いまや少数派の「空冷エンジン」 それでも存在するワケとは
バイクのニュース / 2024年8月23日 11時10分
バイクのエンジンは、現在では「水冷」が主流になりつつありますが、依然として「空冷」も人気があります。空冷エンジンに刻まれた冷却フィンの造形的な美しさもありますが、乗車感も味わい深いと言われています。いったいナニが違うのでしょうか?
■いまや水冷エンジンが主流だが……
バイクのエンジンは、シリンダー(燃焼室)の中でガソリンと空気を混ぜた混合ガスをギュッと圧縮し、点火プラグで燃焼・爆発させてパワーを生み出しています。そのためエンジンは非常に高温になりますが、それを冷却する方法として「空冷式」と「水冷式」があります(他に「油冷式」もアリ)。
現在では左のような水冷エンジン(画像はカワサキ「Z650RS」)が主流になりつつあるが、右のような空冷エンジン(画像はカワサキ「メグロK3」)も人気アリ
現在、日本メーカーが生産する国内販売モデルは水冷エンジンが主流で、空冷エンジンはごく一部のレトロなスタイルのバイクや小排気量のスクーターのみになっています。とはいえ1980年代に入るまでは圧倒的に空冷エンジンが多く、水冷エンジンが増加したのはその後。いったいナニが起こったのでしょうか?
■パワーにも乗り味にも影響する「ピストンクリアランス」
ルックス的には、空冷エンジンはシリンダーやシリンダーヘッドにエンジンを冷やすための冷却フィンが刻まれています。対する水冷エンジンは表面がツルっとして突起が無くシンプルですが、冷却水を冷やすためのラジエターを装備しています。しかし空冷と水冷は見た目だけでなく、エンジンの中にも違いがあります。
空冷エンジン(右)はシリンダーに設けた冷却フィンを走行風で冷やす。温度管理が難しいため金属の熱膨張に対して余裕を持たせ、シリンダーとピストンの隙間(ピストンクリアランス)が広い。対する水冷エンジン(左)はシリンダーに設けたウォータージャケットに冷却水を流し、その冷却水をラジエターを用いて走行風で冷やすため温度管理しやすく、ピストンクリアランスを狭く設定できる
ピストンやシリンダーは熱によって膨張するため、エンジンが温まった状態で適正な隙間になるように、ピストンクリアランスが設定されています。そのため温度を管理しやすい水冷はピストンクリアランスが狭く(熱膨張時にキッチリ合わせた設計が可能)、温度管理しにくい空冷は広く設定する必要があります(熱膨張に対して余裕を持たせる)。
あくまで参考値ですが、水冷のピストンクリアランスは3/100mm程度で、空冷は5~7/100mm程度と言われています(市販車やレーサー、ピストンやシリンダーの材質などによっても異なる)。
ほんのわずかな違いですが、クリアランスが大きいとスロットルを開けた瞬間のレスポンスが鈍くなり(爆発した燃焼ガスが隙間からクランクケース方向に抜ける量が多い。これを「ブローバイ」と呼ぶ)、パワーも出しにくくなります。
しかしレスポンスの鈍さを良い方向に解釈をすれば「穏やかな特性」とも言えます。そのため、空冷エンジンはスロットルを開けやすく神経質にならずに乗れるから楽しい、味がある、と評価されるワケです。
エンジンレイアウトや排気量が同一で冷却方式だけが異なる、というバイクが存在しないので単純に比較することはできませんが、たとえばホンダの単気筒エンジンで比べると、空冷の「GB350」は水冷の「CB250R」より排気量が99ccも多いですが、最高出力は7馬力低いです。
カワサキの並列2気筒では、空冷の「メグロK3」(773cc:52馬力)と水冷の「Z650RS」(649cc:68馬力)も、似たような対比になります。スペックを競うなら、水冷エンジンの方が断然に有利です。
■環境性能でも不利な空冷エンジン
とはいえライダーにも様々なタイプや好みがあるのだから、スペック重視の水冷だけでなく、空冷エンジン車のラインナップも増やせば良いのに……とも感じますが、そうはいかない事情があります。
じつはピストンクリアランスが広いと、前述した「ブローバイ」が増えてしまいます。またクリアランスの狭い水冷よりエンジンオイルが燃焼しやすいため排気ガスが汚れ、排気ガスを浄化する触媒(キャタライザー)も傷めやすくなり、昨今厳しさを増している排出ガス規制に対して非常に不利です。
近年の電子制御式燃料噴射(FI)システムは優秀なので排出ガス規制に対応するセッティングも可能ですが、それを行なうと出力やトルクが大幅に低下するため、スポーツバイクとしての商品性が下ってしまいます。
また水冷エンジンはシリンダーのウォータージャケットが「防音壁」の役割も果たすので、騒音問題でも有利です。反対に空冷の冷却フィンはエンジンの爆発に共振したり、ともすれば増幅するため音量的にも不利な部分があります。
このような理由で、空冷エンジンは動力性能だけでなく環境性能でも厳しい面が多く、ラインナップを増やすどころか、各種規制に対応できずに姿を消すパターンが少なくありません。
■とはいえ空冷の灯(火?)は消えず
現在、日本メーカーの空冷エンジン車は極めて少数派になっています。国内販売モデル(生産中で、レース用車両除く)だと、ホンダは「GB350/S」と「スーパーカブ」シリーズ、「ダックス」や「モンキー」などの「125」シリーズが空冷です。
ホンダの人気の「125リバイバル」シリーズは、スーパーカブ系をベースとした空冷単気筒エンジンを搭載。写真は「モンキー125」
ヤマハはゼロ。スズキは「ジクサー150」が空冷で、原付1種/2種のスクーターは強制空冷方式です。そしてカワサキは「W800」と「メグロK3」が空冷エンジン車です。
とくにスポーツバイクでは空冷エンジン車はかなり寂しい状況と言えます……が、新型がまったくラインナップされないワケではありません。
記憶に新しいところでは、2023年10~11月に開催された『ジャパンモビリティショー』および2024年春の『モーターサイクルショー』で、カワサキが展示した「KLX230」、「W230」、「メグロS1」の3機種は空冷単気筒エンジンを採用しており、カワサキは国内導入予定と発表しています。
『ジャパンモビリティショー2023』に出展したカワサキの新型「KLX230」は、詳細なスペックは未発表だが空冷単気筒エンジンを搭載。すでに海外発表しているスーパーモタードの「KLX230SM」と合わせて、国内導入予定としている
スペック重視のスポーツモデルでは難しいかもしれませんが、趣味の乗り物としてのバイクであれば、空冷エンジンの需要はまだまだ尽きないのではないでしょうか。
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