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ヤマハがミナレリにもたらしたもの。日本とイタリア企業の体質の違いとは

バイクのニュース / 2024年10月20日 13時10分

ヤマハの子会社だったイタリアのエンジン製造カンパニーである「ミナレリ」(Motori Minarelli)は、2020年末に「ファンティック」(FANTIC MOTOR)に買収されました。オーナーが変わったいま、ヤマハとファンティックの「違い」をどう感じているのでしょうか。ミナレリの本社で話を伺いました。

■買収を経て成長を続ける、これからのミナレリ

 イタリアのエンジン製造カンパニー「Motori Minarelli」(以下、ミナレリ)は、1951年にF.B.M.(Fabbrica Bolognese Motocicli)として始まりました。以来、特に50ccクラスのような小排気量2輪車エンジンの製造を行なってきたメーカーです。ヤマハとの協力関係は1980年代から始まり、原付バイクの45パーセント以上にミナレリ製エンジンが搭載された、ということです。2002年にはヤマハの子会社となり、現在はボローニャに本社、工場を置いています。

ミナレリのファクトリーで、出荷を待つ「キャバレロ・ラリー500」ミナレリのファクトリーで、出荷を待つ「キャバレロ・ラリー500」

 そして2020年末には「FANTIC MOTOR」(以下、ファンティック)がミナレリを買収することが発表されました。ミナレリは、イタリアの2輪メーカーであるファンティックをオーナーとすることになったのです。

 ファンティックは1968年、イタリア北部のロンバルティア州バルザーゴで創業し、現在の副社長であるマリアーノ・ローマンさんは元々アプリリアのテクニカル・マネージャーとして、ミナレリとともに多くのエンジンを開発してきた人物です。

 ミナレリには付き合いが長い人もおり、ミナレリの社員の半分を知っていると言います。ファンティックとミナレリのパートナーシップは、始まったばかりのように見えて、じつは長い下地があったことがわかります。

 とはいえ、ミナレリは長い間、日本の2輪メーカーであるヤマハの子会社でした。オーナーがファンティックに変わり、その違いをミナレリはどう感じているのでしょうか。ボローニャにあるミナレリの本社を訪ねました。

「ヤマハの子会社だったとき、どんなメリットを得たのでしょうか?」という質問に答えてくれたのは、この日、アテンドしてくれたファンティックのエクスポート・マネージャーであるアンドレア・ベナッティさんです。ベナッティさんは以前日本に住んでいたことがあり日本語が堪能で、日本企業の体質をよく知っていました。

「例えば“Just In Time”(必要なものを必要な時に必要な量を生産して在庫を減らし、効率化する)のコンセプトや、工程の継続的な最適化ですね。これら全てのプロセスが導入されており、それは私たちにとっても非常に価値のあるものでした」

「これらのプロセスがすでに導入されている会社なので、(ファンティックはミナレリを)買収することにしたのです。私たちにとってそれは大きなメリットであり、大きな価値でした」

「“整理、整頓、清掃、清潔、しつけ”。彼ら(ヤマハ)は“5つのS”と呼んでいましたが、日本のマネジメントがこの会社に導入したものです。これはマネジメントサイドの話ですが、技術的な実装もあって、それが“改善、Just In Time”などでした。これも日本のコンセプトで、ミナレリに導入されたものです」

「私たちがこの会社を買収したとき、彼らはすでにそのコンセプトでトレーニングを積んでいました。全てのスタッフはその時代からいて、今、彼らはファンティックの力になっています。つまり、特にエンジンの生産と組み立ては、日本のバックグラウンドによって行なわれているのです」

ミナレリのファクトリー。エンジンだけではなく、バイクの組み立ても行なわれるようになったミナレリのファクトリー。エンジンだけではなく、バイクの組み立ても行なわれるようになった

 ファンティックがミナレリを買収したと言っても、ミナレリとヤマハのビジネスパートナーとしての関係性は続いています。ミナレリは今も、ヨーロッパ向けの全てのヤマハの車両を開発しているということです。ヤマハは現在も、ミナレリに大きな影響を与えていると言います。

 それでは、逆にヤマハという日本企業のネガティブ・ポイントは何でしょう。

 イタリアの多くは中小企業で、その中小企業でさえ、全体の0.5パーセントほどだと言われています。大企業と呼ばれる規模の会社は0.1パーセントにも満たないのです。ミナレリもまた、従業員数192人の会社(2020年10月8日発行ヤマハのプレスリリースより)です。経済を支えているのが日本とは異なることがわかります。

 そうした数字上だけではなく、今回のミナレリ、そしてファンティック本社の取材を通して、筆者(伊藤英里)には実感がありました。イタリアの会社は規模は大きくはないのですが(日本の大企業と比べて、という意味)、その分、会社同士の結びつきが強いのです。それがまさに、ファンティックとミナレリなのだろう、と。

 そんな彼らの目には、ヤマハ、そしてヤマハを通して日本企業がどう映っていたのでしょうか。ベナッティさんはこの質問に対し、「日本の企業は、とてもよく構造化されているのです」と、プラス面から切り出しました。

「全てのプロセスはとても詳細であり、説明されており、そして継続的なチェックを適用します。ですから、もちろんこれはプラスです。なぜなら、生産ラインに多くの信頼性をもたらすことができるからです」

「例えば、生産ラインの最後に私たちが見られるデータがあります。最終的にどのくらいの失敗があるのかがわかるのです。その数はゼロに近いです。生産が信頼できるのです。生産ライン内で行なわれる各プロセスは、最終的に製品の欠陥が無いようにしています。これはとても良い点です」

 では、マイナス面は?

