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ホンダの自信作だった!? いいトコ取りの「コムスターホイール」ってナニ?

バイクのニュース / 2024年11月8日 11時10分

現代の市販バイクのホイールと言えば、アルミニウムを一体成型したキャストホイールか、ワイヤースポークホイールの2種類が主流ですが、ホンダはバイクブーム真っ盛りの1980年代に、独自の「コムスターホイール」で勝負していました。いったいどんなホイールなのでしょうか。

■レース用に開発した「コムスター」

 バイクが世に登場した1900年代初頭から、バイクのホイールはワイヤースポークホイールが主流でした(小排気量のコミューターやレジャーバイクは鉄製の「合わせホイール」もアリ)。そこに現代のロードスポーツ車で主流の、アルミニウムを鋳造して作ったキャストホイールが登場したのが1970年代の中頃です。

ホンダはヨーロッパ二輪耐久レース選手権に参戦するため、「CB750FOUR」の4気筒エンジンをベースに開発したワースクマシン「RCB1000」(1976年)ホンダはヨーロッパ二輪耐久レース選手権に参戦するため、「CB750FOUR」の4気筒エンジンをベースに開発したワースクマシン「RCB1000」(1976年)

 こういったバイクの“最新パーツ”は、「レーシングマシン用に開発→市販車にフィードバック」というパターンが多いのですが、キャストホイールに関しては最初に市販車用のカスタムパーツとして登場し、標準装備が広まったのも市販バイクの方が先で、レーシングマシンは依然としてワイヤースポークホイールを採用していました。その最たる理由は重量で、当時のキャストホイールはかなり重かったのです。

 そんな時代に独創性を発揮したのがホンダです。レーシングマシンで重要な軽さと最適な剛性を併せ持つ「コムスターホイール」を開発し、ヨーロッパ二輪耐久レース選手権のワークスマシンに装備しました。

 コムスターホイールは、車軸周りのハブと、アルミ製の軽量なリムを「スポークプレート」で繋いだ革新的な構造を持ちました。このスポークプレートの板厚と、ハブとリムを結ぶ左右のプレートの開き角などによって、ホイールの剛性を任意に調整できるのも大きな特徴でした。

 ちなみに、「コムスター」とは「Composite(合成)」と「Star(星型)」を合わせた造語で、ワイヤースポークホイールの軽さとキャストホイールの高い剛性など、それぞれのホイールのメリットを併せ持ち、星型をしているところから命名されました。

コムスターホイールの構造。画像は1977年に発売した「GL500」のコムスターホイールの構造図コムスターホイールの構造。画像は1977年に発売した「GL500」のコムスターホイールの構造図

 そしてホンダは「レーシングマシン用に開発→市販車にフィードバック」の図式通りに、コムスターホイールを市販スポーツバイクに投入します。最初に装備したのはホンダの「ナナハン」(=排気量750ccクラスのバイク)の代表機種である「ドリームCB750FOUR-II」です(1977年4月22日発売)。

 じつはコムスターホイールの大きなメリットのひとつに「チューブレスタイヤの装着が可能」があります。既存のワイヤースポークホイールは、リムにスポークのニップルの孔が開いているため空気を密閉できず、タイヤチューブが必要でした。

 ところが「CB750FOUR-II」は、せっかくのコムスターであるにもかかわらず、チューブタイヤを履いていました。その理由は……当時はまだバイク用のチューブレスタイヤが存在しなかった(存在する必要が無かった)からです。

 ちなみに当時は、他メーカーが装備を始めたばかりのキャストホイールもチューブタイヤを履いていました。

 そこでホンダは、タイヤメーカーと共同でバイク用のチューブレスタイヤを開発し、1977年12月10日発売の「GL500」のコムスターホイールに、世界で初めてチューブレスタイヤを装着しました。

 チューブタイヤは釘などの異物が刺さった際に、チューブが裂けて空気が一気に漏れ出てパンクするのに対し、チューブレスタイヤは(刺さった異物が抜けなければ)急激に空気が抜けないため安全性が高く、応急的な修理も簡単です。

 ワイヤースポークホイールの「スポークの増し締め」といった作業が不要なメンテナンスフリーに加え、安全性も高めたコムスターホイールは、ホンダのロードスポーツモデルの大きな特徴になりました。

