそ三輪の特性を理解した上で多くの人が安全に楽しむことを切に願うばかりです。

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