「吉野家」の看板はなぜオレンジ色なのか?きっかけはアメリカ視察

bizSPA!フレッシュ / 2020年10月5日 8時47分

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吉野家 Yoshinoya famous Japanese restaurant. © Tktktk

「ダサカッコイイは褒め言葉です」
――株式会社𠮷野家ホールディングス河村泰貴社長

「飲食店以外の方にも使える一冊」
――アークアンドサービスホールディングス株式会社臼井健一郎社長

 𠮷野家、かつやといった人気外食チェーンの代表が、こう言って推薦する一冊が『コロナ危機を生き残る飲食店の秘密~チェーン店デザイン日本一の設計士が教える「ダサカッコイイ」の法則』(扶桑社)だ。

𠮷野家

𠮷野家の牛丼並盛

 著者である大西良典氏は、外食チェーン店のデザイン数、日本一を誇る「職人出身の建築デザイナー」である。人気外食チェーンがコロナ禍でも集客が途切れないのはなぜか? 今回「𠮷野家」の2色の看板に隠された知られざる秘密を紹介する(以下、同書より抜粋)。

◆「𠮷野家」の看板はなぜオレンジ色なのか?

 看板の色や店のイメージカラーは、その店の集客に直結します。「マクドナルド」の看板は、赤地に黄色い「M」マークです。しかし、アメリカではもともと黄色がメインカラーで、赤はメインカラーに使われていませんでした。

「日本マクドナルド」(現・日本マクドナルドホールディングス)の創業者・藤田田氏が、赤信号と黄信号を見て、日本で展開する店舗のイメージカラーを赤と黄に決めたそうです。人は赤信号や黄信号には本能的に注意を払うので、赤や黄色の看板には自然と視線を向ける心理効果を狙ったのです。

 では、「𠮷野家」は、看板がなぜオレンジ色なのだと思いますか? これには有名な逸話があります。今から半世紀以上も前、当時の「𠮷野家」の社長であった松田瑞穂氏がアメリカに外食ビジネスの視察に訪れたときのことです。

「あのオレンジ色の屋根は何だろう?」

 広大な土地を車で移動していた松田氏は、1kmほど前方に見える鮮やかなオレンジ色の屋根にとても目を引かれたのです。松田氏が見ていたのは、「ハワード・ジョンソン」というコーヒーショップの屋根でした。「よし、これだ! 𠮷野家の看板もオレンジ色にしよう!」。

◆オレンジ色の看板が持つ心理効果

𠮷野家

𠮷野家 Yoshinoya famous Japanese restaurant. © Tktktk

 松田氏は膝を叩き、その瞬間、𠮷野家の看板をオレンジ色にすることに決めたそうです。暖色系のオレンジ色には、食欲を刺激したり気持ちを明るくポジティブにする心理効果があります。たくさんの競合店が軒を連ねる繁華街では、遠くからでもぱっと目立ち、食欲を喚起し、ポジティブな印象を与える「𠮷野家」の看板はとても有利です。

 明治時代に築地に牛丼の個人商店として誕生した「𠮷野家」が、関東大震災や東京大空襲の災禍をくぐり抜け、高度成長期の労働者の胃袋を満たし、巨大な牛丼チェーンとして躍進を遂げた大きなきっかけになったのは、このオレンジの看板だったのです。

 私がまだ駆け出しだった20代の頃に働いていた設計事務所が「𠮷野家」の設計に携わっていたこともあり、オレンジ色の看板には深いご縁を感じます。オレンジ色の看板を目にするたびに、ひと目で「𠮷野家」の存在がわかる秀逸な色彩だと思います。

◆「黒い𠮷野家」はなぜ生まれたのか?

𠮷野家

「𠮷野家 大井町西口店」。「オレンジの𠮷野家」とは異なるシックなエントランスで記念撮影をする人も多い(撮影/大西良典)

「𠮷野家」にも、近年は見慣れたオレンジ色ではなくブラックをベースにした「黒い𠮷野家」が各地に登場しています。テレビやネットで話題になったこの「黒い𠮷野家」は、看板をオレンジから黒にしただけでなく、居心地を重視した空間デザインに刷新。「C&C(クッキング&コンフォート)」をコンセプトにしたモデル店舗として生まれました。

 第一号の「黒い𠮷野家」が東京・恵比寿にできたのは、私が手掛ける以前の2017年。しかし、株式会社𠮷野家ホールディングスの社長と会長を歴任した“ミスター牛丼”こと安部修仁氏は、さらによりよくしたいと外部の設計士に依頼するよう相談されたそうです。それを受けて、𠮷野家のアルバイトからトップに上りつめた現・𠮷野家ホールディングス代表取締役社長の河村泰貴氏が、「もっとスタッフが効率よく作業できるデザインに変えてほしい。もっと若いターゲットに訴求するデザインに変革してほしい」と、直々に私をご指名くださったのです。

 別案件のデザインコンぺで私が𠮷野家の歴史を表現した映像をプレゼンしたところ、河村社長と役員の方々が大変感激され、「牛丼屋をよく知っている大西君に『黒い𠮷野家』のデザインをお願いしたい」と言われたのです。

◆「黒い𠮷野家」に取り入れた要素とは?

