壮大なスケールのイベントはどんな経緯で実現したのか? 『BMW MOTORRAD G/S DAY'S 2024』の成り立ち
バイクのニュース / 2024年11月16日 11時10分
BMWモトラッドの大型トラベルエンデューロ「GS」シリーズを日本で存分に楽しむためのイベント『BMW MOTORRAD G/S DAY'S 2024』は、長野県の志賀高原を舞台に開催されました。上信越国立公園の中を約200台ものバイクが走行できるとは、一体どのような経緯で実現されたのでしょうか。運営事務局代表に話を聞いてみました。
■見方によっては、荒唐無稽な話!?
「走らせてくれて、ありがとう……」2024年10月5日・6日に長野県の志賀高原を舞台に開催された「BMW MOTORRAD G/S DAY’S」(以下、G/Sデイズ)に、「R 1300GS GS スポーツ」を駆って体験取材という形で参加した私(筆者:中村友彦)は、しみじみそう感じました。何と言ってもこのイベントでは、一般的なバイクライフでは考えられない、スキー場のゲレンデや、志賀高原周辺に点在する数多くの未舗装林道を、思いっ切り堪能できたのですから。
バイクに乗ってスキー場のゲレンデを下りるという経験は、一般的なバイクライフではなかなか堪能できないだろう(写真=大谷耕一)
しかも、ゲレンデクルーズとコマ図ツーリングで走る一部のルートは、上信越国立公園内なのです。環境保護を前提にして国が管理する公園の敷地内を約200台のバイクが走るというのは、見方によっては荒唐無稽な話で、実現するまでには問題が山積みだったはずです。
このイベントはどんな経緯で開催されたのか……? その理由が知りたくなった私は、事務局の代表を務める齋藤栄治さんに話を聞いてみることにしました。
■国立公園ならではの苦労
最初に大前提の話をしておくと、齋藤さんは多種多様なイベントの運営や広告などを手がける会社の代表で、2000年以降に開催されたBMWモトラッドのイベントでは、事務局の中心的な役割を何度も担当しています。
スキー場内を走るゲレンデクルーズでは、林道走行とは一線を画する、壮大な景色が味わえる
ちなみに、以前よりご本人の名前だけは知っていた私にとって、齋藤さんはサーキットにおける活躍が印象深いのですが(1990年代は「R 100 GS」ベースのマシンでいろいろなイベントレースに参戦。2006年には「K 1200 R」で鈴鹿8耐クラス優勝を飾り、2008年には「HP2スポルト」でもて耐総合優勝を達成)、その一方で2005年には、オフロードのスキルが必要なBMWモトラッド・ライダートレーニング公認インストラクターの資格を取得しています。
そんな齋藤さんへの最初の質問は、「GSチャンレンジ」や「GSキャンプミーティング」を引き継ぐ形で、2021年から始まったG/Sデイズで、志賀高原をその舞台として選択し、コースにスキー場のゲレンデを取り入れた理由です(会場を福島県から長野県の志賀高原に変更したのは2020年から)。
「ゲレンデ走行は過去に福島県でのBMWモトラッドのイベントで行なったことがあって、その時点でかなりの好感触を得ていましたし、エンデューロやトライアルではゲレンデを使うことが珍しくないんです。志賀高原を選んだ理由は、複数のスキー場を繋ぐ形で、縦横無尽に走れるからですね。2019年末にスキーで全山を回ってリサーチを行ない、2020年春に試験的にGSで走らせてもらったところ、とにかく景観のスケールが圧倒的で楽しくて、ここでGSのイベントをやってみたい!! と思いました」
そう語る齋藤さんではあるけれど、前述したように志賀高原は上信越国立公園内です。ゲレンデ走行の許可を得るには相当な苦労があったのではないでしょうか。
「まずは役場、続いて地権者団体や旅館組合の皆さんとじっくり話をして合意を得たうえで、環境省の許可を取りました。そのあたりは想定内だったのですが、コースを示す看板やパイロンなどを設置する前に、寸法や容積を書面で提示しなくてはならないこと、イベント開催前と開催後にコースのいろいろなところの路面状況を示す写真が必要なことは、国立公園ならではかもしれません。まあでも、参加者の皆さんに楽しんでもらえることや、地権者団体や旅館組合の皆さんに大歓迎してもらえることを考えれば、苦労という感覚は無いですよ(笑)」
「来年以降は環境省の指導のもと、国立公園内でバイクイベントを行なう意義や大義を改めて見直し、旅館組合さんと共同で木道の整備や環境修繕といった活動を行なう予定です。この活動は事務局とディーラーのスタッフ、そして参加者の皆さんで行ないたいと考えています」
■初心者が楽しめることを前提としたコース設定
実際にG/Sデイズに参加して、あまりの絶妙さに感心したのは、オフロードの腕前が万年初級から中級の私でも、未舗装路が満喫できたコース設定です。もっとも、ゲレンデクルーズには上級者向けのコースが存在するのですが、コマ図ツーリングで走るオフロードは初心者+フラットツインGSでも何とかなるレベルでした。
コマ図ツーリングで使用する未舗装林道は、初心者が楽しめることを意識して設定
「G/Sデイズに限った話ではないですが、インターナショナルGSトロフィーの選考会を除くBMWモトラッドのライディング系イベントは、初心者が楽しめることを前提にしています。そしてコース設定を行なう上で重要な役割を果たしてくれるのが、全国のBMWモトラッドディーラーの皆さん、G/Sデイズの場合は首都圏ディーラーの皆さんです。私を含めた事務局の人間だけではなく、ディーラーのスタッフが普段から周辺の林道を熱心に走り回って、情報を更新してくれるから、誰もが楽しめるコースが設定できるんです。もちろん検討の結果、難易度が高くて落選した林道もたくさんありますよ」
ディーラーのスタッフと言えば、私が興味深かったのは、各ディーラーが参加者=自身の店舗のお客さんをフォローする態勢がきっちり出来上がっていることです。
「そもそもG/Sデイズは、首都圏ディーラーが主催者ですからね。お客さんにどうやって楽しんでもらうか、お客さんにどうやってマナーを守ってもらうかを(ゲレンデや林道をできるだけ荒らさないという意識を全員が共有)、全店のスタッフが真剣に考えているんです。逆にそういう態勢が存在しない状況で、約200台のGSが好き勝手に走ったら、このイベントは成立しないでしょう」
■BMWモトラッドならではのイベント
G/Sデイズの魅力に大いに感心した私は、2輪メディアに携わる人間として、他メーカーのアドベンチャーツアラーやトレールバイクでも、こういうイベントができないものか……と感じました。とはいえ齋藤さんの話を聞いていると、なかなか難しいのかもしれません。
『BMW MOTORRAD G/S DAY'S 2024』の事務局代表を務める齋藤栄治さん(右)と、体験取材を通してこのイベントの素晴らしさを実感した筆者(左/中村友彦)
「他メーカーでの開催については断言できないですが、ディーラーさんの真摯な姿勢に加えて、車両の柔軟な特性や頑丈さを考えると、このイベントはGSシリーズだから、BMWモトラッドだから実現できるような気がします。もちろん私の中にも、BMWモトラッドだから……という気持ちはありますよ。1990年代以降の私は、BMWモトラッドにいろいろな楽しい思いをさせてもらい、いろいろな勉強をさせてもらったわけですから、1人でも多くのライダーにBMWモトラッドならではの魅力を実感してもらうことは、私の使命だと思っています」
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