スポーツライディングの革命児!! 自動変速機構を備えた「MT-09 Y-AMT」に試乗
バイクのニュース / 2024年9月24日 7時10分
モーターサイクルジャーナリストの伊丹孝裕さんが、ヤマハの最新モデル「MT-09 Y-AMT」に試乗。その走行性能や利便性について紐解きます。
■「Y-AMT」がもたらすライディングの変化
ヤマハ発動機が発表した新型ロードスポーツ「MT-09 Y-AMT」に試乗しました。「Y-AMT」とは、「Yamaha Automated Transmission」の略称で、従来のマニュアルトランミッション車からクラッチレバーとシフトペダルを廃した機構のことを指します。
ヤマハ「MT-09 Y-AMT」に試乗する筆者(伊丹孝裕)
構造上、AT限定の大型2輪免許で乗車が可能なわけですが、操作をさぼるためのシステムではありません。ベースになったモデルがクルーザーでもツアラーでもなく、スポーツバイクの中でもアグレッシブなキャラクターで知られる「MT-09」であることに、その意味を伺い知ることができます。
ヤマハ「MT-09 Y-AMT」。ご覧の通り、シフトペダル、クラッチペダルは存在しません
試乗会はサーキット(袖ケ浦フォレストレースウェイ)で開催されました。かなり高負荷をかけられる環境だったとはいえ、その夜、普段ならちょっとやそっとのことではならない筋肉痛が発生。しかも右腕だけがやたらと重く、不思議に思っていたところ、「あぁ、そうか」と腑に落ちたことがひとつ。それこそが、Y-AMTがもたらしたライディングの変化でした。
■スポーツライディングにおけるイノベーション
ヤマハ「MT-09 Y-AMT」。シフト操作は左スイッチボックス下に備えられたシーソー状のレバーで行うことが出来ます
既述の通り、クラッチレバーとシフトペダルが存在しないのがこのモデルです。シフトアップとダウンのすべてを制御に一任する「ATモード」もありますが、その動作確認は数周に留め、結局、走行の大半を「MTモード」で走らせました。なぜって楽しいから。
MTモードを選択すると、シフトチェンジの権利はライダーへ移行します。ハンドル左側のスイッチボックスに備わるシフトレバーを、押す/引く/弾くことによって、好みのギヤへ切り替えられ、ライディング中の操作は、左手人差し指と親指のわずかな動きのみ。左足はステップに乗せておくだけです。
ヤマハ「MT-09 Y-AMT」と筆者(伊丹孝裕)。試乗会後に右手が筋肉痛になるほど、右手の操作に集中できました
すると、どうなるか。意識のほとんどがスロットルとブレーキ、つまり右手に注がれ、いつも以上に繊細になったり大胆になったり、素早くなったり丁寧になったり、瞬間的だったり緩急がついたり。それまで10段階だったスロットルの開閉とブレーキの強弱が、30段階くらいの緻密さになった。そんなイメージです。そうやって、右手の神経がフル稼働した結果として筋肉痛が起きた、という流れだと思います。
Y-AMTは、スポーツライディングにおけるイノベーションです。そのメリットは多岐に渡り、まずスロットルとブレーキ操作の精度が向上。それが走行ラインの高い再現性につながり、今回は実測できていませんが、ラップタイムの向上と安定ももたらしていると想像します。数日の筋肉痛くらい、喜んでくれてやりましょう。
ヤマハ「MT-09 Y-AMT」。進行方向右から見た姿はY-AMT非搭載モデルと変わらない印象です
あらためて感じたのは、やはり足による操作は簡略化されるに越したことはないのだな、ということ。シフトペダルの操作が当たり前になっていると、特に不便なく足でかき上げたり、踏み込んだりしているでしょうが、それがまったく無くなると下半身と車体の挙動が明らかに安定。ステップワークや体重移動をより素早く、より精確にこなすことができ、コーナリングの質の高まりを感じられます。
■「Y-AMT」の構造を改めておさらい
そんなY-AMTの基本構造ですが、「クラッチを握る・離す」、「シフトペダルを上げる・下げる」という人力操作をクラッチアクチュエータとシフトアクチュエータが機械的、電気的に担い、点火タイミングやスロットルバルブと連携しながら、ライダーの直接入力に成り換わって変速するというもの。
ヤマハ「MT-09 Y-AMT」に搭載されたエンジンのカットモデル。エンジン背面に備えられたクラッチアクチュエータとシフトアクチュエータにより変速が行われます