𠮷野家

𠮷野家 大井町西口店

「黒い𠮷野家」は、誰もが知っているシンボルカラーの「オレンジの𠮷野家」に対する一種のチャレンジングな実験的存在です。変えるなら、「えっ、これがあの𠮷野家!?」と誰もが仰天するようなデザインにしようと私は考えました。

「黒い𠮷野家」に私が取り入れたのは、インダストリアルデザインの要素です。壁や天井はオフホワイトを基調にし、黒いアイアン素材のアイテムをアクセントに使いました。木材のインテリアやグリーンのナチュラルなテイスト、優しいトーンのファブリックをあしらうことで、カフェのような雰囲気にデザインしました。店内写真だけを見れば、誰もこれが𠮷野家だとはまず思わないでしょう。

 あたりが暗くなると、黒ベースの看板にオレンジのロゴマークと白文字の店名が夜景にくっきりと浮かび上がり、ひときわインパクトがあります。現在、全国約30か所に「黒い𠮷野家」が進出して各地で話題になり、今後さらに増えていく予定です。

◆「黒い𠮷野家」に反応した意外な潜在顧客とは?

𠮷野家

大西氏がデザインを手がけた「𠮷野家 柏東口店」の内観。カフェのような内装デザインに驚くお客さまが多い

「黒い𠮷野家」に対するメディアやSNSの反応はさまざまです。

「あの𠮷野家がおしゃれカフェみたいに変身!」
「その辺のカフェよりクオリティが高い!」
「ケーキやドリンクバーまである!」
「各席にUSBポートやコンセントがあってWi-Fiも飛んでいる!」

――などなど、ターゲットである若い男女を中心に大好評です。驚いたのは、まったくノーマークだった60~70代のシニア女性が来店したことです。この世代の女性は、若い世代と違って牛丼チェーンに入ることに抵抗感があるので、従来の𠮷野家ユーザーではありません。

「黒い𠮷野家」が𠮷野家デビューとなったシニア女性も多く、実は彼女たちは𠮷野家で食べてみたいというニーズを密かに持っていた潜在顧客だったのです。シニア女性以外にも、今まではなかった女性のおひとりさま利用やテイクアウトも増えており、「黒い𠮷野家」は高い収益を上げています。

𠮷野家

𠮷野家 柏東口店

 同じ𠮷野家チェーンでも、看板の色や店舗の空間デザインをがらりとイメージチェンジしたことで、潜在顧客のニーズを掘り起こすという副次的効果を生み出すことに成功したのです。

 こうして「黒い𠮷野家」が大きな話題になり成功しているのも、「オレンジの𠮷野家」の認知度が日本全国に浸透していたからこそ。その対照的な存在としての意外性が際立つのだと思います。「黒い𠮷野家」はまだまだ進化するかもしれない未知のパワーを秘めた存在です。大切なのは、「オレンジが決まりだから、ほかの色なんてありえない」と、ひとつのブランドイメージに固執するのではなく、自らのブランドイメージの殻を打ち破っていく革新的なチャレンジ精神だと思います。

<TEXT/大西良典>

■ 大西氏がデザインを担当した有名外食チェーン店
なか卯/すき家/𠮷野家/かつや/すた丼/ココス/ビッグボーイ/デンバープレミアム/牛カツ京都勝牛/千房/モスバーガー/フレッシュネスバーガー/サーティワンアイスクリーム/英國屋/まこと屋/味千ラーメン/ローソン/すかいらーくグループ/サトフードサービスグループ/ゼンショクグループほか多数

【大西良典】

OLL DESIGN株式会社代表取締役。1978年、兵庫県神戸市生まれ。高校卒業後に神戸の三大ゼネコンに入社し、21歳で建築士になる。24歳で「なか卯」の店舗システム部にヘッドハンティングされ、27歳で「すき家」をはじめとする各種外食チェーンを運営する「ゼンショー」のグループ会社に出向。2010年に独立。東京と中国・上海に支社を設立、国内外で店舗デザインを展開

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