ベスパ「GTV 300」なら、モノコックフレーム+前後12インチならではのキビキキビ感を堪能できる
バイクのニュース / 2025年1月9日 11時10分
日本市場では2023年7月に発売開始されたベスパの新型「GTV 300」は、伝統のスチール製モノコックフレームや片持ち式フロントサスペンションの車体に排気量278ccの単気筒エンジンを搭載し、フロントフェンダーのヘッドライトやパイプハンドルなどデザインも特徴的です。その乗り味はどうなのか? 試乗しました。
■スクーターの世界で、唯一無二の地位を獲得
門外漢の視点で見ると、ずっと同じモデルを作っているような……? ピアッジオが販売するベスパのスクーターに対して、そんなイメージを抱く人は少なくない気がします。
ベスパ「GTV 300」に試乗する筆者(中村友彦)
ちなみに、ベスパには昔から「ラージボディ」と「スモールボディ」の2種が存在し、現在のルーツは前者が2005年に登場した「GT200」で、後者の原点は2013年にデビューした「プリマベーラ50/125/150」です。
もちろん、キメ細かな仕様変更は頻繁に行なわれていますし、いろいろなバリエーションモデルも発売されています。とはいえ、2005年型「GT200」と現代の「GTS150/300」シリーズ、2013年型と最新の「プリマベーラ」を比較して、別物と感じる人はほとんどいないでしょう。
そしてその事実は、ベスパがスクーターの世界で唯一無二の地位を獲得していることの証明と言っていいのかもしれません。大手メーカーが販売する主力スクーターのほとんどは、基本的に数年ごとのフルモデルチェンジが定例になっているのですから。
2輪の世界には数多くのロングセラー車が存在しますが、変わらないことがヨシとされているのは、ベスパを除くと、ホンダの「スーパーカブ」系くらいではないかと思います。
■各部に専用パーツを導入した上級仕様
当記事で取り上げる「GTV 300」は、日本では2023年から販売が開始された、ラージボディの新型車です。とはいえ、23.8HP/8250rpmの最高出力や、26Nm/5250rpmの最大トルク、1380mmのホイールベース、前後12インチタイヤなど、基本的なスペックは既存の「GTS 300」シリーズと同様で、スチール製モノコックボディや片持ち式フロントサスペンションなど、ベスパならではの特徴も継承しています。
フロントフェンダーに取り付けられたローヘッドライトが特徴的なベスパの新型「GTV 300」。試乗車は純正アクセサリーのオレンジ色のバイザーとリアシートカウルを装着した状態
「GTS 300」シリーズとは異なる装備として、「GTV 300」は1940~1950年代前半のベスパを彷彿とさせるフェンダーライトやコンパクトなバイザー、ムキ出しのパイプハンドル、前後の段差を強調したシート(試乗車が装着するオレンジ色のバイザーとリアシートカウルは純正アクセサリー)などを採用しています。
ただし、それらは過去に販売した「GT」シリーズの特別仕様車「モンデナポレオーネ」や「セイジョルニ」などに通じるパーツなのです。
逆に言うなら、このモデルならではの新作パーツは丸型LCDメーターや、ラウンドタイプでブラック仕上げのバックミラー、スポークを放射状に配置したアルミキャストホイールくらいでしょう。
そんな「GTV 300」の価格(消費税10%込み)は、「GTS 300」シリーズの上級仕様である「GTSスーパーテック300」と同じ91万3000円です。ちなみにベーシック仕様の「GTSスーパースポーツ300」は88万円となっています。
このモデルを排気量250ccクラスのプラスアルファと考えると決して安くはないですが、現在の日本市場で販売されている排気量が近いスクーターを見ると、スズキ「バーグマン400」が89万5400円、BMWモトラッド「C 400 GT」は108万円~ですから、「GTV 300」が飛び抜けて高額なわけではありません。
■ベスパならではの、気軽さと楽しさ
さて、ここまでを振り返ると、なんだか新鮮味が希薄な話になってしまいましたが、久しぶりにベスパを走らせた私(筆者:中村友彦)は、やっぱりスチール製モノコックボディと前後12インチタイヤは気軽で楽しい!! と感じました。
伝統のスチール製モノコックフレームなどがもたらすキビキビした走りは、やっぱり楽しい
実際に試乗して最初に感じた美点は、乗り降りの容易さです。近年の原付2種以上のスクーターは、センタートンネル構造のパイプフレームと13~15インチタイヤが増えていて、そういうモデルは乗降時に跨ぐ動作が必要になります。
しかし昔ながらのスタイルと構成を維持しているベスパの場合は、椅子に腰かけるような感覚で、気軽に接することが可能なのです。
もっとも、エンジンを始動して走り始めると、極低速域では何となく車体の落ち着きの悪さを感じます。その主な原因は、現代のスクーターでは小径となる前後12インチタイヤと、ライダー込みの重心の高さですが、後にいろいろな場面を走ってキビキビした乗り味を実感した私は、そのあたりに異論を述べようという気持ちにはなりませんでした。
ちなみにシート高は790mmで、参考までに「バーグマン400」は755mm、「C 400 GT」は775mmです。
そう、ベスパの乗り味はとにかくキビキビしているのです。小径タイヤと高めの重心に加えて、そういったフィーリングのキモになるのは、外装が骨格を兼ねるモノコックフレームです。
もちろん、モノコックフレームを採用するすべてのスクーターが、ベスパと同様の乗り味を実現しているわけではないですが、「GTV 300」のダイレクト感や運動性を認識した私は、やっぱりベスパはこの骨格の勘所を熟知しているんだな……と感じました。
■排気量を拡大した、新エンジンの登場
2024年11月のEICMAで、ベスパは「GTS 300」の後継となる「GTS 310」を発表しました。この車両の特徴は排気量を278から310ccに拡大したエンジンで、最高出力は23.8ps/8250rpmから25ps/6500rpmに、最大トルクは26Nm/5250rpmから28.9Nm/5250rpmに向上しています。
ベスパ新型「GTV300」。試乗車は純正アクセサリーのオレンジ色のバイザーとリアシートカウルを装着した状態
そして310ccの新エンジンは今後は他機種にも転用されるはずですから、となれば「GTV 300」の購入を考えている人は、今は「待ち」の状況でしょう。
でも私自身は、「べつに待たなくてもいいんじゃないか……?」という気がしています。もちろん、新エンジンの性能は魅力的ですが、「GTV 310」(仮)が登場したからと言って「GTV 300」の価値が下がるわけではないのですから。
このあたりもベスパならではの面白いところで、やっぱりイタリアンスクーターの老舗は、唯一無二の地位を獲得しているのだと思います。
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