電動アシスト自転車の3倍パワーで漕ぐのも楽々! 合法で胸を張って乗れる折り畳み電動モペッドがe-PO(イーポ)だ!
バイクのニュース / 2024年9月27日 12時10分
スズキは原付一種の折り畳み電動モペッド「e-PO(イーポ)」のメディア向け試乗会を開催しました。バイクジャーナリストの青木タカオさんが参加し、開発者にお話をうかがいました。
■市販化も近い!?
『e-PO(イーポ)』は昨秋のジャパンモビリティショー2023で参考出品され、今年6月からは公道走行調査を実施。今回、スズキが報道陣を集めた大々的な試乗会を開いたことを考えると、製品化も間近なのかもしれません。
今年6月からは公道走行調査を実施しているスズキの原付一種の折り畳み電動モペッド「e-PO(イーポ)」に試乗する筆者(青木タカオ)
大きな特徴のひとつは、原付一種枠であることです。原付免許や普通自動車免許で運転することができることから、生活の足として幅広く普及した原付一種は、約278万台もの出荷を記録した1982年が最盛期でした。
その後、社会情勢や利用環境の変化により、需要は減る一方で、2023年にはおよそ9万2000台あまりと、ピーク時の3%ほどにまで市場規模が縮小しています。
ただし、保有台数は現在でも約430万台以上があり、二輪車全体の保有台数の約4割を占めています。2025年11月には原付一種の排出ガス規制が強化されることもあって、125ccの出力を制御することによって50cc相当とする新基準原付が設定されるなど、メーカー各社がどのようにして存続させるのか、注目を集めているセグメントです。
今後の指標となっていく新しい原付一種のモビリティだと言える
都市部での短距離移動の手段として、電動キックボードや出力が規制値以上に出すぎている電動アシスト自転車が市場に出回り、問題視されている状況にあるなか、日本国内の大手二輪メーカーが道路交通法に則って開発したというのは大きなトピックであり、今後の指標となっていく新しい原付一種のモビリティだと言えるのではないでしょうか。
カーボンニュートラルへの動きが迫られる今、スズキの提案するひとつの回答が、今回のe-POなのかもしれません。
■スズキの提案する新ジャンル!
「普段使いからレジャーまで、身近な移動をもっと自由に!」をコンセプトに、「電動アシスト自転車の気軽さと、EVスクーターの快適さを融合させた新ジャンルの原付一種モビリティです」と教えてくれたのは、チーフエンジニアの福井大介(二輪事業本部二輪営業・商品部)さんです。
e-POチーフエンジニアの福井大介さん
パナソニックサイクルテックが販売する電動アシスト自転車『OFF TIME(オフタイム)』(税込み15万8000円)をベースに、ペダルを漕がなくても快適に走ることのできるフル電動走行モードを搭載し、メーターや各種ライトなど灯火器類を装備。細部を最適化しています。
「電動アシスト自転車とEVスクーターを融合させた」とのことですが、見た目は自転車の上級モデルといった印象。軽量アルミフレームが採用され、押し引きしても軽く、ハンドルやシートなどを触れた感触もやはりバイクより自転車に近いものです。
■自転車感覚で誰でも運転できる
ハンドル右にはスロットルが備わり、これをひねるとバイク同様に前進します。モーターサイクルでは右手のグリップ全体が回り、アクセルを操作しますが、e-POではグリップの付け根のみがライダー側に回転し、親指と人さし指の2本でつまむようにしてスロットルをコントロールします。
e-POは、グリップの付け根のみがライダー側に回転し、親指と人さし指の2本でつまむようにしてスロットルをコントロールする
「こうした方が、ハンドルをしっかり握ることができます」と、福井さんは言います。
たしかに、繊細なスロットルワークが求められるシーンでも、アクセルを微調整しながら、中指、薬指、小指でグリップをしっかりと掴むことができ、ハンドルが振られた場合などにも対応しやすい。
シートはワンタッチで高さが調整でき、足つき性とペダルの漕ぎやすさを考えながら自分で決めます。
デジタルメーターにある電源ボタンを押せば、すぐに走行OK。アクセルグリップをひねればスムーズに加速し、体重67kgの筆者の場合、メーター読みで35~36km/h程度までトップスピードが達しました。
原付一種の制限速度は30km/hですが、クローズドコースなので最高速を目指します。ライダーがペダルを漕ぐと、電動モーターを補助してくれるのです。
原付一種の制限速度は30km/hですが、クローズドコースで最高速を目指してみた
オフタイムではモーター補助が1:2で、24km/hでアシスト力をゼロにしますが、e-POでは人力の3倍 (アシスト自転車は人力の2倍)にしています。
ペダルを漕ぐと、スピードは46~47km/hにまで伸びていき、下り坂ならもっと車速が上がるはず。動力性能的には十分といった印象です。
