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エンジン内部の「バランサー」は何のため? 本当に必要? 無いとどうなる?

バイクのニュース / 2025年1月31日 21時10分

バイクのカタログや製品紹介などで目にする「エンジンの不快な振動を打ち消す〇軸バランサー」という部品。解説を読んでも、なんとなく意味が解るような解らないような……。そもそもエンジンにはそんなに振動があるのでしょうか?

■エンジンには、様々な振動がある?

 バイクの車種によっては、エンジンに「バランサー」というパーツを装備しており、カタログやメーカーのホームページなどにも明記している場合があります。大抵は「不快な振動を打ち消す……」的な文言で解説しているので、装備している意味はなんとなく解ります。……が、バランサーにも様々な種類があり、必ず装備しているワケでもありません。そこでバイクのエンジンの振動について考えてみましょう。

エンジンに装備される「バランサー」。画像はホンダ「CRF1000Lアフリカツイン」の2軸1次バランサーエンジンに装備される「バランサー」。画像はホンダ「CRF1000Lアフリカツイン」の2軸1次バランサー

 エンジン内部では、ガソリンと空気の混合ガスが爆発(燃焼)してピストンを勢いよく押し下げ、クランクシャフトによって回転運動に変換されます。

 まずは質量のあるピストンが動いているので上下方向の振動が発生しますが、これはクランクシャフトに設けた「カウンターウェイト」という錘(おもり)で吸収します。

 ところがクランクシャフトは回転しているので、カウンターウェイトが横向きになる際には、ピストンの重さと釣り合うのではなく、横方向への力が生じてしまうため、一般的な横置きエンジンの場合は前後方向への大きな振動が発生してしまいます。これをクランクシャフト1回転に対して1回発生する「1次振動」と呼んでいます。

 そしてピストンが上下するスピードは一定ではありません。ピストンは一番上(上死点)と一番下(下死点)にいる瞬間は、ほんの一瞬ですが完全に停止し、その中間にある時が最もスピードが出ます。このスピード差によってビリビリと発生する微振動を「2次振動」と呼び、クランクシャフト1回転に対して2回発生します。

■2気筒エンジンの振動は、けっこう複雑

 単気筒エンジンの場合、問題になるのは基本的に1次振動と2次振動ですが、2気筒エンジンになると少々複雑になり、エンジン形式によっても振動の大きさや種類が変わります。

代表的な並列2気筒エンジン。360°位相クランクは旧車に多く、180°位相クランクは250ccスポーツ車の多くが採用。そして近年の中~大排気量でメジャー化しているのが270°位相クランク代表的な並列2気筒エンジン。360°位相クランクは旧車に多く、180°位相クランクは250ccスポーツ車の多くが採用。そして近年の中~大排気量でメジャー化しているのが270°位相クランク

 まず単気筒エンジンをそのまま横並びにしたような360°位相クランクは、大きな1次振動も細かな2次振動も、やはり単気筒同様に発生し、排気量が増えれば振動も大きくなります。

 次に排気量250ccクラスのスポーツ車に多い180°位相クランクは、ピストンが互い違いに上下するため、理論的には1次振動が無くなりますが、2次振動は発生します。さらに並んだピストンが左右対称の動きでないため、クランクシャフトを捩じるような「偶力振動」が発生します。その振動の動きから「味噌すり運動」や「すりこぎ運動」とも呼ばれ、エンジンを揺する振動になります。

 そして近年の中~大排気量の並列2気筒でメジャーな270°位相クランクの場合は、1次振動はありますが、ピストンのスピードの変化がそれぞれでズレるため、相殺されて2次振動が発生しません。ただし偶力振動は発生します。

 このように、エンジンには主だったもので「1次振動」、「2次振動」、「偶力振動」があり、これらの振動を消す(抑制する)のがバランサーの役目です。

 仕組みとしては、錘(おもり)を付けたシャフト(バランサーシャフト)をクランクシャフトと逆回転させることで振動を消します。また錘(おもり)の形状や数、バランサーシャフトを配置する場所や回転数などで、消せる振動の種類も変化します。

