吉村知事の発言はまずいが…「うがい薬」に期待できる“意外な効果”

bizSPA!フレッシュ / 2020年8月13日 8時47分

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吉村知事の発言はまずいが…「うがい薬」に期待できる“意外な効果”

 東京など大都市圏を中心に新型コロナウイルスの感染者が再び増えている。その最中、大阪府の吉村洋文知事が8月4日に行った会見内での発言が波紋を呼んでいる。

うがい薬

※イメージです(以下同じ)

「うがい薬を使ってうがいをすることによって、コロナの患者さん、コロナがある意味減っていく」という発言に対し、専門家や医師会から「あまりにも無責任な発言」と批判も出ている。吉村氏自身も早々とSNSで「うがい薬でコロナ予防効果が認められるものではありません」と弁明したが、改めてどこに問題があったのか?

 金沢大学医学部で感染制御学を研究し、歯科医師/口腔外科評論家で「口腔ケア」第一人者の宮本日出氏幸町歯科口腔外科医院 院長)に聞いた。

◆イソジンでPCR検査の陽性率が下がるカラクリ

 吉村氏の発言は「ポビドンヨード(イソジン)」のうがい薬で新型コロナの陽性率が下がったというものだが、本当に下がるのだろうか。

 宮本氏は「WHOの見解では、いかなる薬剤を用いても、うがいでは感染を防げないとあります」とし、次のように語る。

「唾液摂取のPCR検査をする場合は、採取する1時間前から飲食、うがいは控えるようにという指標があります。なぜなら検査結果が正しく得られないから。つまりイソジンなどのうがい薬を使えば、口の中が洗浄されるため、唾液を用いたPCR検査の陽性率は下がります。しかし当然ながら他の場所、例えば鼻咽腔を用いたPCR検査の結果は変わらないでしょう」

 つまり、うがい薬を使ってもコロナ患者が減る、予防になるとはとても言えない。そればかりか、PCR検査の陽性を回避するための手段になりかねないのだ。

◆「吉村知事は大きな誤解を招いた」

吉村洋文

吉村洋文大阪府知事

 また、吉村知事が会見で引用した研究データに対しては、きっぱり否定。

「実際にデータを見ましたが、研究というにはお粗末なものでした。年齢が高ければ、持病があれば、コロナ患者は重症化しやすくなります。しかし、吉村知事が使った研究データは内訳が不明で、仮説にすぎず、有意差検定もされていなかった。

 本来であれば丁寧に理論を立てていくところを、そのまま治療と言ってしまったのは大きな誤解を招くと思います。そもそも予防薬と治療薬は、根本的に異なります。今回の対象41人はコロナ患者であり、もしイソジンでのうがいが効果があったとしても、予防薬とは言えない

◆うがい薬の効果については期待も

 ただし、「まだ詳しい情報が出ていないので断言はできない」が、うがい薬の効果については期待も示す。

「うがい薬の種類にはイソジン(ポピドンヨード)、リステリン、ネオステリングリーンなどがあります。埼玉県歯科医師会が3月と4月に出した報告書では、イソジンとリステリンには、コロナを不活性化させる効果が期待できると推奨しています。イソジンはSARS、リステリンはインフルエンザウイルスというコロナと似た構造のウイルスに作用したのです」

 また、一部ではうがい薬が、肺炎などによるコロナ重症化を防ぐ効果もあるという声もある。

「人の細胞には、コロナが体内に侵入できるACE2受容体(angiotensin-converting enzyme Ⅱ)と呼ばれる“入り口”があります。舌にはACE2受容体がたくさんあるのですが、普段はタンパク質の保護膜で覆われています。しかし、歯周病菌が出すプロテアーゼという酵素がタンパク質を溶かし、ウイルス感染しやすくなる。うがいによって、口の中の歯周病菌を減らせば、感染防止に効果があるかもしれません」

◆口腔内の殺菌なら、リステリンが効果的

リステリン

リステリン

 また、人にはウイルスなどの外的要因から体を守る免疫機能がある。その調整役であるインターロイキン6が、コロナ患者は異常に上昇することがわかっている。

「インターロイキン6が上昇すると、免疫が暴走してしまい、体を守るどころか、自分の細胞を攻撃してしまいます。これをサイトカインストームと呼ぶのですが、歯周病菌はインターロイキン6の量を慢性的に増やすため、コロナにかかったときに重篤化しやすくなる恐れもあります」

 そもそもリステリンは、1879年から外科手術用の消毒液として使用されていた。口腔内の細菌にも効果があるとされて、口の中やのどの洗浄・消毒に用いる含嗽剤(がんそうざい)だ。

 宮本氏も「医師の間では、うがい薬のなかでリステリンがもっとも効果が高いとされていて、僕も使っている」と語る。

◆うがいをするのは水で十分?

 ただ、SNSでは「うがい薬が口腔環境に悪影響」という噂も聞くが、本当か?

