スポークホイールはキャストホイールより軽い?
バイクのニュース / 2024年10月21日 13時10分
競技用のモトクロッサーやエンデューロマシンをはじめ、公道用の市販オフロードバイクには、いかにも軽そうな「スポークホイール」を履いています。対するロードスポーツ車はほとんどがキャストホイールです。軽い方が良いならなぜスポークホイールを履かないのでしょうか?
■見た目はスポークホイールの方が軽そうだが……
オフロードバイクが履くスポークホイール(正確にはワイヤースポークホイール)は見るからに軽そうです。対する多くのロードスポーツ車が履くアルミのキャストホイールは、デザインにもよりますがスポークホイールより重そうに見えます。
オフロードバイクが履くワイヤースポークホイールは、いかにも軽そうに見える。画像はホンダ「CRF250L」
スポーツ性能を考えたら「バネ下荷重」(サスペンションのスプリングより下にあるホイールなどの重量)が軽い方がタイヤの路面追従性も高まるので、ロードスポーツ車も軽量なスポークホイールを履いた方が良いのでは? という気がしなくもありません。スポークホイールは本当に軽いのでしょうか?
じつは、スポークホイールとキャストホイールのどちらが軽いかは、現在は単純に比較することができません。それはホイールの歴史やタイヤの進化も影響しているからです。
そこでバイク用のホイールの起源を辿ると……最初は木製でした。世界初の内燃機関を積んだ2輪車は、ダイムラー社(現在のメルセデスベンツ)が1885年に製作しましたが、車輪は大昔の荷車のような木製で、耐久性を高めるために外周に鉄板を貼っていました。とはいえ、この2輪車はエンジン開発用の試作車で販売はされていません。
その後、実用バイクを1900年代に発売したトライアンフやハーレーダビッドソンは、空気入りのゴム製タイヤを履き、ワイヤースポークホイールを装備していました。
1900年初頭に登場したバイクは長らくスポークホイールを履き、現代的なアルミ合金製のキャストホイール(鋳造製ホイール)が登場したのは1970年代の初頭でした。
イタリアではMVアグスタやモト・グッツィが1970年代半ばにキャストホイール車を発売しましたが、日本製のバイクで初めてキャストホイールを装備したのは、カワサキが1976年に輸出モデルで販売した「Z900LTD」でした。
この当時のキャストホイールは、どちらかと言うとドレスアップ用のカスタムパーツという立ち位置で、しかも重い上に、当時はまだバイク用のチューブレスタイヤが存在しなかったため、スポークホイール同様にタイヤチューブが必要でした。
そのため重量的にはスポークホイールの方が軽量で、国内では1978年からヤマハとスズキがキャストホイール車を発売しましたが、スポークホイール仕様と並売する車種もありました。
■「良いトコどり」の「コムスター」とは!?
1970年代後半に登場したキャストホイールですが「ルックスは新鮮だけどスポークホイールより重い」というデメリットがありました。そこでホンダが世に出したのが「コムスターホイール」です。車軸周りのハブと軽量なアルミリムを「スポークプレート」で繋ぐという革新的な構造は、キャストホイールより軽量で、同時にバイク用のチューブレスタイヤも世界で初めて装備しました。
ホンダ「GL500」(1977年)は、ホンダ独自の「コムスターホイール」を履き、世界で初めてバイク用チューブレスタイヤを装着した
コムスターホイールによるバイク用チューブレスタイヤの登場は、スポークホイールとキャストホイールにも大きな変化をもたらしました。それはキャストホイールにチューブレスタイヤを履くことで、パンク時の急激な空気漏れを抑止して安全性が高まったことと(パンクの応急修理も簡単)、チューブが不要な分、軽量になるからです。これによりロードスポーツ車は急速にキャストホイール化が促進されました。
さらに1980年代後半には、バイク用の「ラジアルタイヤ」が登場します。グリップ性能だけでなく、大排気量・大パワーのバイクだと既存の「バイアスタイヤ」で対応するには構造や強度面で重量がかさみ、ラジアルタイヤの方が軽量に作れることもメリットでした。
そして時代を追うごとにバイクの高出力化やコーナリング時のグリップ力を高めるためにロードスポーツ車のタイヤはどんどんワイド化し、ホイールにも高い剛性が求められるようになりました。
この要求にワイヤースポークで応えることは難しく、性能を優先するロードスポーツ車ではスポークホイールを採用しなくなりました。そのため近代では「スポークとキャスト、どっちが軽い?」と単純に比較することはできなくなったのです。
■スポークホイールのメリットは?
とはいえオフロード車は、現在でも競技用モデルも公道用モデルもスポークホイールが主流です。これはジャンプから着地した時などに、スポークホイールの方が衝撃吸収性に優れているからです。またロードスポーツ車がサーキット走行するような、舗装された路面を深いバンクでハイスピードで駆け抜けることを想定していないので、ホイールに求める剛性も異なります。
パンク時の安全性を高めるチューブレスタイヤを装着できる「クロススポーク」のワイヤースポークホイール。画像はホンダ「CRF1100Lアフリカツイン」
さらに言えば、高速巡航も考慮した大排気量アドベンチャーを除けば、ブレーキもロードスポーツ車のような超強力な制動力を求められないので、車軸周りのハブもコンパクトで軽量に作ることができます。
というワケで「オフロード車のワイヤースポークホイールは軽量」というコトになります。
ちなみに、スポークホイールはタイヤチューブが必要になりますが、近年は大型アドベンチャー系を主体にチューブレスタイヤの装着が可能な「クロススポーク」など、チューブを必要としないスポークホイールも登場しています。
■機能・性能は重要だが、ルックスも大切!
ロードスポーツ車のホイールに話を戻すと、近年のキャストホイールは非常に軽量です。中には独自製法のマグネシウム製の鋳造ホイールを装備するヤマハの「YZF-R1」のような車種もあります。
カワサキ「MEGURO K3」のような、クラシックなスタイルにはワイヤースポークが良く似合う
またアフターマーケットのリプレイスホイールはアルミ鍛造製が主流になり、こちらも非常に軽量です。そのためロードスポーツ車に関して言えば、もはやスポークホイールは重量や性能面でキャストホイール(または鍛造の「フォージドホイール」)には及ばない、と言えるでしょう。
とはいえ、ロードレースのような限界性能やサーキット走行でのパフォーマンスはともかく、ストリートやツーリングなどの普段使いなら、おそらくスポークホイールに性能的な不満は感じないでしょう。
ネオレトロやクラシック系のモデルには、現在も性能よりルックス優先でワイヤースポークホイールが採用されています。この辺りは逆説的ではありますが、1970年代にカスタムパーツとして登場した頃のキャストホイールと通じるものを感じます。
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