クラッチ操作なしでバイクがますますスポーティ!? ウソじゃなかったホンダ意欲作「Eクラッチ」の楽しさ!!
バイクのニュース / 2024年8月2日 12時10分
ホンダ「Eクラッチ」の報道発表会(2023年12月)に参加し、開発チームに取材したバイクジャーナリストの青木タカオさんが5月に開かれた試乗会で体験走行しました。会場は修善寺サイクルスポーツセンター、クローズドコースにてじっくりと走り込みました。
■バイクって意外と運転が難しい!?
生まれて初めてバイクに乗ったとき、多くの人が難しいと感じたのはクラッチレバーの操作ではないでしょうか。
クローズドコースにて、Eクラッチを搭載した『CBR650R』の走りや操作方法を確認する筆者(青木タカオ)
両腕で自転車のようにハンドルを握って、ブレーキレバーを操作するだけではなく、両手それぞれで意外なほど繊細な作業をしなければなりません。
というのも、右手でスロットルグリップをひねれば、エンジンの回転が上がり前へ進んでいくのは想像できたかもしれません。
しかし、問題は左手です。初心者はまず発進時から、それに直面します。右手のグリップ操作に連動しつつ、握ったレバーを丁寧に離していくという繊細なコントロールが求められます。
構造を理解していなければ、教習所の教官や先輩ライダーらが口にする「クラッチを切る」とか「つなぐ」という表現も、きっと意味がわからないはずでしょう。
たとえば、坂道発進などで「半クラを使って」などと言われても、半クラとはなんぞや、いったいどうすればいいのか……!?
さらに右足でフットブレーキ、左足ではシフトコントロール、オートバイの運転って見た目以上に複雑と思った人は少なくないはずです。
■クラッチを駆使して操るのがバイクの面白さ
街で見かけるライダーは、何事もなく発進と停止を繰り返し、そんなにも複雑な操作をしているようには見えません。
クラッチワークを駆使してライディングするのもまた醍醐味と言える
交差点では、信号が青になったと同時にクラッチレバーを握りつつトランスミッションをニュートラルからロー(1速)に入れ、すぐさまクラッチミートして走り出していきます。ビギナーの頃は時間を要した作業も慣れていくにつれ、素早く操作できるでしょう。
四輪自動車がオートマチック化され、マニュアルミッション車が少数派となった現代、オートバイの魅力のひとつは、そんなふうに複雑である運転操作であり、テクニカルな部分だという意見も多く耳にします。
筆者も同感です。趣味として愛用しているバイクですから、複雑難解な操作をわざわざするのもまた楽しみのうちのひとつ。クラッチワークを駆使してライディングするのもまた醍醐味と言えるでしょう。
■ホンダが挑むのはイージーさだけではない
一方で、長時間走ったときや渋滞時にはクラッチ操作が煩わしいとも思います。左手を激しく疲労することも珍しくありません。
趣味ではなく、配達業務など仕事でバイクを運転するのなら、そんな思いはしたくないはず。ホンダ創業者の本田宗一郎氏は「自動遠心クラッチ」を採用した『スーパーカブ』(1958年~)で、クラッチ操作の煩わしさから乗り手を解放しました。
そんなホンダはホビーユース向けのスポーツバイクに対しても、これまでクラッチ操作をなくする技術を次々に開発し、ユーザーに提案してきました。
製品化するだけでなく、1991年にはオートマチックトランスミッションの『RC250MA』を全日本モトクロス選手権シリーズで走らせ、レーシングシーンでも優位性を試しています。
レースは走る実験台と本田宗一郎が言うとおり、開発を進める上で重要な場所であると同時に、表彰台に立つこと、勝利することも大きな目標。つまり、運転操作を容易くするだけではなく、勝つための技術でもあるということです。
■進むクラッチレス技術
クラッチ操作がなければ、バイクは面白くないのか? そんなことはないと真っ向勝負しているのが、ホンダの開発技術陣であり、2008年には油圧機械式無段変速機「HFT(ヒューマン・フレンドリー・トランスミッション)」を『DN-01』に搭載し、発売しました。
2009年には「DCT(デュアルクラッチトランスミッション)」をホンダは発表した