追加されたユニットの重量増は2.8kgに抑えられ、その大半がクランクケース上部のスペースに収まっているため、乗車環境に対する物理的な影響もほぼありません。
左手スイッチボックス下に備えられたヤマハ「MT-09 Y-AMT」のシフトレバー。親指で押すことでシフトダウンできます
ハンドルグリップを握り、シフトレバーを「人差し指で引いてシフトアップ」、「親指で押してシフトダウン」が基本操作になりますが、レバーはシーソー式で一体化されているため、「人差し指の爪側が弾いてシフトダウン」といった使い方も可能です。
サーキットを走行する上で、このハンドシフトの恩恵はいくつもあります。最もわかりやすいのは、ストレートエンドのコーナー手前で、5速から4速→3速→2速と一気にシフトダウンする時でしょう(今回の袖ケ浦フォレストレースウェイが実際にそう)。
速度と姿勢の変化率が大きく、クイックシフター装着車でも少なからず挙動の不安定さを招く部分ですが、Y-AMTなら躰をしっかりホールドさせた状態で、テンポよく完了。集中力の大半をライン取りに振り分けることができるのです。
ヤマハ「MT-09 Y-AMT」に試乗する筆者(伊丹孝裕)。シフト操作を指先だけで行えるためライン取りに集中することができました
極端なオーバーレブを防ぐため、あまりに早い「パンパンパンッ」といったゲームじみたテンポは受けつけないことがありますが、それが起こる条件に不規則性はなく、たとえば「パンパン・パンッ」とタイミングを計ることで解決。「クイックシフターやクラッチレバー操作なら受けつけてくれるのに」と思ったとすれば、それはかなりの確率で力づくの操作を許容してくれていたに過ぎず、駆動系の耐久性確保という意味でも、Y-AMTは優位だと考えます。
これに加えて、フルバンクか、それに近い状態でもシフトチェンジが容易なこと、体重移動の自由度が高まることなど、集中力を維持したまま、スポーツライディングに没頭できるところにメリットがあります。
ヤマハ「MT-09 Y-AMT」に搭載されたシフトアクチュエーター。カバードされているため外観を損ねることもありません
また、こうしたシステムの場合は、シフトチェンジのスムーズさもひとつの評価基準になるかと思います。スクーターなどに搭載された「CVT」のように途切れなく、ホンダが採用する「DCT」のように滑らかに減速比が変化していく様をイメージするかもしれませんが、それらと比較すれば、Y-AMTにはシフトショックがあります。
特にシフトアップ時は、レバー操作に連動して「カツン、カツン」というチェンジ感が躰に伝わってきます。ただし、駆動切れのようなタイムラグがあるかと言えば、それは観察されず、精度の高いクイックシフターと同様の素早さです。したがって、上体が前後に揺すられるようなこともないまま、瞬く間に増速。袖ケ浦フォレストレースウェイの短いストレートでも、メーター読みで悠々と200km/hを超えていきます。
しばらく走行し、「なるほどね」と思いました。冒頭で記した通り、MT-09 Y-AMTは生粋のスポーツバイクです。ショックやサウンドを徹頭徹尾丸めるよりも、状態の変化がある程度残されている方が操ってる感が損なわれず、積極的なマインドになれるのです。
このように、あまり過保護になりすぎない寸止め感に、スポーツバイクメーカーとしてのヤマハの思想が見て取れます。MTモード選択時は、基本的にライダーの意志が尊重され、もしもレブに当たるような場面でも勝手にギヤチェンジすることはありません。信号や渋滞路で一時停車した時は1速に戻る他(しかし車速がゼロになるぎりぎりまで粘ってくれる)、走行中は極端なアンダーレブ時にのみ(たとえば6速でヘアピンに進入し、アイドリング付近まで回転が下がるような)、シフトダウンする。その程度に留められています。
■フレキシブルなギヤ選択の余地が残された「AT」モード
一方で、きちんと先回りしてくれる部分もあります。メインスイッチを切り、エンジンを停止させるとクラッチが繋がった状態(=1速に入った状態)となり、傾斜した路面でも自重で動いたりしないセーフティ機能です。
ヤマハ「MT-09 Y-AMT」。右スイッチボックスにはAT/MTの切り替えスイッチを搭載。人差し指で操作できる位置に設置されています
パーキングブレーキを備えたAT車の場合、かけ忘れによる立ちゴケトラブルが珍しくありませんが、これだとその心配がありません。