「うがい薬は用法を守って使う分には大丈夫ですか、使用回数を守らなかったり、薄めないで原液のまま使用するのはやめたほうがいい。100種類以上ある口内の細菌バランスが崩れ、喉を痛めたり、甲状腺機能障害になったりする恐れがありいます。また、うがい薬ではなく、水だけがいいと言われていますが、これは水道水に塩素が含まれているからです

 当然、ミネラルウォーターや生水では、あまり効果は期待できないかもしれないのだ。宮本氏は口腔ケアの第一人者でもある。口腔ケアには、口の中の汚れを取り除く「器質的な口腔ケア」と、主に高齢者などを対象に舌や頬などの筋肉維持などを目的とする「機能的な口腔ケア」の2つがある。

 アフターコロナ、ウィズコロナの時代は歯磨き、舌磨きを含めた前者の「口腔ケア」が特に求められるそうだ。

◆歯周病菌を減らす口腔ケアが重要に

うがい

「歯の周りには1mgあたりに10億個のバイキンがあり、粘膜には1mgあたり1億個のバイキンがいます。また口の中は、歯だけではなく、頬のウラや粘膜、ベロなどもあるため、歯を完璧に磨いても全体の70%しか清潔になっていません。これからは歯のケアだけでなく、舌の上を拭ったり、こまめにうがいをしたりする粘膜のケアが重要になるのです」

 実際、最近では専用のクリーニング機器を使い、歯の表面のバイオフィルム(細菌が堆積しフィルム状の層になったもの)の除去も勧めている。

 ちなみに歯周病菌は口臭とも関係があるという。昨今、マスクをしている自分の口の臭いが気になる人もいると聞くが、宮本氏は「ベロの汚れと歯周病」が原因だという。

「マスクをしているときの口の臭いは、他人とキスをするくらいの距離になると漂うといいます。なので、めったな距離では臭いません。歯周病は40歳過ぎてから増えるので、それより若くて口臭が気になる人は、舌に菌が付着して汚れているのが原因だと予測されます。また、喫煙者は唾液量が減るので、口のなかで菌が増えやすく、歯周病も進行しやすいです」

◆予防対策マスクをつけるときの注意点は?

マスク 会社員

 ちなみに病院ではコロナの院内感染が問題になっているが、宮本氏が働くような歯科医院での感染する恐れはないのか。

「日本は歯科医院でコロナを患者に感染させた事例はありません。当初アメリカでは、歯科医院は最も危険な職場のひとつとされていましたが、現在はビーチにいるよりも安全、レストランのアウトテラスと同じくらいのリスクとされています。そのため、フェイスシールドや手洗いうがい、マスクといったスタンダードプリコーション(標準予防策)はしていますが、基本的ないわゆる“三密”対策をするだけで、それ以上の特別なことをしていません

 さらに口腔ケアからは若干外れるが、口の中の状態をより良くするためのアドバイスも聞いてみた。そもそも海外などを含めコロナ患者には「無自覚の新型コロナ患者」が全体の30~40%いると推定されている。感染を防ぐだけでなく、感染させないための努力も必要だ。

 イソジンなどを使って飛沫のなかに含まれる新型コロナの量を減らすことを期待できるかもしれないが、「PCR検査の際の指標に従えば、うがいをしてもコロナウイルスが減少するのは1時間程度」(宮本氏)という。

◆マスクをつけすぎても感染リスクに…

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 日本では飛沫を飛ばさないためにも、外出先や公共の場ではマスク着用がスタンダードとなっている。

ウイルスやPM2.5などの微粒子を防ぐのであれば、サージカルマスクや医療用マスクが必要です。よくある手作りのマスクや、スポンジマスク、ウレタンマスクは飛沫(つば)を飛び散らせるのをある程度は防ぐ効果は期待できるかもしれませんが、そもそも通気性がいいので、感染防止にはならないでしょう。むしろ食事時や、マスクを触った時に、手にウイルスがついてしまうかもしれないので、携帯用のアルコール除菌液で、こまめに手を洗う習慣をつけましょう」

 さらにマスクの常用には思わぬリスクがある。2020年5月に熊本県で行った実態調査によれば、マスクの下では口呼吸になる人が増えているというのだ。

「特にこの傾向は女性に多く、マスクを着けていない時より2.5倍も口呼吸になっていました。年代別では、10歳代以下が43%と最も多く、年齢が上がると口呼吸の割合は減りました。口呼吸をしていると、空気が直接のどの中に入り込むため、鼻呼吸に比べて数倍感染リスクがあります」

 新型コロナに限らず、歯磨きなどで口の中の清潔を保つと、肺炎などのリスクが下がることがわかっている。この夏は口腔ケアで歯周病菌を減らすことを意識したい。

<取材・文/シルバー井荻>

【宮本日出】

歯科医師・歯学博士。幸町歯科口腔外科医院 院長。国内外に160篇以上の論文を発表、複数のメディアにも登場。著書に『お口からの感染予防』など

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