「1泊500円でも来客ゼロ」コロナに翻弄されたゲストハウス

bizSPA!フレッシュ / 2020年8月30日 15時47分

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野口真央さん

 新型コロナウイルスの感染拡大に伴う外出自粛や、東京オリンピック1年の延期の影響により、全国の宿泊業者は厳しい事態に直面している。とりわけその影響が色濃く現れているのは、この時期にたくさんの旅行客で賑わうはずだった海水浴場周辺の宿泊業者だ。

由比ヶ浜

由比ヶ浜海岸。通常よりは少ないものの、人影はある

 鎌倉市内にあるゲストハウス「プラージュ由比が浜」のオーナーを務める野口真央さん(35歳)に現状を聞いた。

◆コロナ禍でキャンセルの嵐

「東京でオリンピックが開催される予定だった今年の夏は、従来の5倍の価格を付けていたにも関わらず、昨年末の時点で既に満室。しかし、新型コロナウイルスの感染拡大によって様子は一変しました。売上は当初見込みの60%減くらい。厳しい状況が続いています」

 東京オリンピックの開催に伴う、インバウンド需要に湧くはずだったプラージュ由比が浜に新型コロナウイルスの影が迫ったのは3月のことだった。

「東京オリンピックの延期(3月24日)が決まってからの数週間は、世界各地からキャンセルの連絡が相次ぎ、徐々に真っ白になっていくスケジュールを見ては、怖さを感じる毎日を過ごしていました

◆1泊500円でも来客ゼロの日々

野口真央さん

野口真央さん

 だが、野口さんの不安も虚しく、その後も国内外でも猛威を奮い続けた新型コロナウイルス。4月には日本政府が『緊急事態宣言』を発令し、移動の自粛が強く求められた。

「4月の中旬頃は、誰も来ない日が1週間くらい続きました。この時は、予約サイトの宿泊料を500円に下げてみたりもしましたが、それでもまったく反応がなくて……。

 夏の予約キャンセルに対応しつつ、来るあてのないお客様を待ちながら、フロントのテレビで映画を見て一日が終わっていく。この時は本当に先行きの見えない日が続き、『ヤバい』と感じながら過ごしていましたよ

 だが、県をまたぐ移動や旅行が厳しく制限され、全国各地の宿泊業者がビジネスの転換を強いられるなか、長期滞在希望者が多数入ったこともあり、一部をシェアハウスとして稼働させることにした。

◆現在の利用者は長期滞在が多い

ゲストハウス

「ゴールデンウイークを目前にした4月下旬頃から、長期で利用していただく方が増えました。例えば、飛行機が運休して、自国に帰れない外国人の方々や、このタイミングで海外から帰宅した日本人ですね

 新型コロナウイルスの影響で、生活の変化を強いられた人は多く、他には自宅でテレワークができない人も訪れたそうだ。

「なかには、湘南エリアで家探しをするためにご宿泊されて、そのまま住み着いてしまった方もいらっしゃいました。また、1泊の予定で来られた方がそのままずっと残るケースもありました。海の近くというロケーションの良さに加えて、個室でゆったりくつろげること。さらには、敷金や礼金などもかからないので、気軽に入れてしまうことなどが理由かなと思います」

 現在、「利用者のおよそ半数が長期滞在者」だと語る野口さん。宿泊業者の廃業に関するニュースも聞かれるなかで、時代の変化に柔軟に対応し、生き残りを懸けている。

◆宿泊費の相場は閑散期と同じくらい

 今夏、プラージュ由比が浜のある鎌倉市をはじめとする湘南エリアの海水浴場は、新型コロナウイルス感染防止の観点から、「未開設」の対応が取られた。

「鎌倉を訪れる観光客は徐々に回復しつつありますが、まだまだ観光をすることに対しては慎重な方が多い印象を受けます。海水浴客は通常の30%減くらいでしょうか

 通常であれば、夏は繁忙期にあたりますが、今年の夏は、宿泊料金の相場は閑散期と同じくらいでした。まだまだ日常を取り戻すには時間がかかるかもしれません」

◆新規事業で生き残りを懸ける

ゲストハウス

野口さん自身もキッチンで腕を振るう

 一定数の観光客が海岸を訪れていることに目をつけて、8月にはゲストハウス内にプラージュ食堂をオープン。かき氷やしらす丼など、夏の湘南らしいメニューを取り揃えた。

「新型コロナウイルスの感染拡大がきっかけで長期滞在されることになったゲストのなかに、元洋食店のシェフだった方がいらしたことが、食堂を始めたきっかけです。

 内装や設備工事、さらには保健所の許可申請など、準備にはおよそ2か月かかりました。今年は梅雨が長かったこともあり、客足は思ったほど伸びない時期もありましたが、それでも休日になると、多くの人に訪れていただいています」

 ゲストハウスでの縁がきっかけでスタートした新事業。野口さんは灼熱の海岸で日々地道なPR活動を続けている。

◆「ワーケーション」の恩恵も

 新型コロナウイルスの感染拡大に伴うテレワークの長期化や、遊びながら働く「ワーケーション」の推進によって、都心を離れて働くライフスタイルが注目を集めるようになってきた。

「外国人観光客は減りましたが、都心から非日常を求めて泊まりに来られる方は多くなりました」と話す野口さんだが、かくいう彼自身も、かつてはこのワーケーションに憧れていた一人だったという。

「以前は、映像の撮影現場で照明を担当していました。やりがいのある仕事でしたが、生活は不規則。海外旅行でマリンスポーツが好きだったこともあり、いつかは海の近くで働きたいと思っていました」

◆ゲストハウスを守りたい

ゲストハウス

世界中のゲストからたくさんの手紙が寄せられている

「この仕事を始めてから2年ほど経ちますが、日本は全国、外国は58か国、さまざまなところから来られるゲストの皆さんとお話するのは楽しいですし、やりがいも感じています。僕の天職と言っても良いかもしれません。素晴らしいゲストの皆さんに囲まれて生活ができていますし、何より満員電車に乗って通勤する必要がない(笑)」

「宿泊業界は苦しい状況にあるが、このゲストハウスを守りたいので、時代に沿ったサービスを展開できるように全力で頑張りたい」と語る野口さん。最後に抱負を聞いた。

「湘南の宿泊相場は、夏を過ぎると価格が落ちつく傾向にありますが、もうしばらくすると紅葉が楽しめますし、秋も魅力が詰まったエリアです。もし、日常に行き詰まったときには、ぜひ気軽な気持ちで穏やかな時間を過ごしに来てほしいです」

 五輪延期や海水浴場未開設、さらには、多くの議論が交わされた「Go to キャンペーン」など、新型コロナウイルスに翻弄される日々のなかで必死に奮闘を続けている。

<取材・文・撮影/白鳥純一>

【白鳥純一】

エンタメ関係のイベントプロデューサーを経て、ライターとしての活動を開始。 編集業務のほか各企業のメディア運営などに携わる

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