福井さんは、バイク同様にスロットル操作だけで走行することを「フル電動走行モード」、モーターの補助を受けつつペダルを漕いで走る状態を「アシスト走行モード」、さらにバッテリー切れが心配な時にペダルのみで走行するのを「ペダル走行モード」と、説明してくれました。
3つのモードは切り替えスイッチなどはなく、乗り手は非常に簡単な操作で運転することができる
3つのモードは切り替えスイッチなどはなく、ライダーがペダルを漕げば「アシスト走行モード」、何もせずグリップをひねって走っていれば「フル電動走行モード」であり、乗り手は非常に簡単な操作で運転することができます。
■前輪ディスクブレーキが秀逸
直線で夢中になって速度を上げると、カーブが待っていました。言うまでもなくブレーキをかけて、コーナーへ進入しなければなりませんが、フロントブレーキのコントロール性が秀逸なことに舌を巻きます。
「ディスクブレーキの安定した制動力と操作性にこだわりました。e-POの専用装備です」と、神谷洋三さん(二輪パワートレイン技術部技術企画課)が教えてくれました。
二輪パワートレイン技術部技術企画課の神谷洋三さんと筆者(青木タカオ)
神谷さんは『HAYABUSA』や『チョイノリ』を手がけてきた人で、e-POのプロジェクトがスタートしたとき、「カーボンニュートラル時代に相応しい新しい移動手段をスズキらしく実現する。二輪メーカーであるスズキがつくるからには、走る・曲がる・止まるはもちろん、楽しくなければならない」と、考えたそうです。
「前輪ブレーキのタッチが優れるので、コーナーアプローチが楽しいです」と筆者が伝えると、神谷さんは頬を緩め「そうでしょう」と、頷いてくださいました。
■都会の移動手段に最適
チーフエンジニアの福井さんは開発時のペルソナ(想定ユーザー)を下記のように絞り込んだと、話してくれます。
チーフエンジニアの福井さんに、e-POの開発経緯を聞く筆者(青木タカオ)
•東京都内在住
•都内企業に勤務する30~40代会社員、男性
•自宅から勤務先まで片道約4km
•普段は電車通勤、出勤はリモートなどもあり、週2日程度
•住まいは、賃貸のマンション/アパート
•移動にかかる負担は最小限にしたい。(金銭的、身体的、精神的、時間的)
開発当初はコロナ禍だったこともあり、世の中の働きかた、通勤・通学の手段が大きく変化しており、そういった状況を踏まえ上記のようなペルソナを設定し、開発を進めたと言います。
「満員電車での通勤・通学から解放され、精神的、時間的な負担を軽減しながら、日常の移動の中に気軽に運動を取り入れられる。そんな新しいモビリティを目指して開発しました」
そして参考出品したのが、昨秋のジャパンモビリティショー2023。アンケート調査をおこなうと「折り畳み機能」が好評でした。
e-POはオフタイムの軽量・コンパクトな車体に加えて、折りたたみ機能をそのまま踏襲しています。クルマにも積載でき、移動先での足として活用することや、保管/駐輪スペースの問題も解消します。
e-POの折りたたみ機能を使うとコンパクトになり、スズキの軽自動車『スペーシア』にも場所を取らずに積載する事ができます
折りたたんだり組み立てたり、慣れれば1分かかりません。写真は『スペーシア』に積載時。装備重量は23kgでしかなく、オフタイムの19.8kgよりわずかに3.2kgも増えたのみとしています。
持ち上げるのも容易く、同クラスのスクーターが70kg程度であることを考えれば、驚異的な軽さと言えます。
単体重量約2.5kgのパナソニックサイクルテック製25.2V16Ahのリチウムイオンバッテリーを採用
航続距離はおよそ20kmほど。単体重量約2.5kgのパナソニックサイクルテック製25.2V16Ahのリチウムイオンバッテリーを積み、同社の電動アシスト付き自転車とバッテリーを共用できるのも大きな利点となりました。
■二輪車メーカーとしての責任
気軽に乗れることから、これまでバイクに乗った経験のない人に乗ってもらい、モーターサイクルに興味を持つキッカケになればいいなと筆者は思います。
スズキの原付一種の折り畳み電動モペッド「e-PO(イーポ)」と筆者(青木タカオ)
グリップをひねれば進む感動や、二輪車ならではの爽快なライドフィールを体験したことを機に、スクーターやスポーツバイクにステップアップしてもらえるかもしれません。スズキならフルラインナップが揃います。
多くの人に乗ってもらうなら、よりハードルの低い特定小型原動機付自転車という手もあったはずです。なぜe-POは原付一種なのか福井さんに聞くと、「国内二輪メーカーとして、まずは免許を保有し交通法規を理解した方を対象に考えている」と教えてくれます。生活の足を支える乗り物として、ルールを含め、すでに馴染みのあるカテゴリーで出すというのは、納得がいくところではないでしょうか。
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