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近代建築・近代都市の先駆け。信長の夢と野望が眠る「安土城」へ

バイクのニュース / 2025年1月12日 11時10分

日本の歴史上最も謎に満ちているとも言える織田信長の「安土城(あづちじょう)」を感じるべく、滋賀県近江八幡市へバイクで訪れました。当時の常識では考えられなかった高層建築の城は、いったいどんな建物なのか。参考文献を手に歩いてみました。

■信長の夢と野望、その実像に思いを馳せる

 これまでに幾つもの山城や城跡をバイクで巡ってきましたが、最も謎に満ちた幻の城と言えば、織田信長が1576年から約3年をかけて完成させた「安土城」ではないでしょうか。1582年「本能寺の変」により信長が討たれて以降、天主をはじめとする主郭部が消失し、その後廃城となっています。

多くの観光客が訪れる「安土城址」には無料の駐車場があり、バイク置き場も用意されていた多くの観光客が訪れる「安土城址」には無料の駐車場があり、バイク置き場も用意されていた

「安土城」の最初の調査が行なわれたのが1941年で、その後1989年から20年計画の本格調査が始まり、2000年にはNHKのTV番組で予想CGによる城の天主など、全貌を再現するセンセーショナルな内容だったことを覚えています。

 これらの発掘調査の成果を記した書籍『信長の夢 安土城発掘 NHKスペシャル「安土城」プロジェクト』(NHK出版)を入手したので、その内容と照らし合わせて現地を歩いてみました。

 広い駐車場の一角にバイク専用置き場があったので、そこにバイクを停めて歩くことにしました。まずは受付で拝観料700円を支払います。ここからは約180mの真っ直ぐに伸びた「大手道(おおてみち)」を登ることになります。

 ここでは今までの城跡巡りでは経験したことのない威圧感を覚えました。幅は6mほどあり、視界は開けているのですが、不揃いな石の段は決して歩きやすいとは言えず、体力もかなり使います。

 両端には石敷きの側溝と石塁が築かれ、警護の目が光っていた道です。琵琶湖を挟んだ西側地帯に石垣造りの特殊技巧集団「穴生衆(あのうしゅう)」が活躍していたことなどを考えながら一段ずつ登りますが、石垣の浪漫に浸る余裕はなく、石が放つ威圧感の方が勝る感じでした。

真っ直ぐに伸び、最後は曲がりくねりながら本丸へ向かう「大手道」。天皇が通るための道は普段は使われることなく、街道から見える直線的な「大手道」とその先の天主は威容を放っていたに違いない真っ直ぐに伸び、最後は曲がりくねりながら本丸へ向かう「大手道」。天皇が通るための道は普段は使われることなく、街道から見える直線的な「大手道」とその先の天主は威容を放っていたに違いない

 後の研究によって、大手道は「天皇が通る道」、人々が歩くための道ではなく「見せるための道」だったと言われています。その先には天皇を迎える「本丸御殿」があります。

 では、実際当時の人々がどこを歩いていたのかというと、帰りに下ってきた「百々橋口道(どどばしぐちみち)」をはじめ、「搦手道(からめてみち)」、「七曲がり道(ななまがりみち)」という3本の道が使われていたようです。

「搦手道」は琵琶湖の水運を利用して物資を運びこむための道で、城の地下へつながっていたことが調査で判明しています。金箔瓦が出土したことなどにより、地味な裏道などではなく、壮麗な船着場から始まる道だったことが分かったそうです。「七曲がり道」は家臣が使っていた道です。

「大手道」を歩くと幾度か目にするのが石仏(せきぶつ)の存在です。石仏が他の石と同様に階段の石材として使われているのです。

「仏様を踏み台にするとは、さすが信長、神仏も恐れぬ覇王だな」と感じたのが第一印象ですが、神仏宗教を単純に蔑ろにしていたわけではないことが、「百々橋口道」の途中にある「摠見寺(そうけんじ)」の存在から分かります。山からの採石だけではなく、石仏や墓石なども使用してしまうのは現実主義者的な側面を感じさせます。

進行方向左には広大な「伝羽柴秀吉邸跡」がある。上下2段構造で櫓門が立ち、馬6頭を飼うことのできた大きな厩(うまや)もあったとされる。さすが秀吉、壮大で派手だと思わせるものがあった進行方向左には広大な「伝羽柴秀吉邸跡」がある。上下2段構造で櫓門が立ち、馬6頭を飼うことのできた大きな厩(うまや)もあったとされる。さすが秀吉、壮大で派手だと思わせるものがあった

「大手道」を歩き始めると、すぐ左右に羽柴秀吉(はしばひでよし・後の豊臣秀吉)と前田利家(まえだとしいえ)の武家屋敷と考えられている場所に着きます。

 羽柴秀吉邸は1500坪もある壮大な敷地で、これまた「秀吉の威光も凄まじい」と感じました。しかしここもまた、実際に秀吉の居城であったという確証はないらしく、正面警護のための武家屋敷という役割だとも考えられているようです。

