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電動バイクレースMotoEからEnelが撤退。その影響は? 2025年の充電設備は?

バイクのニュース / 2025年1月8日 13時10分

電動バイクレース『FIM MotoE World Championship』のタイトルスポンサーである「Enel(エネル)」が、2024年シーズンをもってMotoEから撤退となりました。その影響について、MotoEエグゼクティブ・ディレクターのニコラ・グベールさんにメールで問い合わせました。

■7シーズン目を迎える2025年、MotoEはどう変わるのか

 電動バイクレース『FIM MotoE World Championship』(以下、MotoE)のタイトルスポンサーである「Enel(エネル)」が、MotoEのタイトルスポンサーを外れるという報道があったのは、2024年11月下旬のことです。報じたのは、MotoEをフォローする、MotoGP、MotoEのプロモーターであるドルナスポーツに認定されたメディアであるEpaddock.itでした。

これまでのMotoEは、写真左のポータブル充電器によって、グリッド上で追加充電を行なっていたこれまでのMotoEは、写真左のポータブル充電器によって、グリッド上で追加充電を行なっていた

 Epaddock.itが報じていたところによると、Enelはタイトルスポンサーを外れるだけではなく、MotoEから完全に撤退する、というのです。

 イタリアの電力、エネルギー会社であるEnelは、2019年のMotoE初年度からタイトルスポンサーを務め、充電器を供給してきました。

 2024年シーズンの「Eパドック」(MotoEのピットが集まる専用エリア)では、チームのピットの裏に充電器が置かれ、セッションが終了するとメカニックがそこにマシンを移動して、充電が行なわれていました。

 また、グリッド上での充電においても、Enel充電器が役割を果たしていました。MotoEは、サイティングラップのあとグリッドについてからスタートまで、グリッド上で充電することができるのです。Enelのポータブル充電器はメカニックによってグリッドに運ばれ、MotoEマシンの充電に用いられていました。

 つまり、EnelがMotoEにおいて果たしてきた役割は大きいということです。撤退による影響はまぬがれないでしょう。

 例えば、2024年11月下旬に発表された2025年シーズンのMotoEカレンダーは、近年の翌シーズンカレンダーの発表時期に比べて、ひと月ほど遅いものでした。さらに、全7戦14レース(1戦2レース制)で、2024年に比べて1戦2レース減少しています。

 2025年に7シーズン目を迎えるMotoEのレース数が減少するということは、にわかには信じがたいことです。

 2025年のカレンダーは、Enel撤退の影響があったのでしょうか? また、2025年に大きく進化するというドゥカティの電動レーサー「V21L」の開発への影響はあるのでしょうか?

 MotoEのエグゼクティブ・ディレクターであるニコラ・グベールさんに、メールで問い合わせを行ないました。その回答をお伝えします。

セッションが終わるとライダーはEパドックにマシンを戻し、メカニックが整備し、セッション終了後、15分後には次のセッションに向けて充電が始まるセッションが終わるとライダーはEパドックにマシンを戻し、メカニックが整備し、セッション終了後、15分後には次のセッションに向けて充電が始まる

 なお、Enelの撤退について、ドルナスポーツからの正式な発表はありません(2024年12月26日現在)。しかし、「EnelがMotoEから撤退するというニュースを見て、問い合わせしています」というメールに対し、グベールさんから以下の回答があったことで、その情報が間違いではないことの確認としています。

 また、2024年11月21日に発表された2025年シーズンのカレンダーのリリースには、すでにEnelの表記はなく、選手権名は『FIM MotoE World Championship』となっていました(2024年シーズンは『FIM Enel MotoE World Championship』だった)。

──2025年シーズンはMotoEの充電設備に問題はあるのでしょうか?(筆者:伊藤英里からの質問。以下、同)

「問題というわけではありませんが、Enelの決定によって計画の再考を余儀なくされました。今後は、バッテリーのない充電器を使用するでしょう。つまり、電力網からのより多くの電力が必要になります」(ニコラ・グベールさん。以下、同)

──2025年シーズンのMotoE開催数が減ったのはEnel撤退が原因ですか?

