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「逆回転クランク」って何? バイクのエンジンは何がどっちに回っている?

バイクのニュース / 2025年1月10日 11時10分

エンジンの中で猛烈な勢いで回転しているクランクシャフトですが、どっち向きに回っているかご存じでしょうか? 知らなくてもまったく困りませんが、じつはハイレベルなレースの世界では、クランクの回転方向がけっこう需要なのです。

■車体右側から見て「時計回り」が主流だが……

 バイクが走るためのパワーを生むために、エンジンの中では爆発エネルギーでピストンが激しく上下に動いているイメージがあります。しかしピストンの上下運動を「回転運動」に変換しなければタイヤを回すことができません。そのための部品がクランクシャフトです。

ピストンの上下の動き(直線運動)を「回転運動」に変換するクランクシャフト。画像はヤマハ「YZF-R1」のクランク&ピストンピストンの上下の動き(直線運動)を「回転運動」に変換するクランクシャフト。画像はヤマハ「YZF-R1」のクランク&ピストン

 そのクランクシャフトは、どちらの方向に回転しているのでしょうか?

 じつは市販バイクの多くは、昔から排気量や気筒数、並列やV型などエンジン形式に関わらず、クランクの回転軸が車体の前後方向に対して90度に配置された「横置きエンジン」の場合は、車体を右側から見た時に右回転(時計回り)が主流です。

 そして主流がゆえに、とくにクランクシャフトの回転方向に対する呼び方は無かったのですが、近年は判別するために「正回転クランク」と呼ぶ場合があります。

 近年では、車体の右側から見るとクランクシャフトが左回転(反時計回り)するエンジンが登場しています。そのため「逆回転クランク」と呼ばれ、高いスポーツ性を狙うバイクの中で注目されています。かなりマニアックではありますが……。

■「逆回転クランク」のメリットは?

 クランクシャフトは、バイクの構成部品の中ではかなりの重量があり、それが高速で回転します。そのため加速する時にスロットルを開けてエンジンの回転(クランクシャフトの回転)が上昇する時は、相応に「反力」が発生します。重いクランクシャフトが回転数を上げようとすると、車体に対して回転方向と逆の力が生じるワケです。

多くのバイクが採用する「正回転クランク」は、スロットルを開けた際に「反力」によって車体にウイリーする方向の力が生じ、前輪荷重が減少する多くのバイクが採用する「正回転クランク」は、スロットルを開けた際に「反力」によって車体にウイリーする方向の力が生じ、前輪荷重が減少する

 たとえばパワーのあるバイクでスロットルを大きく開けると、前輪が浮き上がってウイリーします。これは後輪から路面に伝わるトルクの大きさと後輪のグリップ力によるものですが、正回転クランクだと、その反力も手伝っていっそうウイリーしやすくなります。

 ウイリーはエクストリームライディングとしては派手でカッコ良いですが、これが速さを競うレースの場合だと、コーナーの立ち上がりで大きくウイリーしたらタイムが落ちてしまいます。

 またスロットルを開けた際に前輪荷重が減少するため、立ち上がっていく時に走行ラインがアウト側に膨らんでいく「アンダーステア」にもなりやすく、やはり狙ったラインを走行できないためタイムが落ち、ライバルと競り合う際にも不利になります。

 しかし逆回転クランクなら、スロットルを開けると前輪を路面に押し付ける方向の力が働くので、ウイリーやアンダーステアを抑制することができます。

「逆回転クランク」は、スロットルを開けた際の「反力」が前輪を路面方向に押す力が生じ、ウイリーも抑制できる。画像は逆回転クランクを採用するBMW Motorrad「S 1000 RR」「逆回転クランク」は、スロットルを開けた際の「反力」が前輪を路面方向に押す力が生じ、ウイリーも抑制できる。画像は逆回転クランクを採用するBMW Motorrad「S 1000 RR」

 また、コーナー進入前にスロットルを戻して強くエンジンブレーキが効いた際には、車体の後ろ側を路面に押し付ける方向の力が生じるため、車体の安定性や後輪のグリップ力が高まります。

 他にも、逆回転クランクは「ジャイロ効果」を軽減する作用もあります。ジャイロ効果とは、高速で回転する物体が回転軸をその場に維持しようとする力のことで、バイクの場合は前後の車輪とクランクシャフトが相当します。