「大手道」はやがて折れ曲がります。前述の書籍にも書かれていましたが、屈曲部にいわゆる踊り場がないため一休みすることもできず、なかなか難儀しました。しかし巨石や細かな石を巧みに組んだ石垣をじっくりと見ていると、疲れもふっ飛ぶというもの。

 やがて「黒金門跡(くろがねもんあと)」に到着し、「本丸跡」に辿り着きました。ここには天皇を迎え入れる本丸御殿があり、「御幸(みゆき)の間」があったとされています。

 書籍によれば、調査によってここが京都御所内の天皇の住居である「清涼殿(せいりょうでん)」と酷似していたことが分かっています。本丸跡に残されていた礎石の配置が清涼殿と酷似しており、近代の発掘調査によって、それまで漠然と想像するに過ぎなかったことが明確になり、信長の意図が見えてくる過程が面白いと感じました。

「大手道」はやがて屈曲するエリアへと変わる。ここから先は信長本人や側近など特別な人間のための空間。石垣の威圧感はさらに増す「大手道」はやがて屈曲するエリアへと変わる。ここから先は信長本人や側近など特別な人間のための空間。石垣の威圧感はさらに増す

 さらに一段高いところが天主の跡があります。高さ33mで五層七階(地上6階地下1階)という異様な建物は、ヨーロッパから来日した宣教師たちをも驚かせ、その美しさや複雑な構造はヨーロッパに引けを取らないどころか、それ以上と評していたことからも、凄さが伝わってきます。

 本丸と天主の間は空中廊下(渡り廊下)があったことも判明しています。そして信長本人は自ら天主に住んでいたとされています。

 現代でこそ高層階に住む習慣はありますが、城の天主は戦闘中に使う場所であり、当主は御殿に住むのが一般的だった当時の日本人にとっては信じがたいことだったはず。

 またこの建物は跡地の中央の礎石が存在せず、設計図を照らし合わせた結果、吹き抜け構造だったのではないか、と書かれています。ただし、この書籍が発行された2001年と現在ではまた見解が異なっており、実際には吹き抜けではなかったとする説もあります。

石垣に囲まれた礎石が残る「天主跡」。ここは天主の地下一階に当たる場所で、5層7階の天主がそびえていた。高さは33mあり、宣教師のフロイスは、当時のヨーロッパにもこのような壮大な建物は無いと言及している石垣に囲まれた礎石が残る「天主跡」。ここは天主の地下一階に当たる場所で、5層7階の天主がそびえていた。高さは33mあり、宣教師のフロイスは、当時のヨーロッパにもこのような壮大な建物は無いと言及している

 いずれにしても、高層建築を作ろうとした信長の考え方も独特ですし、それを実現した設計者、職人たちの技術の高さやアイデアも凄まじいものがあります。

 天主はただ威容を放つだけでなく、信長の思想や哲学が込められた空間だったようです。

 下層部は信長の住居や、客を招き祝宴や儀式などを行なう空間で、上層の5重目以降は宗教的要素が濃くなります。6重目は八角形の外装を持ち、螺旋状の二重構造で天国と地獄を表した仏教的な世界観の絵があったとされています。

 戦乱(地獄)の世の中を信長が平定し、その後に訪れる平安な世の中を示していたのではないか、と書かれています。さらに上の7重目は正方形で、古代中国思想を題材にした絵が飾られていました。おそらくこれは、信長が思索するための空間ではないか、とされています。

天皇を迎えるための「清涼殿」を模した本丸御殿よりも、さらに上に住んでいたという信長の天主へ続く石段。天皇よりも自分の方が上の存在だと言わんばかりの想いが、死後440年経っても伝わってくる天皇を迎えるための「清涼殿」を模した本丸御殿よりも、さらに上に住んでいたという信長の天主へ続く石段。天皇よりも自分の方が上の存在だと言わんばかりの想いが、死後440年経っても伝わってくる

 一方、城下町では「楽市楽座(らくいちらくざ)」によって自由な商売と安全が保障され、経済も活性化していました。

 1581年7月15日にはイタリアに帰国する神父を歓迎するため、天主などを提灯や松明でライトアップした「盂蘭盆(うらぼんえ)の夜」を開催し、ゲストや家臣だけでなく、麓に住む町民の目も楽しませたとのことです。いまで言うライトアップの先駆けです。

 当時の最新技術を駆使した近代建築、近代都市の発展、イルミネーションなどで魅せるアイデアなど、あまりにも斬新過ぎることを短期間にやってのけた信長には、誰もついていけなかったのかもしれません。

「安土城」は完成後わずか3年で消失した幻の城です。訪れた際も一部は発掘調査中でブルーシートがかけられていました。

 この先どんな事実が解明されていくのか、信長の夢と野望の実像に注目したいと思います。

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