「(Enelの撤退により)私たちは各サーキットに連絡をとり、より多くの電力を供給してもらうように依頼しました。可能だったところもあれば、不可能だったところもありました。この要素を考慮した結果、(2025年は)7戦の開催となったのです」

──2025年シーズンのレースウイークのタイムスケジュールには影響がありますか?(充電時間への影響など)

「いいえ、タイムスケジュールは同じです」

──「V21L」の開発には影響がありましたか?

「いいえ、マシンの開発には影響はありません。2025年にはマシンの進化があります」

 つまり、2025年シーズンのカレンダー(開催地)については、Enel撤退の影響があったということです。サーキットに、MotoEマシンに電力を供給できるだけの送電網が必要だったからです。ただ、マシンの開発としては問題はないということです。

Eパドック(写真中央の建物)の屋根にはソーラーパネルが設置されていたEパドック(写真中央の建物)の屋根にはソーラーパネルが設置されていた

 グベールさんは、Enelの撤退についてこう語っています。

「最初に、6年間にわたりMotoEとパートナーシップを結び、特別な素材を開発してくれたEnelに感謝したいです。Enelは部分的に国営企業でイタリア政府が変わった時、Enelの経営陣も変わりました」

※Enelは民営化されているが、2023年12月31日時点のデータによると23.6%の株式をMinistry of Economy and Finance(日本の財務省にあたる)が保持している

「そして、彼らはモータースポーツを離れてサッカーのスポンサーになることに決めたのです。彼らは6年間、MotoEを支えてくれたのですから、不満はありませんよ」

 また、EnelのMotoE撤退はマイナスなことばかりではない、とも言います。

「じつは、この件にはポジティブなポイントがあります。というのも、多くのサーキットが、私たちがさらなる電力供給を求めたとき、前向きに反応してくれたからなんです。とても嬉しかったですね。こうしたことは、7年前、私たちが(MotoEを)始めた当時には考えられなかったことです」

「だからEnelは、内蔵バッテリーを搭載した充電器を作ってくれたわけです。これはつまり、電動化に対する考え方が、徐々に変わってきているということなんです」

「2つ目のポジティブな点は、電線から接続するスタンダードな充電器を使用するので、特殊な設備が必要ないということなのです。これは、電動バイクを手に入れたら、標準的な充電器があれば特別なものは必要なく、誰でもサーキットで楽しめる、ということを示しています。私たちは電動バイクの普及に貢献したいので、こうしたメッセージはとても重要です」

 確かに、それらはポジティブな点でしょう。特にひとつ目に関して言えば、現在、ヨーロッパのサーキットでは、ほとんどにEVカー向けの充電ポイントが備わっていることからも、電動化に対するインフラが整いつつあることを感じてはいました。

イギリスGP開催地、シルバーストン・サーキットのパドックにある充電施設。これはとても大きい方だが、ヨーロッパのサーキットでは、規模は小さくても敷地内に充電設備が整っていることが多いイギリスGP開催地、シルバーストン・サーキットのパドックにある充電施設。これはとても大きい方だが、ヨーロッパのサーキットでは、規模は小さくても敷地内に充電設備が整っていることが多い

 ただ、MotoEはサスティナブルなイメージを必要とするモータースポーツです。送電線からの電力供給となれば、その電力の発電方法はどうなるのでしょうか。Enelの充電器は、追加のエネルギーとしてEパドックの屋根に取り付けられたソーラーパネルを初電源としていたりもしました。

 ヨーロッパの一般道路を走っていると、EVカーを日本よりもずっと多く見かけます。国土の4分の1ほどが海面よりも低いオランダは特に多く、イギリスやフランスなども見かける頻度が高いです。

 だからといって、電動化に一直線かといえばそうではないでしょう。ご存知のとおり、2023年3月25日、EUは2035年以降の内燃機関の新車販売禁止の方針を撤回し、e-fuelを用いた内燃機関の新車販売を許可、としました。4輪、2輪ともに、新世代の動力源が模索されているのが現状です。

 ひとくくりにするには早計かもしれませんが、今回のEnelのMotoE撤退は、電動化(または電動モータースポーツ)に対する風向きの変化のひとつだと捉えられるかもしれません。

 2025年、MotoEは7シーズン目を迎えます。注目度、興行的な面白さという意味でも、成熟を始めなければならないでしょう。

 Enelが撤退したMotoEの、新たな挑戦を注視したいと思います。

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