「ネイキッド」って呼び方、いつから始まったんですか?
バイクのニュース / 2024年11月29日 11時10分
バイクには様々なカテゴリーがありますが、カウリングを装備していないロードスポーツ車は、総称して「ネイキッド」と呼ばれています。……が、「裸」や「剥き出し」という意味から考えると、合っているような、そうでもないような……。いつからそう呼ばれるようになったのでしょうか?
■昔はネイキッドが基本スタイル
日本ではカウリングを装備しないロードスポーツ車を「ネイキッド」と呼ぶのが定着していますが、「naked(ネイキッド)」は形容詞で「裸の」や「剥き出しの」といった意味になります。カウリングで覆われていない、という意味では納得ですが、オフロード車やクルーザー(アメリカンタイプ)もカウリングを装備していません。どうしてロードスポーツ車に、この呼び名が付いたのでしょうか?
1980年代初頭のバイクブームで人気を博したカワサキ「Z400FX」(1979年型)
日本では第2次世界大戦後(1940年代中頃)にバイクの生産が始まりますが、初期の国産バイクは実用車が主流で、その後に派生モデルとしてロードスポーツ車が生まれます。そこから未舗装路を快適に走るスクランブラーやトレール車が登場し、バイクのカテゴリーはオンロードスポーツ、オフロードスポーツ、実用車(スクーター含む)になります。
そしてロードレースの世界では、スピードアップのために空気抵抗を減らすカウリングを装備し、海外では1970年代から市販ロードスポーツ車でカウリング装備車が登場し始めました。
ところが当時の日本は「カウリング装備→スピードが出る→暴走行為を助長」という論法から、カウリングの装備が認可されませんでした(アフターパーツのカウリングを装着すると違法改造)。
世界的に大ヒットしたホンダの「ドリームCB750FOUR」や、以降のライバル車はもちろん、1980年代初頭に盛り上がった空前のバイクブームで主軸だった250/400ccクラスもカウリングは非装備です。そのため、当然ながらネイキッドという呼称は存在しませんでした。
■レプリカのカウリングを「脱がした」から!?
ところが、バイクブームの勢いから国内でのレースの盛り上がりやバイクメーカーの熱心な働きかけなどもあり、1982年の中頃に遂に国内でカウリングの認可が下りました。ちなみに国内販売モデルで初のカウリング装備は、1982年7月発売のホンダ「CBX400Fインテグラ」になります。
国内販売モデルで初めてカウリングを装備したホンダ「CBX400F INTEGRA」(1982年7月1日発売)
そしてバイクブームは「レーサーレプリカ」ブームに移行します。既存のバイクにカウリングを後付けするのではなく、最初から本格的なカウリングを装備したスズキの「RG250Γ(ガンマ)」が1983年に発売されると、250/400ccクラスを筆頭に、原付スポーツやナナハン(750ccクラス)にもレプリカの波が押し寄せました。
こうして国内で主流の250/400ccクラスは「高性能ロードスポーツ=レーサーレプリカ」がほとんどになり、カウリングを装備しない車両はクルーザー(いわゆるアメリカン)か、マニアックな単気筒のようなニッチなモデルばかりになりました。そうなると「カウリングの付いていないロードスポーツ車が欲しい」という要望が上がってきます。
そんな声にヤマハが応え、1985年に発売したのが「FZ400N」です。前年に発売したレーサーレプリカの「FZ400R」から、まさにカウリングを剥がしたスタイルで、カタログには「美しきネイキッド、FZ400N」のキャッチコピーがありました。
ヤマハ「FZ400N」(1985年型)
ちなみに車名の末尾の「N」は、ネイキッド(Naked)の「N」だそうです。そして日本でネイキッドの呼び名が登場したのは、おそらくこの「FZ400N」が最初だと思われます。
また、ホンダは1986年3月にV型4気筒エンジンを搭載するレーサーレプリカ「VFR400R」と、カウリング非装備の「VFR400Z」を同時発売しました。そして「VFR400Z」のカタログには「体感して欲しい。ネイキッド・マシンの痛快さを。」のキャッチコピーが踊っていました。
ところが当時はネイキッドという呼び名は浸透せず、レーサーレプリカからカウリングを剥がしたカテゴリーのバイクも流行しませんでした。そして車両の正式名ではなく「FZのカウルの無いヤツ」とか「VFRのカウルの無いヤツ」みたいな不遇な呼ばれ方をされることもありました。
■「ゼファー」の大ヒットが、ネイキッドの呼称を広めた
空前のバイクブームに続いたレーサーレプリカブームですが、1980年代の終盤には徐々に落ち着いてきます。あまりに過熱したスペック競争(価格も上昇)に、ライダーたちがついていけなくなったからかもしれません。
1989年にカワサキが発売した「ZEPHYR(ゼファー400)」が、ネイキッドの呼び名を広めた
そんな状況の1989年に、カワサキが「ZEPHYR(ゼファー400)」を発表しました。2世代ほど前の空冷2バルブ4気筒エンジンをさらにデチューンし、鉄パイプのフレームに搭載。スタイルも極めてオーソドックスなだけに、当時のバイク業界や関係者の多くが「いまどき何故こんなバイクを?」と首をかしげましたが、実際に販売が開始されると、「超」がつく大ヒットとなります。
そしてゼファーは750や1100の大排気量モデルもラインナップし、ライバルメーカーも同様なコンセプトやスタイルのバイクを続々リリースしました。こうなると、このカテゴリーの名称が無いとけっこう不便です。そこで改めて「ネイキッド」の呼び名が浮上し、今度は瞬く間に広まって行きました。
このことから「ゼファーがネイキッドという呼称を生んだ」と語られることも少なくありません。
……しかしゼファーや同コンセプトのライバル車たちは、レーサーレプリカが登場する以前のオーソドックスなスタイルを踏襲しており、何かしらベースとなるバイクからカウリングを剥がしたり裸にしたワケではありません。なので、いまから思い返すと「FZ400N」や「VFR400Z」の方が、「正しくネイキッドだった」ような気もします。
とはいえゼファーの登場が「カウリングを装備しないロードスポーツ」を復権させたことは事実なので、その功績も踏まえてゼファーがネイキッドの呼称を確固たるモノにした、と言えるでしょう。
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