【世界に挑む日本人ライダーの足跡】Moto3古里太陽選手が駆け上がった階段。「レース以外の将来はない、と思っていた」
バイクのニュース / 2024年9月26日 13時10分
この企画では、MotoGPに参戦する日本人ライダーの、世界へ至る足跡を紹介します。今回は、Moto3クラスに参戦する古里太陽選手(ホンダ・チームアジア)に話を伺いました。
■幼少期から見ていたMotoGP
2024年シーズンのロードレース世界選手権Moto3クラスに参戦する最年少日本人ライダー、古里太陽選手(ホンダ・チームアジア)がバイクに乗り始めたのは、5歳になる頃のことでした。お父さんが趣味でバイクに乗っていた……と、きっかけは珍しいものではありませんが、「僕が元々、好きだったんです。年上のいとこが4輪好きで、僕は2輪の方が好きでした」とも言います。
古里太陽選手(#72/Honda Team Asia)。2024年シーズンのMotoGP第9戦ドイツGPでは2位を獲得
当時、すでにMotoGPをテレビで見ていたというから、ずいぶん早くからレースに興味があったのだなと、驚きます。古里選手の原点には少年時代に観戦したMotoGPがあった……かもしれません。
「(ホルヘ・)ロレンソ(2010、2012、2015年MotoGPチャンピオン)がすごく好きでした。あとは、ケーシー(・ストーナー。2007、2011年MotoGPチャンピオン)。ずっとMotoGPを見ていたので、バイクが好きだったんです」
「乗りたいな、と言ったら、お父さんが誕生日に買ってくれた」というバイクは、ヤマハのキッズ向けファンバイク「PW50」でした。けれど、最初のうちは古里選手に大き過ぎたため、ポケバイの「74Daijiro」を求めて福岡のサーキットに行ったそうです。
「(当時は)真崎一輝くん(元Moto3ライダー)や、(鳥羽)海渡くん(2023年までMoto3に参戦。今季はスーパースポーツ世界選手権を戦う)などが(ポケバイで)走っていたときでした。たまたま74Daijiroがあって、いろいろな縁があってバイクを買うことになって、乗り始めたんです」
古里選手が「プロのレーシングライダーになる」と決めたのは、いつだったのでしょう。そう尋ねると、古里選手は「SRSに入ったとき」と答えました。
『SRS(鈴鹿サーキットレーシングスクール)』とは、ホンダ・レーシングが監修する、国内外で活躍するライダー(ドライバー)育成を目的としたレーシングスクールです。現在の名称は『HRS鈴鹿(ホンダ・レーシング・スクール鈴鹿)』となっています。古里選手がSRSに入校したのは、11歳のころでした。
古里太陽選手(#72/Honda Team Asia)
「“なるんだ”というか、失敗するつもりでは走っていませんでした。“なって当たり前だろう”くらいに思って頑張ったら、たまたまMoto3にたどり着いたんです」
古里選手にレース後に話を聞きに行くと、その芯の強さ、負けん気を、レースの余韻とともにびりびりと感じることが、ままあります。その言葉を聞いたときも、同じでした。疑問が挟まる余地のない、純粋な負けん気、とも言えるものが存在していました。
2019年には鈴鹿サンデーロードレースJ-GP3クラス(ナショナル)チャンピオンを獲得し、翌年、世界選手権への足掛かりとなるイデミツ・アジア・タレントカップ(IATC)に参戦。2020年は新型コロナウイルス感染症の影響で第2戦以降はキャンセルとなりましたが、2021年、IATCで全戦優勝を果たしてチャンピオンを獲得します。また、この年には、MotoGPへの登竜門であるレッドブルMotoGPルーキーズカップにも数戦、参戦しています。
2021年のイデミツ・アジア・タレントカップ(IATC)では全戦優勝でチャンピオンを獲得
IATCからレッドブルMotoGPルーキーズカップはもちろん、FIM CEVレプソルMoto3ジュニア世界選手権(現在のFIMジュニアGP世界選手権)を経て世界選手権に駆け上がっていくのが通常のステップですが、古里選手はほとんどIATCから一足飛びに、2022年のロードレース世界選手権Moto3クラスにデビューを果たしたライダーでした。
「ほんとはCEVに行く予定だったんですけど、たまたまチームアジアでMoto3を走ることができました。いわゆる飛び級だったので、1年目はすごく苦労しましたね。初めてのサーキットも多かったし、バイクも違ったし。(スペインの)ヘレスみたいなサーキットに来るとスペイン人が速いですしね。経験で言うと僕は(スペイン人よりも)少ないから。1年目苦戦して、2年目に調子が上がって来て、3年目を迎えています」
その間、モチベーションは変わらなかった、と古里選手は言います。
「基本的にバイクが好きで、ずっと変わらない。そういう意味では苦労しなかったです」
「バイクが好きなんですね」と当たり前の質問かもしれないと思いながら問えば、「はい」と一言、こくりとうなずきました。
■「もし、レーシングライダーになっていなかったら?」
最後に、この企画で全てのライダーに聞いている質問です。「もし、レーシングライダーになっていなかったら、就いてみたかった職業はありますか?」……。
古里選手は「わからないですね」と、即答でした。
「レース以外の将来はないだろう、と思っていたので。すごく生意気かもしれないけど、レースで失敗するって思ったことがなかったんです。そういう意味では、(レース以外は)考えたことがないです。ただ、頑張ってきただけなのかもしれませんけど」
駆け上がった先の世界選手権Moto3クラスという舞台で、古里選手はいま、激しい接戦を繰り広げています。
2024年シーズン開幕戦、カタールGPで3位獲得
■古里太陽(ふるさとたいよう)/ホンダ・チームアジア/#72
2005年7月12日生まれ。
2020年:イデミツ・アジア・タレントカップ参戦。第1戦カタール大会レース1で2位獲得。新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響で、以降の大会はキャンセルとなる
2021年:イデミツ・アジア・タレントカップ全戦優勝でチャンピオン獲得。レッドブルMotoGPルーキーズカップに数戦参戦。イタリア・ムジェロ大会レース1で優勝
2022年:ロードレース世界選手権Moto3クラスに「ホンダ・チームアジア」から参戦
2023年:Moto3クラスに参戦。タイGPで2位、初表彰台を獲得
2024年:Moto3クラスに参戦。表彰台2度獲得(エミリア・ロマーニャGP終了時点)
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