さて、目一杯スポーツライディングを堪能し、ちょっとリラックスしたい、帰路は楽して走りたい、となったなら、あとはATモードにお任せできます。これには、シフトタイミングと出力特性が異なる「D」と「D+」の2パターンのプログラムが用意され、穏やかさを望む時は「D」を、スポーティさを残しておきたい時は「D+」を選択すれば、左手は完全に解放。制御に委ねた安楽な走りが可能です。
ATモードのシフトタイミングは、バンク角の情報と連動しているわけではなく、スロットル開度と減速度を検知して決定されます。なので、コーナリング中の微妙な速度上昇を拾い、システムが「今がシフトアップどき」と判断しても、ライダーとしてはギヤをキープしたまま引っ張っていたい、といった感覚のズレが時折生じるのは否めないところ。
ただし、ATモード中でもシフトレバーの操作を介入させられるため、思ったよりギヤが高い時は自分の意志でシフトダウンできる他、軽くブリッピングすることによって自動的に1段落とせるなど、フレキシブルなギヤ選択の余地が残されています。
ヤマハ「MT-09 Y-AMT」に試乗する筆者(伊丹孝裕)。Uターンもスムーズにこなせました
ここまで、スポーツライディングやファンライディング目線での印象を記してきましたが、AT機構である以上、スローペース下での扱いやすさも見逃せません。つまり、極低速域やUターンにおける半クラ制御の巧みさはどうなんだ、という話ですが、今回の試乗車中、ジャダー(振動や音)のような症状が出た車両がありました。
8の字やスラロームが試せるスペースに用意された車両の中、クラッチのつながりがやや唐突な個体が一台あり、それに乗った一部のテスターは、同じような印象を試乗記に残しているかもしれません。もっとも、すぐに対策がなされ、完調な状態に、つまり極めてスムーズな状態になっていたため、発売開始前の個体差と考えてよさそうです。このあたりの再検証は、あらためて一般公道で試してみたいと思います。
ヤマハ「MT-09 Y-AMT」
当たり前ですが、ストップ&ゴーやハンドルフルロック状態をスロットル操作のみでやり過ごせる恩恵はあまりに大きいですね。軽量コンパクトとはいえ、車重196kg、シート高825mm、排気量888ccの車体です。スキルや体格を少なからず選ぶモデルながら、その間口がY-AMTの装備によって、格段に広がったことは間違いありません。
こうした便利デバイスが登場すると、特に僕ら世代(50歳オーバー)の少なくない面々から、色々な声が聞こえてきます。「バイクは面倒な操作を楽しむもの」、「楽したいならスクーターでも乗っとけ」、「両手両足をフルに使ってなんぼ」、「俺たち限定解除世代は~」と、そりゃもう、なにか言わずにいられない人たちがたくさん。
もちろん、それはそれでわかります。でも、クラッチレバーを持つ「MT-09」のスタンダードモデルと、足まわりを強化した「MT-09 SP」もこれまで通りラインナップされています。このMT-09 Y-AMTは、あくまでも新たな選択肢として送り出されたのですから、歓迎すべきでしょう。だからどうか、ライディングに一家言持つベテランはマウントを取ろうとせず、ライダーの裾野を広げるお手伝いをしてあげてください。そして、試乗くらいはしてみてください。
ヤマハ「MT-09 Y-AMT」に試乗する筆者(伊丹孝裕)。グローブをしていても右手シフトレバーの操作感に違和感はありません
僕ですか? 僕がヤマハ車の購入を検討する時、そのモデルにY-AMT仕様があれば、おそらくそれを選びます。スポーツにどっぷり浸れて、ツーリングも快適にこなせて、なにより操作フィーリングが心地いいのだから、選ばない理由はありません。
そしてロードスポーツやツアラー、アドベンチャーはもちろん、スーパースポーツにもこれが拡大し、シフトレバー位置や大きさ、変速スピードまでパーソナルなアジャストが可能になったら、さらに楽しみが増すことでしょう。スポーツバイクの世界に、新たな価値をもたらしてくれたことを感謝しています。
MT-09 Y-AMTの車両価格(消費税10%込)は、136万4000円。車体色は、ディープパープリッシュブルーメタリックとマットダークグレーメタリックの2色展開で、2024年9月30日から発売が始まります。
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