ディスクブレーキの「フローティングディスク」ってナニ?
バイクのニュース / 2024年11月15日 11時10分
現行バイクの多くが装備している油圧式ディスクブレーキですが、大排気量車やスポーツ性の高いモデルでは、フロントブレーキのディスクローターにけっこう複雑な構造が見られます。「フローティングディスク」と呼ばれていますが、どんなメリットがあるのでしょうか。
■ロードスポーツでメジャーな「フローティングディスク」
現行のミドルクラスを超える排気量のロードスポーツ車が装備している、油圧式のディスクのフロントブレーキを見ると、ホイールのハブにボルト留めされている部分(インナーディスク)と、ブレーキキャリパーが挟み込んでいる部分(アウターディスク)が別々の部品で、それぞれを丸いピンで連結しているディスクローターが主流になっています。この構造は「フローティングディスク」と呼ばれています。
インナーディスクとアウターディスクに分割された「フローティングディスク」。それぞれを繋ぐ丸いピンは「フローティングピン」と呼ばれる
ちなみに小~中排気量車やオフロード車、また大型車でも昔のバイクは1枚モノの「ソリッドディスク」や、インナーディスクとアウターディスクは別部品ながらリベットでガッチリと固定した「リジットディスク」が主流です。
また現行の大排気量ロードスポーツ車の場合も、リアブレーキは大抵がソリッドディスクを装備しています。
■アウターディスクが浮いている!?
「フローティング」(=Floating)とは「浮いている、浮動」という意味ですが、これはインナーディスクに対してアウターディスクをガッチリ固定せずに、浮いた構造になっているからです。……が、なぜ浮かせているのでしょうか? それは常にディスクブレーキの制動力と操作フィーリングを保つために、レースシーンから生まれました。
フローティングディスクの概念図。摩擦熱でディスクローターが反り返った分をフローティングピンが吸収してくれる。
油圧式ディスクブレーキは、マスターシリンダーで発生したブレーキフルードの圧力をブレーキキャリパーに伝え、ブレーキピストンがブレーキパッドをディスクローターに押し付ける摩擦力によって制動力を発揮します。
その際に摩擦熱が発生してディスクローターはかなり温度が上昇しますが、アウターディスクは外側の方が径が大きいためブレーキパッドと擦れ合うスピードが速く、内側は径が小さいので擦れ合うスピードは遅くなります。そのため外周部の方が温度が高くなります。
すると外周部の方が大きく熱膨張し、内側は熱膨張が少ないため、ディスクローターは歪んで反り返ってしまいます。
ブレーキが冷えている時はディスクローターとブレーキパッドはほんの僅かな隙間で平行に保たれていて、ブレーキをかけるとギュッと挟み込みますが、ディスクローターが過熱してナナメに反り返ってしまうと、ブレーキパッドを押し広げてしまいます(ブレーキを離すとすぐにディスクローターは冷えて真っ直ぐに戻る)。
するとブレーキピストンが余計に押し戻されるため、次にブレーキをかけた時にディスクローターとブレーキパッドの隙間が広くなり過ぎているため、ともすればブレーキが効かない危険があります。
そこで何度かレバーを握り直す「ポンピングブレーキ」を行なえばブレーキは効きますが、これは経験に基づいた冷静な判断が必要な上に、時間的な余裕が無ければ間に合いません。
そこで考案されたのが「フローティングディスク」です。インナーディスクとアウターディスクに分割し、その間に設けたフローティングピンによって、ディスクローターの熱膨張による反り返り分を吸収するのです。こうすればディスクがブレーキパッドを押し戻すことが無く、隙間も過剰に広がらないので、次にブレーキをかけた時も同じ操作フィーリングでブレーキが効きます。
■レーシングマシンの性能とルックスを市販車に!
それでは、小~中排気量車や旧車のソリッドディスクやリジットディスクは危険なのか!? ……というと、そんなことはありません。前述したようにフローティングディスクは本格的なロードレースから生まれた技術で、ハイスピードから猛烈なフルブレーキングを繰り返すサーキットでのハードな走りに対応するために登場しました。
1985年発売のヤマハ「TZR250」は、ワークスマシン「YZR500」(1985年型のOW81)と同径のφ320mmのフローティングディスクローターを装備した
なので一般道を法定速度で走る範囲のブレーキングなら、ソリッドディスクやリジットディスクが熱膨張で過剰に反り返るようなことはまず起こりません。
それならなぜ市販ロードスポーツにフローティングディスクを装備するのかと言えば、やはり1980年代の「レーサーレプリカ・ブーム」の影響でしょう。当然ながらバイクのデザインも装備するパーツも、本物のレーサーに近い方が人気が出るからです。
それに当時は、それらの市販スポーツ車がベースのSPレース等も盛んだったので、高性能なフローティングディスクは瞬く間に普及しました。
ちなみに当時のロードレースの頂点であるGP500マシンがフローティングディスクを採用したのが1980年代初頭頃で、国産市販モデルで最初にフローティングディスクを装備したのは、1985年発売のヤマハ「TZR250」だと思われます。
■フローティングにも種類アリ
1980年代中盤以降、レーサーレプリカ系に瞬く間に広まったフローティングディスクですが、じつは本物(?)のレーシングマシンと市販バイクでは少々異なります。それはフローティングピン部分の横方向の「可動量」です。
左から、フローティングピン部分の可動量が多い「フルフローティング」、ピンに波型のウェーブワッシャ等を嵌めて可動量を制限した「セミフローティング」、見た目はフローティングだがほとんど動かない「フローティング風のリジットディスク」
レース用はディスクローターの反り返り分をしっかり吸収するために、指でディスクローターを摘まんで左右に動かすと、カチャカチャと動くのが分かるくらい可動量があります。このタイプを「フルフローティング」と呼び、ハードなブレーキを繰り返しても良好な操作フィーリングを得られますが、可動量が多い分フローティングピンやインナーディスクのピンと接触する部分が摩耗しやすくなります。レーシングマシンなら摩耗したら割り切って交換すれば良いですが、公道用の一般バイクだとそういうワケにいきません。
そこで、公道用のバイクではフローティングピンに波状のウェーブワッシャなどを挟んで可動量を制限した「セミフローティング」となっており、カスタム用のアフターパーツに多いタイプです。サーキットのスポーツ走行などでも熱膨張の反り返りに対して十分効果があるでしょう。
また純正品の中には、見た目はフローティングですがピンをカシメて固定し、ほとんど動かない「フローティングタイプ(フローティング風のリジットディスク)」もあります。とはいえインナーディスクが放熱性の良いアルミ製だったり、アウターディスクと分割した構造のため、ソリッドディスクよりは反り返りにくくなっています。そして何よりレーシングライクなルックスが、大きな魅力と言えるでしょう。
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