2009年には「DCT(デュアルクラッチトランスミッション)」を発表し、『VFR1200F』をリリース。最新の『CRF1100Lアフリカツイン』では6軸IMUとの組み合わせで、電子制御をより熟成・進化させて、ライダーの意志に近い操作フィールを獲得しています。
■満を持して登場した新機構「Eクラッチ」
HFTからDCTへと、クラッチレス技術を進めてきたホンダは、さらなる新技術「Eクラッチ」を2023年秋に発表、12月には技術説明会が開かれました。
ホンダEクラッチ開発責任者の小野惇也さん(二輪・パワープロダクツ事業本部二輪パワープロダクツ開発生産統括部完成車開発部)に操作方法を詳しく聞く筆者(青木タカオ)
ホンダEクラッチ開発責任者の小野惇也さん(二輪・パワープロダクツ事業本部二輪パワープロダクツ開発生産統括部完成車開発部)は、2009年に入社して以来、駆動系技術開発に携わり、技術を研鑽して知見を高めてきたことを我々報道陣を前に話してくれました。
そこで筆者(青木タカオ)が「コイツはスゴそう!」とまず思ったのが、システムの構成やアクチェーターの制御にロボティクスの技術が用いられていることです。
というのも小野さんは、二足歩行ロボット『ASIMO』でもお馴染みホンダのロボティクス領域の開発チームからも助言を受けているとのこと。
その一方で、Eクラッチのシステムは軽量かつコンパクトで、従来のマニュアル車のエンジン構造を大幅に変更することなく、クラッチ部にアクチェーターを追加するというもの。右側フットスペースへの影響を最小限にし、重量増も抑えています。
操作フィール、そしてコストを考えても、小野さんはベストを選んだのでした。
■ベテランライダーより上手い!
5月30日、楽しみにしていた報道向け試乗会で、小野さんは新型『CB650R』および『CBR650R』にて、操作方法を手取り足取り教えてくださいました。
「これはずるい!」
マニュアル車にある既存のクラッチ機構はそのままで、ライダーがおこなうレバー操作をモーターによる電子制御に置き換えています。
発進や停止時もレバー操作は不要なのはもちろん、Eクラッチはスロットルワークに合わせた分だけ、クラッチを確実に巧妙につないでくれる
発進や停止時もレバー操作は不要なのはもちろん、小野さんは衝撃の事実を伝えてくれました。
「熟練のライダー(人間)よりもクラッチレバー操作は上手いのです」
悔しいけれど、ウソではありません。人間だとエンストしないよう、クラッチミートの際に回転をわずかながら余計に上げておいたり、半クラを直感的に使ったりしますが、そこは電子制御。「念のため」だったり「勘」なんていう概念はなく、スロットルワークに合わせた分だけ、クラッチを確実に巧妙につないでいくのです。
試しに人間では難しいトップギヤ6速発進を試してみますと、難なく(クラッチ板への損傷を最小限に抑えつつ)車体を加速させていくのでした。
■スポーティな走りでこそ真価発揮!!
「でも、小野さん! どんなに素晴らしくたって、走って面白くなければ意味はありませんよ」
クラッチ操作から開放されたことで、ますます走りに集中できる
負け惜しみを言いつつ、クローズドコースで『CBR650R』を走らせます。すると、クラッチ操作から開放されたことで、コーナリング時の体重移動やステップへの荷重が今まで以上にアグレッシブになり、タイヤのグリップやサスの動きなどに意識がますます向き、よりスポーツライディングを満喫できるではなりませんか!!
クラッチレバー操作がなくなって、つまらなくなるなんてことはなく、ますます走りに集中できる。レバー付きの車両より、ハイペースで周回できるのです。
クラッチ操作から開放されたことで、コーナリング時の体重移動やステップへの荷重が今まで以上にアグレッシブになる
Eクラッチは「楽(ラク)ができるのではなくて、さらにまた1ランク上のステージに上がれる機構なのかもしれません。
小野さん、参りました。聞けば、開発期間に10年以上を費やしたとのこと。その価値、恩恵、十分に感じた次第です。
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