「同時に、同じことが欠点にもなります。例えば、非常に堅い。柔軟性が無いのです。もし何かを変更したかったら、かなり時間がかかります。検討が重ねられ、評価され、例外の管理コストについてもかなり検討されます。ですから、何か問題が起きた場合、日本企業は管理するのが難しいですね。彼らは硬くて柔軟性に乏しいですから」

左からアレッサンドロ・バルビエールさん(ミナレリのプラント・マネージャー)、キアラ・プンツォさん(ミナレリのマーケティング・マネージャー)、エルマンノ・ヴェントゥーラさん(ミナレリのセールス・マネージャー)、アンドレア・ベナッティさん(ファンティックのエクスポート・マネージャー)左からアレッサンドロ・バルビエールさん(ミナレリのプラント・マネージャー)、キアラ・プンツォさん(ミナレリのマーケティング・マネージャー)、エルマンノ・ヴェントゥーラさん(ミナレリのセールス・マネージャー)、アンドレア・ベナッティさん(ファンティックのエクスポート・マネージャー)

 ベナッティさんはファンティックがミナレリを買収したことで、ヤマハの良さとファンティックの良さが混じり合ったのだと続けました。

「ミナレリとファンティックが提携したとき、ふたつの世界が融合したのです。ミナレリには日本企業のスタイルがあり、ファンティックはもっとダイナミックで、柔軟性がありました。今、私たちはこの世界で生き残るために、このふたつのことを混ぜ合わせながら、うまくやっていこうとしています。おかしなものもあれば、悪いものもありますよ。でも、物事は両面の顔を持っているものです。(ヤマハは)信頼性があるけど、堅い。ファンティックは柔軟性があるけど、信頼性に欠けることもあります」

 さらに、ミナレリのプラント・マネージャー、アレッサンドロ・バルビエールさんが「オーナーがヤマハからファンティックになったとき、何が変わったのでしょうか?」という質問に答えてくれました。

「長所はスピードで、ファンティックとの仕事ではスピーディに改善を進めることができます」と、バルビエールさんは言います。つまり、ヤマハ時代はあまりスピーディではなかったということでしょう。

 そしてファンティックがオーナーになったことで得たメリットがもうひとつありました。

「ファンティックは、市場に近いです。彼らは市場から良いフィードバックを得ています。そして彼らはすぐに改善を適用できるのです。ヤマハの頃よりも市場に近いところにいます」

「ヤマハのときは、私たちは市場と直接的ではなかったのです。私たちはエンジンを供給する立場でしたから。バイクはフランスのMBKで作られていました。ダイレクトではなかったのです」

 現在、ミナレリはファクトリー1でエンジンを組み立て、ファクトリー2でバイクを組み立てています。ファンティックに買収される前は、ミナレリのファクトリーはエンジンを生産するだけでした。しかしバイクを生産するようになったことで、イタリアでバイクを生産し、イタリアの市場に流通させることができるようになったのです。

「今、ファンティックになってからは、とてもダイレクトです。エンジンもバイクもここで作られていますからね。どんな問題もあっという間に市場に適用できるんですよ」

 なるほど、そういう意味でもスピーディになったと言えるのでしょう。

手前がミナレリの本社とファクトリー1、奥にファクトリー2が見える手前がミナレリの本社とファクトリー1、奥にファクトリー2が見える

 それでは今後、ミナレリはファンティックと共に、どんな成長を遂げようとしているのでしょうか。ベナッティさんが答えました。

「ファンティックがミナレリを傘下に収めたことで、私たちはキャパシティを拡大することができました。今後はますます広がっていくでしょう。例えば、新しいエンジンがファンティックのために開発されています」

「これがファンティックがミナレリに求めていることなのです。新しい開発が次のファンティックのバイクに搭載される予定です。いくつかは昨年のEICMAで発表しましたし、今年のEICMAではさらに興味深いものが発表される予定ですよ。それは、新しいミナレリのエンジンを搭載した、新しいファンティックのバイクです」

「生産、組み立てはここで行なわれます。この関係性はどんどん強くなっていくでしょう。もちろん、ミナレリには(ファンティックのほかに)彼らのエンジンを売る顧客もいますけどね。今、主な顧客はヤマハですが、ほかにも顧客を抱えているし、今後はさらにそれが増えることを望んでいますよ」

※ ※ ※

 ミナレリとのパートナーシップは、ファンティックにとっても非常に有益です。このコラボレーションが生み出す相乗効果は、どんなバイクを生むのでしょうか。今後の動向にも注目したいところです。

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