■エンジンによって、装備するバランサーが異なる

 バランサーは不快な振動を消すのに有効なパーツですが、デメリットもあります。まず錘(おもり)の付いたシャフトをクランクシャフトの動力で回すので、少なからずその分のパワーを損失し、燃費も悪化します(部品点数が増えるため摩擦ロスも発生する)。

スズキ独自の「クロスバランサー」は、270°位相クランク並列2気筒エンジンの1次振動と偶力振動を抑制するため、クランク軸に対して90°に1次バランサーを2軸配置し、エンジンのコンパクト化も実現スズキ独自の「クロスバランサー」は、270°位相クランク並列2気筒エンジンの1次振動と偶力振動を抑制するため、クランク軸に対して90°に1次バランサーを2軸配置し、エンジンのコンパクト化も実現

 また、バランサーを収めるためにエンジンは大型化、当然ながら複雑化による生産コストの増加もあります。そのため、エンジンそのものを揺すってしまう偶力振動に対するバランサーは必須ですが、それ以外のバランサーは、どんなバイクやエンジンでも装備しているわけではありません。

 たとえば単気筒エンジンの場合、すでに生産終了していますが人気を博したヤマハのロングセラーモデル「SR400/500」はバランサーを装備していません。

 しかし同じくヤマハの単気筒スポーツモデル「SRX400/600」はバランサーを装備しており、これはパワーアップを狙った高回転化に対応するためと思われます。

 またホンダ「GB350」シリーズは、バランサー装備で乗り心地はもちろん、振動軽減による耐久性の向上も考慮しているのでしょう。

 ちなみに、小排気量(125cc以下)で高回転まで回さない単気筒エンジンの場合は、振動の大きさもあまり深刻でないためバランサー非装備のバイクも少なくありません。

 並列2気筒180°位相クランクの250ccスポーツ車は偶力振動を消すバランサーだけを装備し、2次振動に対するバランサーは非装備です。これはコストアップやパワーロスを避けるためでしょう。

 中~大排気量の270°位相クランクは、1次振動と偶力振動を打ち消すバランサーが必須ですが、世界的にもメジャー化しているエンジン形式だけに、バイクメーカーはエンジンのコンパクト化なども含めてバランサーにも工夫を凝らしています。なのでカタログやメカニズム解説の記事で、バランサーの記述を意識して見るのもアリでしょう。

■バランサー不要!? そんなエンジンもある?

 前述したように、エンジンの形式によって発生する振動の種類が決まりますが、じつは理論上で「振動の無いエンジン」も存在します。

最新テクノロジーを投入して設計されたドゥカティの新Vツインエンジン。シリンダーの挟み角が90°のV型2気筒で、理論上振動が発生しないためバランサーを装備していない最新テクノロジーを投入して設計されたドゥカティの新Vツインエンジン。シリンダーの挟み角が90°のV型2気筒で、理論上振動が発生しないためバランサーを装備していない

 現在のバイク用だと90°V型2気筒、並列6気筒、水平対向6気筒です。6気筒エンジンはバイクではけっこう特殊と言えますが、90°V型2気筒はドゥカティが有名で、国産もかつてはホンダの「VT」シリーズに搭載しており、現在もスズキが生産しています。

 まず、ひとつのクランクシャフトに90°向きが異なるようにピストンを配置しているため、互いに振動を打ち消し合うので1次振動が発生しません。

 さらに、ピストンのスピードの変化もそれぞれの気筒でズレがあるので、やはり相殺されます。

 そしてクランクピンを共有しているため偶力振動も起きません(厳密には2次振動と偶力振動はわずかに発生するが、無視できるレベル)。

 バランサーを装備せずに高回転化やパワーアップを狙えるメリットは、ドゥカティが長く90°V型2気筒にこだわる理由のひとつかもしれません。

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