鉄砲作りの技術はやがて花火、望遠鏡へ。最強の矛と盾「石垣の穴太衆」と「鉄砲の国友衆」を巡る
バイクのニュース / 2025年1月5日 11時10分
全国様々な山城、城跡をバイクで巡る旅を続けていますが、石垣造りの石工集団「穴太衆(あのうしゅう)」と、鉄砲作りの技術集団「国友衆(くにともしゅう)」の対決を描いた小説、直木賞受賞作「塞王の楯」を読み、特殊技能集団に興味が湧きました。日本の歴史を変えた、火縄銃を制作した国友の町をバイクで巡りました。
■ものづくりの歴史と誇りが感じられる町
全国様々な山城、城跡をバイクで巡る旅を続けていますが、石垣造りの石工集団「穴太衆(あのうしゅう)」と、鉄砲作りの技術集団「国友衆(くにともしゅう)」の対決を描いた小説、直木賞受賞作「塞王の楯」を読み、特殊技能集団に興味が湧きました。日本の歴史を変えた、火縄銃を制作した国友の町をバイクで巡りました。
バイクで「国友鉄砲ミュージアム」を訪れた(入場料:一般300円)。年末年始を除き年中無休とのこと
まず訪れたのは、滋賀県長浜市国友町にある「国友鉄砲ミュージアム」です。
突然ですが、バイク旅の良いところは、クルマと違って町の空気をより深く敏感に感じられるところです。いままでも山城を訪れる際は、その麓の城下町であったであろう土地の空気を、走りながら肌で感じてきました。
ここ国友町も、足を踏み入れた瞬間から明らかに情景と空気が変わりました。歴史を感じさせ、どこか凛とした空気を纏う国友の街並み。そこにミュージアムがありました。
館内は撮影可能とのことで、色々と記録撮影をさせて頂きましたが、ちょうど動画クルーの一団も撮影に来ていました。
まずはシアタールームで、国友の歴史を映像で見せて頂き、その概要を知ることができました。
見せて頂いた映像は約10分。鉄砲作り以外のことも含めて非常に興味深い内容だった
西洋銃の伝来は、1543年8月25日に種子島に漂着した中国船に乗っていたポルトガル人から。この時2挺の鉄砲(火縄銃)が日本に持ち込まれ、国友や堺(大阪府)、根来(和歌山県)など、各地で鉄砲の生産が始まりました。
驚くことに、鉄砲伝来の直後から(翌年とも言われている)、足利将軍の命により国友で制作が開始されています。
国友は鍛冶屋が多く、刀剣などの生産地でもあったそうで、その技術の高さが知られていたことで、鉄砲作りを依頼されたのでしょう。
制作で一際苦労したのが、銃身後部に使用する雌ネジを切る技術だったと言われています。「鉄砲を作ることはネジを作ること」だそうで、筒の後ろを止める尾栓(びせん=雄ネジ)の使用によって、筒の煤掃除が可能となりました。
シアターでは村にいた次郎助という鍛治職人が、試しに刃の欠けた小刀で大根をくり抜き、それを再度大根にねじ込むことでネジの構造を理解したと伝えていました。
ネジの理屈を鉄加工で実現するための試行錯誤を経て、苦心の結果完成させたというわけです。
このネジ制作技術は、大量生産が可能になるほど高レベルなものだったそうです。後の江戸末期にペリーが来航し、ネジ切り用の旋盤が伝来したそうですが、そんな専用工具が無くても高精度なネジ、鉄砲を大量生産できた国友衆の技術の高さは素晴らしいの一言です。
奥が全長96cm、口径40.1mmの大筒火縄銃。科学者として名を残した国友一貫斎とその実弟の合作
ミュージアムの2階には、火縄銃が50挺あまり保存されている大展示室や、実際に担いで覗くことができる火縄銃体感コーナーなどがあり、どれも見応え十分でした。
江戸時代には国友衆の中から国友一貫斎(くにともいっかんさい)という「江戸時代のエジソン」、「東洋のエジソン」とも言われる天才科学者を生み出します。
優れた鉄砲鍛冶でもあり、その技術の高さは展示されている見事な大筒でもわかります。
やがて時代は戦から太平の世へ移ります。一貫斎は国友の年配者たちとは違う生き方、探究をしていったのでしょう。展示室では彼が発明した反射望遠鏡なども紹介され、日本人として初めて、天体観測で太陽の黒点や月などを観測するなど、その功績は見事です。空を飛ぶ乗り物、つまり飛行機の構想まで練っていたというから驚きです。
国友の火薬を扱う高い技術は、平和な世の中へ変貌した江戸時代には花火の制作へも応用されました。ものづくりの原点とも言える国友衆の活動には、心底感服しました。
ちなみに、ミュージアムの近くには長浜キャノンというプリンター製造などの大企業がありますが、あえて社名に「長浜」を入れて、国友鉄砲鍛治がもたらした当時の最先端技術のように、製品開発に取り組む姿勢を表しているのだそうです。
館内には石垣作りの石工集団「穴太衆」と国友衆の激突を描いた小説「塞王の楯」作家、今村翔吾氏の直筆が飾られていた。主役は「穴太衆」だが、ここでは「砲仙の矛」の文字が輝いていた
ミュージアムを出る際に、スタッフに小説「塞王の楯」で描かれていた「石垣の穴太衆」との対立は実際にあったのかを尋ねてみました。
実際にそういった史実は伝わっておらず、あくまでも技術集団にすぎなかったとのこと。ですが、小説に描かれていたように、それぞれが戦地に赴いたことはあったそうです。
あくまでもフィクションではありますが、想像を膨らませるのは面白いものです。また、銃の扱いは国としてもシビアなものなので、国友の鉄砲作りの技術は現在には残っていないようです(古くは作れる職人も残っていたようなことも言われていましたが)。
現在は銃の管理自体も大変で、警察により展示している銃が機能しないものかどうかの確認もあるのだとか。
ミュージアムを出た後は少し町を散策しました。最盛期は70軒、500人以上の職人がいたという国友は、職人を生み出した誇りや気品のようなものを感じられました。またいつか、あらためて訪れてみたいと思います。
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