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バイクのフロントフォーク、「正立」と「倒立」はナニが違う?

バイクのニュース / 2024年8月30日 11時10分

現行スポーツバイクのフロントフォークは「倒立式」が主流です。見た目は昔からあるフロントフォークを逆さまにした感じなので、呼び名の意味合いはなんとなくわかりますが……フォークを逆さまにすると、なにか良いコトがあるのでしょうか?

■正立式と倒立式は、ドコが違う?

 現行バイクの多くはフロントサスぺンションに「テレスコピック式フロントフォーク」を採用しています。重なった筒が伸縮する望遠鏡(英語でテレスコーピング)が語源になっていますが、このテレスコピック式には、大別して「正立式フロントフォーク」と「倒立式フロントフォーク」があります。

写真左が正立式フロントフォークで、右が倒立式フロントフォーク写真左が正立式フロントフォークで、右が倒立式フロントフォーク

 バイクのパーツや構造ではありがちなパターンですが、テレスコピック式フロントフォークは長らく正立式が主流だったため、昔は敢えて「正立式」とは呼ばず、倒立式フロントフォークが登場してから区別しやすいように正立式と呼ばれるようになりました。

■モトクロスレースでメジャー化した倒立式

 じつは、テレスコピック式フロントフォークの登場当時(1930年代頃)から、倒立式フロントフォークは存在しましたが、あまり普及しませんでした。ところが1970年代頃から、モトクロスレースで倒立式フロントフォークが使われるようになってきました。

市販モトクロッサーで初めて倒立式フロントフォークを装備した1989年型のヤマハ「YZ250」市販モトクロッサーで初めて倒立式フロントフォークを装備した1989年型のヤマハ「YZ250」

 凹凸の激しいコースを走り、ジャンプからの着地でショックを吸収するには長いストロークと強度や剛性が求められますが、正立式フロントフォークだと鉄製のインナーチューブを長く伸ばしたり太くする必要があり、どうしても重くなってしまいます。

 しかしアルミ製のアウターチューブを上側にした倒立式フロントフォークなら、鉄製のインナーチューブをあまり長くせずに済むため重量増を抑えられます。さらにフロントフォーク保持するトップブリッジとアンダーブラケットとの嵌合部分も、太いアウターチューブのおかげで接触面積が増えて剛性がアップするメリットもありました。

 そうして倒立式フロントフォークは1980年代のモトクロスレースでメジャーになり、1989年には市販モトクロッサーのヤマハ「YZ250」が倒立フォークを装備しました。

 しかしオンロードのレースではモトクロッサーのようなフロントフォークの長さを必要としないため、当時の倒立式フロントフォークは重量面でのメリットがありませんでした(むしろ正立式フロントフォークより重くなる場合もあった)。

 しかしレースの高速化やタイヤやブレーキの進化に対応できる「剛性」が必要になり、当時のトップカテゴリーのGP500クラスでは、1989年にホンダ「NSR500」が倒立式フロントフォークを採用しました。

 すると当時は「レプリカブーム」だっただけに、同年の1989年にカワサキが「ZXR400/250」に市販車で初めて倒立式フロントフォークを採用し、瞬く間に普及していきました。

■性能追求なら倒立式が優位だが……

 こうして倒立式フロントフォークは1990年代から高性能ロードポーツやオフロードモデルに装備されるようになり、近年はスーパースポーツ車はもちろん、多くのネイキッド車も倒立式フロントフォークが主流になりつつあります。

電子制御式サスペンションのフロントフォークは総じて倒立式。写真はドゥカティ「パニガーレV4S」のオーリンズ製の倒立式フロントフォーク電子制御式サスペンションのフロントフォークは総じて倒立式。写真はドゥカティ「パニガーレV4S」のオーリンズ製の倒立式フロントフォーク

 高い剛性もさることながら、倒立式フロントフォークは内部容積の大きさを活かし、ダンパー機能や構造も目覚ましく進化しています。その意味では近年の電子制御式サスペンションも、減衰力をコントロールするアクチュエータや電磁弁などを内蔵するために、内部容積の大きな倒立式フロントフォークが必須と言えます(市販車では正立式フロントフォークの電子制御式サスペンションは存在しない)。

 というワケで、スポーツ性能を追求する上ではフロントフォークは正立式より倒立式の方が間違いなく優位です……が、正立式にもメリットがあります。それは適度な“しなり”と重量バランスによるステアリング慣性の大きさです。

 たとえばクラシック系やクルーザー(いわゆるアメリカン)などのカテゴリーのバイクでゆったりツーリングしたり、路面がサーキットのようにキレイではない一般道の街乗りでは、素早く(=過敏に)反応する倒立式フロントフォークよりも、ハンドリングが穏やかな正立式フロントフォークの方が安心して快適に走れるシーンも少なくないからです。

 また、減衰力の調整機構などを持たないシンプルな構造の正立式フロントフォークなら、製造コストの面で有利なので、グローバルモデルの中には正立式フロントフォークでプライスを抑えている車両もあります。そのため現行スポーツバイクのフロントフォークは倒立式一択ではなく、車両のカテゴリーなどで正立式と使い分けています。

簡単な見分け方としては、インナーチューブが上側にあるのが「正立式」で、インナーチューブが下側になると「倒立式」簡単な見分け方としては、インナーチューブが上側にあるのが「正立式」で、インナーチューブが下側になると「倒立式」

 そこで国内メーカーを見てみると、ホンダは住み分けがけっこう明確で、クルーザーの「レブル」シリーズ(250/500/1100)や、レブルがベースの「CL250/500」、ネオクラシックの「GB350/S」、教習所でお馴染みのグローバル車「NC750X」、そして「CB」の伝統を守る「CB1300SF/SB」は正立式フロントフォークで、その他は小排気量の「CB125R」からスーパースポーツの「CBR1000RR-R」まで、倒立式を採用しています。

 ヤマハの現行生産車(国内販売モデル)は、「MT-07」と派生モデルの「XSR700」のみ正立式です。ところが同じエンジンを搭載する「YZF-R7」と、本格アドベンチャーの「テネレ700」は倒立式なので、これもカテゴリーで使い分けている好例でしょう。

 スズキ(販売モデル)は「Vストローム650/XT」や「SV650/X」など、排気量が650ccまでのスポーツバイクはすべて正立式で、それ以上の排気量はすべて倒立式フロントフォークを装備しています。

 そしてカワサキは、カウリング装備のスポーツモデル「Ninja」シリーズもネイキッドの「Z」シリーズも、4気筒エンジン車は倒立式フロントフォーク、2気筒エンジン車は正立式です。

 さらに「W800」や「メグロK3」、「エリミネーター」も2気筒エンジンで正立式ですが、アドベンチャーの「べルシス」は4気筒の1000も2気筒の650も倒立なので、気筒数で使い分けているわけではなさそうです。

 ちなみに、電動(EV)の「Ninja e-1」および「Z e-1」、ハイブリッドの「Ninja 7 Hybrid」および「Z7 Hybrid」は、全車が正立式フロントフォークです。

 以上のように、正立式フロントフォークもまだまだ健在。今後は部品の共通化によるコストダウンなど、機能以外の理由もあるかもしれませんが、倒立式と正立式を上手く使い分けていくのではないでしょうか。

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