ミュージアムで知ったイギリスのサーキットの歴史。最先端のマシンが戦う場所で、過去に思いを馳せる
バイクのニュース / 2024年9月1日 12時10分
MotoGP第10戦イギリスGPの取材のために、「Silverstone Circuit(シルバーストン・サーキット)」を訪れました。ここにはミュージアムもあり、足を運んでみました。
■サーキットに歴史アリ。深く知ると見る目が変わる
MotoGP第10戦イギリスGPを取材するために、わたし(筆者:伊藤英里)は「Silverstone Circuit(シルバーストン・サーキット)」を訪れました。バーミンガムからクルマで100kmほど南東に走ったところにあるサーキットです。ロンドンから向かう場合は、北西に130kmほど走ります。
高台からパドックを見渡した様子。右手は「THE SILVERSTONE WING」というピットなどが入る複合施設
イギリスの夏は、年々亜熱帯のような気候になりつつある日本とは違って、8月でも朝夕は涼しい……どころか寒いと感じる日があるくらいです。
昨年、イギリスGPを取材したときは寒かった記憶があります。1年前の『ぶら歩き』の記事を掘り起こしてみると、「曇天の下、サーキットの中をぶらぶらと歩いたイギリスGPの金曜日、わたしは長袖シャツの上にパーカーを着て、ボトムスの下に60デニールのタイツを履いていた」と書いていました。そうそう、そのくらい寒かったのです。
今年は木曜日と金曜日は寒いどころか晴天で気温が上がり、汗をびっしょりかいて歩き回っていました。けれど土曜日、日曜日にはだんだん気温が下がって、長袖のパーカーなしには外を歩けない気温になりました。朝夕には雨も降りました。イギリスの天気は「Four Seasons In One Day」だとイギリス人が言っていました。なんとも気ままなのです。
フードスタンドで買ったハンバーガー。ケチャップなどは好みで自分でかける。お値段10ポンド。高い!
イギリスGP取材の前、わたしはサーキットから35kmほど離れたノーサンプトンという街に、民泊の形で滞在していました。ホストマザーにMotoGPの取材に来たと話すと(これは海外で出会った人にする、わたしのお決まりの質問なのです)、彼女は「ああ、なるほどね」とうなずきました。そして「わたしはモータースポーツはあまり好きではないんだけど」とも言うのです。
ノーサンプトン駅の壁に展示されていた「ノーサンプトンの歴史」の中で、シルバーストン・サーキットで行なわれた最初のイギリスGPのことが語られていたので、シルバーストン・サーキット自体が親しまれているのかもしれません。とはいっても、好きではないのにMotoGPを知っているということには驚きました。徐々にイギリスのことを理解してきたとはいえ、こうした何気ない会話から、イギリスにモータースポーツが根付いていることを感じます。
さて、2回目に訪れたシルバーストン・サーキットで、わたしはぜひとも行ってみたい場所がありました。それはサーキットのメインエントランス横に建つ、ミュージアムです。中に入ると、1階部分はグッズショップになっていました。ミュージアムの入館料は27.5ポンド。チケットの代わりに細い紙の腕輪を手首に巻き付けて入ります。
ミュージアムの中には歴代チャンピオンたちの紹介があった。が、2輪のみのチャンピオンとしてはバレンティーノ・ロッシのみ。4輪、2輪でチャンピオンになったジョン・サーティースは紹介されていたが、イギリス人のレジェンドライダー、バリー・シーンはいなかったような……
ミュージアムの入口は2階です。2階部分には、サーキット周辺の歴史からつづられていました。シルバーストン・サーキットがある場所は第2次世界大戦中の1941年にイギリスの航空省によって徴用されて飛行場となり、爆撃機司令部の訓練基地となったのだそうです。
終戦後の1948年10月2日、かつての空軍基地で、ロイヤル・オートモービル・クラブによって4輪レースが開催されました。1950年5月には、F1の第1回大会としてイギリスGPが開催されたのだそうです。なるほど、確かにシルバーストン・サーキットを歩いていると、F1への大きなリスペクトが感じられたのですが、それはこうした歴史からきているのでしょう。
例えば、エントランスを入って間もなく見える橋の下の壁には、ルイス・ハミルトン選手をはじめとするイギリス人のF1ドライバーが描かれています。昨年はハミルトン選手とデビッド・クルサード選手だけでしたが、今年はランド・ノリス選手とジョージ・ラッセル選手が増えていました。
また、ミュージアム内の壁に4輪、2輪のチャンピオンを紹介する展示があるのですが、ほとんどが4輪ドライバーです。2輪のみのチャンピオンは、通算9度のタイトルを獲得したレジェンド、バレンティーノ・ロッシ。2輪を取材する身としてはさみしい気もしますが、それだけシルバーストン・サーキットにとってF1が大きな意味を持っているのだと思います。
バリー・シーンがチャンピオンを獲得したときに走らせた1976年、1977年のスズキ「XR14 RG500」。バリー・シーンは今のところ、最後のイギリス人最高峰クラスチャンピオン
ミュージアムの1階には、フォーミュラカーやWGP、MotoGPマシンが並んでいます。マシンだけではなく、現在のフォーミュラカーにどんなテクノロジーが使われているのか、どんなエンジンが搭載されているのかを伝える展示や、2030年に向けたサスティナブルな取り組みの解説もありました。
シルバーストン・サーキットの「過去」とともに、モータースポーツの「今」、そして「未来」を知ることができる展示ではないでしょうか。個人的には、じっくり見ていくと1日は欲しいくらいのボリュームでした。歴史好き、4輪を含めたモータースポーツ好きにはオススメのミュージアムです。
ミュージアムを出てサーキットを歩いていると、なるほど、と納得します。もちろん、事前知識として「シルバーストン・サーキットは空軍基地として使用されていた」と知ってはいました。しかし、展示で写真を見て、より深く知ったことで、見え方が変わったように感じるのです。広大な土地は、平らで遠くを見渡すことができます。かつて、飛行機が飛んでいた場所です。
やがて、Moto3マシンのエキゾーストノートが聞こえてきました。サーキットが歩んだ歴史を思いながら、メディアセンターへと足を向けました。こんなサーキットの歩き方もいいな。そう思いながら。
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