 そして大排気量車だけでなく、当時人気のあった原付スポーツから250ccや400ccスポーツなど多くの車種に広がっていきます。

■進化するコムスター

 コムスターホイールは年を追うごとに進化し、バリエーションも拡大して行きます。市販車用のコムスターホイールは、登場時はスポークプレート部分が鉄製でしたが、1979年発売の「CB750F」ではスポーク部もアルミ製になり、より軽量な総アルミ製コムスターになりました(以降も車種や排気量によって鉄製スポークプレートの場合もアリ)。

ゴールド仕上げの通称「裏コムスター」を装備する「SUPER HAWK III」(1980年)ゴールド仕上げの通称「裏コムスター」を装備する「SUPER HAWK III」(1980年)

 次に登場したのが、通称「裏コムスター」です。一見すると従来のコムスターホイールのスポークプレートを裏返しにしたようなデザインですが、もちろん裏返しにしたワケではなく独自の形状で、端面はアルミの切削で側面はブラックに仕上げて高級感を演出しました。アメリカンスタイルの「CB750カスタム エクスクルーシブ」(1980年)が装備し、人気漫画『バリバリ伝説』の主人公が駆る1981年型の「CB750F」の採用で人気を博しました。

 また、400ccクラスの「スーパーホークIII」(1980年)はゴールド仕上げの裏コムスターを履いていました。

 そして1981年にデザインを一新した「ブーメランコムスター」が登場。このホイールを装備したのは、現在も高い人気を誇る「CBX400F」で、ホンダ独自のインボードディスクブレーキと合わせ、オリジナリティに溢れていました。

 その後も「VT250F」(1982年)や「VF400F」(1982年)などの人気ロードスポーツがブーメランコムスターを履き、「CB750F」も1982年モデルでブーメランコムスターに変更されました。

■GPマシンの名が付くコムスター

 それではレースの世界でコムスターホイールはどうなったのでしょうか? ホンダはロードレース世界選手権への参戦を1969年から休止していましたが、1979年に復帰を宣言。そして1980年からトップカテゴリーのGP500クラスに、敢えて4ストロークのV型4気筒エンジンを搭載する「NR500」で参戦を始めました。

「NSコムスター」を装備するレーサーレプリカ「NS250R」(1984年)「NSコムスター」を装備するレーサーレプリカ「NS250R」(1984年)

 1982年からは2ストロークV型3気筒の「NS500」、1984年からは2ストロークV型4気筒の「NSR500」へとマシンが進化して行きます。

 そして最初の「NR500」から1985年の「NSR500」まで、細い帯板状のスポークプレートを持つコムスターホイールを採用していました。

 この形状のホイールは「NSコムスター」と呼ばれ、レーサープリカの「NS250R」(1984年)に装備されたのは、当然の流れと言えるでしょう。NSコムスターを初採用したのは、前年の1983年12月に登場した「CBR400F」でした。

■時間をかけ、慎重だったキャストホイールへの移行

 ホンダは国内外のロードスポーツ車がキャストホイールに移行した1970年代後半~1980年代前半に、独自のコムスターホイールを発展させました。

 しかし1982年4月に発売した世界初の水冷V型4気筒エンジンを搭載したスポーツツーリングモデル「VF750セイバー」およびアメリカンタイプの「VF750マグナ」にキャストホイールを装備します。

 そしてホンダもキャストホイールに移行……と思いきや、すぐにそうとはなりませんでした。

ホンダの市販車で最初にキャストホイールを装備した「VF750 SABRE」(1982年4月発売)ホンダの市販車で最初にキャストホイールを装備した「VF750 SABRE」(1982年4月発売)

 セイバー/マグナのV4エンジンをベースに、スーパースポーツに仕立てた「VF750F」が1982年の12月に発売されましたが、ホイールはブーメランコムスターを装備していました。また前述したように、市販車のNSコムスターが登場したのは1983年です。

 ホンダは1982年からツアラー系やアメリカンタイプにキャストホイールの採用を始めましたが、スポーツ度の高いロードモデルやレーサーレプリカには、依然としてブーメランコムスターやNSコムスターを装備していたのです。

 そして1985年を過ぎた頃から、それらのバイクのマイナーチェンジやモデルチェンジ、そしてニューモデルの登場に合わせて、徐々にキャストホイールに移行して行きました。このタイミングはGP500ワークスマシンの「NSR500」が、コムスターからキャストホイールに変わった時期と重なります。

 コムスターホイールは、それだけホンダにとっての自信作であり、こだわりを持ったホイール構造だったと言えるのではないでしょうか。

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