 これは直進時の安定性にとってはメリットですが、曲がるために車体をバンクする時にはハンドリングを重くするデメリットになります。

 そのため横置きエンジンで正回転クランクのバイクだと、前後輪とクランクシャフトがすべて同方向に回転するためジャイロ効果が大きくなりますが、逆回転クランクにすれば、前後輪のジャイロ効果をある程度抑制できるので、ハンドリングを軽くすることができます。

 というワケで、2輪ロードレースの最高峰であるMotoGPに参戦するマシンは、全車が逆回転クランクを採用していると言われています(非公表のメーカーもアリ)。

 ちなみに、ドゥカティの市販モデルのV型4気筒エンジンは、エンジンの構成がワークスGPマシンを踏襲し、逆回転クランクになっています。

 また市販車がベースのスーパーバイク選手権に参戦するマシンも、戦闘力を高めるために逆回転クランクを採用するBMWモトラッド「S 1000 RR」などがあります。

■とはいえ「正回転クランク」が主流なワケは……

 このように、逆回転クランクには数々のメリットがあります……が、現在も多くのバイクが正回転クランクを採用しているのはナゼでしょう? それは正回転クランクを採用するエンジンの、後輪までの駆動の流れを知ると理解できます。

「正回転クランク」から後輪までの回転伝達の概念図。クランクシャフトの軸とトランスミッション(変速機)の2軸を合わせた「3軸構成」が基本。青い矢印は各軸と後輪の回転方向「正回転クランク」から後輪までの回転伝達の概念図。クランクシャフトの軸とトランスミッション(変速機)の2軸を合わせた「3軸構成」が基本。青い矢印は各軸と後輪の回転方向

 1980年代半ば頃から、多くのバイクのエンジンは効率の良い「3軸構成」になっています。クランクシャフトと同軸に刻んだギアがトランスミッションのギアと噛み合い、変速してからチェーンで後輪を駆動しています。

 もし、この構成でクランクを逆回転させたら、後輪が逆回転してバックしてしまいます!

 そのため逆回転クランクを採用するには、クランクシャフトとトランスミッションの間、概念図では一次減速の薄緑と濃緑のギアの間にもう1軸増やして「4軸構成」にする必要があります。

 コレを普通に行なうと、部品点数が増えるので重量やサイズが増し、スポーツ性能を高める上では本末転倒になりかねません。

 そうならないためには、高強度で軽量な高級素材を使ったり、緻密な設計や精密な加工で重量やサイズを抑えなければなりません。そうすると当然ながらコストが上昇します。これが逆回転クランクの主たるデメリットでしょう。

 確かに逆回転クランクはバイクの運動性において多くのメリットがありますが、その威力を発揮したり実感できるのは、レースやサーキットでの本格的なスポーツ走行シーンになります。

 しかし一般ライダーが公道でツーリングを楽しんだり普段使いする上では、正回転クランクで何ら問題を感じることはないでしょう。

 いまだ正回転クランクが主流なのは、こういった理由があるからです。

■【番外編】あの名車も「逆回転クランク」だった!?

 いまだ絶版旧車で絶大な人気を誇るホンダ「CBX400F」は、じつは逆回転クランクを採用しています。

1981年に発売されたホンダ「CBX400F」は、「逆回転クランク」を採用した完全新設計の4気筒エンジンを搭載1981年に発売されたホンダ「CBX400F」は、「逆回転クランク」を採用した完全新設計の4気筒エンジンを搭載

 当時はバイクブームの真っただ中で、排気量400ccクラスは4気筒エンジンが出揃ってしのぎを削っていました。

 そんな中でホンダは、幅広くなりがちな並列4気筒エンジンを極力スリムに仕上げるために、クランクシャフトからトランスミッションへの一次減速をギアではなく、3-4番気筒のクランク間に配置したプライマリーチェーンで行なうという変則的なレイアウトを採用しました。

 一次減速にチェーンを用いた3軸構造のため、必然的にクランクシャフトは逆回転になりました。近代のMotoGPマシンやスーパースポーツ車とは逆回転クランクを採用した理由は異なりますが、結果として優れたハンドリング特性を発揮し、当時のレースでも大活躍したのです。

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