大幅刷新を受けたBMWのヘリテージモデル「R 12 nineT」はどんな世界を構築しているのか?
バイクのニュース / 2024年8月10日 11時10分
日本市場では2024年4月より販売開始となった新型ヘリテージモデル「R 12 nineT(アール・トゥエルブ・ナインティ)」は、先代「R nineT」シリーズを継承する「R 12」シリーズの1機種です。洗練された排気量1169ccのDOHC空油冷ボクサーエンジンを搭載する新たなアイコンはどのような乗り味なのでしょうか。試乗しました。
■他社を上回る勢いでラインナップを拡大
近年の2輪の世界で、ネオクラシックモデルに注力しているメーカーと言ったら、私(筆者:中村友彦)が筆頭に挙げたいのはBMW Motorradです。もっとも、そんなことを書くとトライアンフやロイヤルエンフィールド、モトグッツィ、カワサキなどの関係者やマニアから、苦情が来そうな気がしますが……。
BMW Motorrad「R 12 nineT」(2024年型)に試乗する筆者(中村友彦)
このカテゴリーへの参入が他メーカーより遅かったにも関わらず、現在のBMWは数多くのネオクラシックモデルをラインナップに揃えているのです。何と言っても、2014年にヘリテージシリーズの第1弾となる「R nineT(アール・ナインティ)」を世に送り出した同社は、以後は矢継ぎ早にバリエーションモデルの「ピュア」や「レーサー」、「スクランブラー」、「アーバンG/S」を生み出し、さらには1930年代の「R 5」をモチーフとするクルーザーとして、2020年以降は同社のボクサーエンジン(水平対向2気筒エンジン)史上最大排気量を搭載する「R 18」シリーズを販売しているのですから。
いずれにしても、古き良き時代の雰囲気を再現し、気軽にドレスアップ系のカスタムが楽しめるヘリテージシリーズは、従来のBMWユーザーとは異なる新しいファンの獲得に大いに貢献し、現在の同社にとっては重要なカテゴリーになっています。
そんなヘリテージシリーズの最新作が、2024年から販売が始まった兄弟車、現代的なロードスポーツの「R 12 nineT」と、そのクルーザー仕様と言うべき「R 12」です。
以下では既存の「R nineT」の路線を継承した、「R 12 nineT」の素性に迫ってみたいと思います。
■エンジンは継続、車体は大改革
先代(R nineT)と新作(R 12 nineT)の差異を語るうえで最も重要な要素は、独創的な前後分割式から、オーソドックスなメイン部+シートレールという構造に刷新されたフレームでしょう。
BMW Motorrad「R 12 nineT」(2024年型)。排気量1169ccのDOHC空油冷ボクサーエンジン(水平対向2気筒エンジン)を搭載。写真は初期生産限定パッケージ(スタイルオプション719)
もちろんその他にも、インナーチューブ径を46mmから45mmに縮小したフロントフォークや、直立から前傾配置となったリアショック、意匠を改めた外装、日本仕様で標準装備となったクイックシフターなど、先代と新作の相違点は数多く存在するのですが、手間とコストがかかる骨格を刷新したという事実からは、BMWのこのシリーズにかける意気込みが伝わってきます。
一方のパワーユニットは基本的に先代からの転用で、最高出力・最大トルクに大差はありません(先代は109ps/7250rpm・116Nm/6000rpmで、新作は109ps/7000rpm・115Nm/6500rpm)。
もっとも、両車が搭載するDOHC空油冷ボクサーエンジンは、元を正せば2008年型「HP2スポルト」用で(後に「R 1200」シリーズにも転用)、当時と比べれば現在の排出ガス規制はかなり厳しくなっています。そういった事情を考えると、吸排気系やECUの刷新で実現した空油冷ボクサーエンジンの現役続行は、賞賛に値すると言っていいでしょう。
そんな「R 12 nineT」の販売価格は、先代の「R nineT」+14万5000円となる253万5000円からです。
BMWならではの最新技術が満載のネイキッド、空水冷ボクサーエンジンの「R 1250 R」は177万5000円から、水冷並列4気筒の「S 1000 R」は198万7000円からなので、素性を考えると決して安いとは言えないのですが、このモデルに関心を抱いているライダーの中で、他機種との装備の違いや価格差を気にする人は、そんなに多くはない……ような気がします。
■先代との相違点と、兄弟車との差別化
注目するべきは大幅刷新を受けた車体。今回の試乗はそんな気持ちで臨んだのですが、実際に「R 12 nineT」を走らせて、私が最も驚いたのは先代から転用したエンジンの変貌でした。
先代から継承されたエンジンは、驚くほど洗練されていた
既存の空油冷ボクサーエンジンと比較すると、吹け上がりが軽やかにしてシャープ、振動が少なく、とてつもなく洗練されているのです。
誤解を恐れずに表現するなら、そのフィーリングは最新の水冷ボクサーエンジン的で、基本設計が十数年前に行なわれたエンジンでも、吸排気系やECUに現代の技術を投入することで、ここまで洗練できるのか……と、私はしみじみ感心しました。
もっとも、そういったフィーリングは兄弟車の「R 12」でも味わえるのですが、ハンドリングの軽さや旋回性といった運動性能は、現代的な足まわりやスポーティなライディングポジションを採用した「R 12 nineT」の方が一枚も二枚も上手です。
【比較】タイヤサイズ/サスペンションストローク
「R 12 nine T」=前後17インチ/前後120mm
「R 12」=前19インチ、後16インチ/前後90mm
また、「R 12 nineT」のライディングポジションを基準にするなら、「R 12」はハンドルが高く、ステップが前方でシート位置が低くなっています。
前後17インチのタイヤを履き、先代よりもキャスター角は寝かされ、ホイールベースは長くなった。写真は初期生産限定パッケージ(スタイルオプション719)
ただし、「R 12 nineT」の運動性能が先代を上回っているのかと言うと、それはなかなか微妙なところでした。と言うのも、ワインディングロードを走った私は、低速域で感じるフロントまわりの内向性の強さと、意外に大きくなりがちな回転半径に、そこはかとない違和感を覚えたのです。
おそらくその主因は、寝かされたキャスター角と、長くなったホイールベースでしょう。
【比較】キャスター角/ホイールベース
「R nineT」=26.8度/1490mm
「R 12 nineT」=27.7度/1520mm
そして新作で車体寸法が安定指向になった背景には、クルーザーの兄弟モデル(R 12)と基本設計を共有しているという事情があるのだと思います。
まあでも、そのあたりはあえて言えばの話で、先代を知らなければ違和感を抱くことはないのかもいしれません。
とはいえ今回の試乗を通して、もしかすると新世代の「R 12」シリーズは、フロント19インチの方が相性がいいんじゃないか……と感じた私は(クルーザーの操安性はナチュラルでフレンドリー)、数年以内に登場するであろう(?)バリエーションモデル、「スクランブラー」や「アーバンG/S」にも期待しています。
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