新人の余興はパワハラか?元フジ・菊間千乃弁護士に聞く

bizSPA!フレッシュ / 2020年10月13日 8時47分

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菊間千乃さん

 コンプライアンスという言葉を聞いたことはありますか。直訳すると「法令遵守」ですが、いまほど、このコンプライアンスの意識が強く求められている時代はありません。

ネクタイ

画像はイメージです

 パワハラやセクハラ、軽犯罪法違反など、一昔前なら「これくらいいいだろう」で通ってしまったようなことでも、いまは大事になり、人生に致命傷を与えてしまうことだってあります。そんなニュースを、毎日のように目にしますよね。

「時代の変化に合わせて、私たち自身も認識をアップデートしていかなければいけません。10年前の感覚では、危険です」と話すのは、元フジテレビのアナウンサーで、今は弁護士として活躍する菊間千乃さん

 9月に『いまはそれアウトです! 社会人のための身近なコンプライアンス入門』(アスコム刊)を上梓した菊間さんに、いま私たちが持つべきコンプライアンスの心得と知識について話を聞きました(以下、菊間さんより寄稿)。

◆「やってしまいがち」が人生の致命傷に

 私は、コンプライアンス研修をするときに、コンプライアンスとは「法令遵守など」であり、この「など」もとても大事なんですよ、とお伝えしています。法律の周辺にある社会のルールや、社会人として求められる規範といったものです。こういったものは、時代とともに変化していきます。昔の知識のままでいると、状況を見誤り、法律違反として処罰されたり、会社の中で懲戒処分を受けてしまったりすることもあります。

 実際に私が担当した事案では、大勢で飲み会をしている時に撮った写真をSNSの内輪のグループで共有していたところ、A子さんの洋服が少しめくれ上がっているような写真があったとして、A子さんから会社にクレームがきたというものがありました

 知らずに加害者になってしまわないために、そして、あなたが被害者になったときに自分の権利を回復するために、「その言動がどんな犯罪や懲戒処分の対象になるのか」という知識は、絶対に必要です。法律は、知っておいて損はありません。仕事で、プライベートで「やってしまいがち」ないくつかの事例を通して、ご自身の行動をチェックしてみてください。認識のアップデートはできていますか?

◆「新人で余興」はパワハラかも

 私が社会人になったころは、新人芸は恒例という会社がたくさんありました。でも今は、内容いかんによってはパワハラになってしまいます。

 ある会社の例をお話しましょう。その会社は、営業目的を達成できなかった社員に対し、研修会で発表する際、その会を盛り上げる目的で特定のコスチュームを着用させました。

 後日、これが訴訟にまで発展し、裁判所は、社会通念上正当な職務行為とはいえないとして、会社に対し22万円の賠償を命じたのです

 ここで注目したいのは、「当該社員がコスチュームの着用を明示的に拒否していなかった」ということです。拒否をしなかったのは、受け入れていたからではなく、拒否できる状況ではなかったからです。そして、裁判所は、部下という立場からすれば、上司の命令を「拒否することは非常に困難であった」と評価したのです。

◆損害賠償責任を負うことも

余興

「本人たちは楽しそうだったのに」という言い訳は通用しません。命じる方は軽い気持ちでも、命じられたほうは、場の雰囲気を壊してはいけないと、無理に笑って余興をしているかもしれません

 一般的にパワハラは、① 優越的な関係を背景とし、② 業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動により、③ 労働者の就業環境が害されるもの、が該当すると考えられています。イラストのようにミニスカートといったコスチュームなどを着用させた場合には、パワハラに加えてセクハラと認定される可能性もあります

 仮に認定されれば、会社はもちろん、命令をした上司自身が、損害賠償責任を負うこともあるでしょう。自分が新人の頃は……という言い訳は通用しませんから、お気を付けください。また、命じられる側の皆さんは、命令が業務とは関係のないもので理不尽だと思えば、別の上司に相談するなどして、声をあげてくださいね。

◆盗まれた自転車を取り返したら窃盗罪?

盗まれた自転車

 通勤の際に、駅まで自転車を使っている人も多いと思います。もし、その自転車が盗まれて、その後たまたま見つけたとしたら、「よかったぁ」と、乗って帰りたくなりますよね。でも、その行動は、窃盗罪や強盗罪に問われる可能性があるんです

自分の自転車なのに、なんでダメなんだ!」と思うでしょう。しかし日本では、自救行為(自己の権利を回復し保全するために、公権力によらず、権利者みずからが行う行為)が原則禁止されています。

 これを認めてしまうと、盗まれたものを暴力的に取り返したり、極端にいえば「仇討ち」なども許されてしまうことになりかねません。日本は「法治国家」なので、法律に基づいて自分の権利回復も行うというのが原則なのです。

◆写真を撮って警察に行くべき

 刑法242条は「自分の財物であっても、それを他人が占有するときは、窃盗や強盗の罪については、他人の財物とみなす」と規定しています。

 もともとは自分の物だったとしても、今現在、他人が占有、つまり使っていたり持っていたりするものは、その他人の財物とみなすため、それを勝手に自分の支配下に置くことは、窃盗罪や強盗罪に問われる、ということです。

 盗まれた自転車を見つけたら、携帯電話で写真を撮り、すぐに警察に報告しましょう。面倒くさいと思われるかもしれませんが、被害者であるあなたが加害者になるようなことがあってはいけません。必ず、警察を介入させて取り戻してください。

◆スマホの充電が電気泥棒に?

電気泥棒

 外出先で急なトラブルが起きて、すぐに連絡をしなければならない……。事態は一刻を争うのに、携帯電話が充電切れ、なんてことありますよね。そんなときに駅のホームやカフェでコンセントを見つけたら、使ってしまいたくなる気持ちはわかります。でも、これもれっきとした犯罪なのです。

 刑法245条は「電気は財物とみなす」と規定していますから、他人の電気を勝手に盗む(充電する)行為は、窃盗罪に該当します

 実際、コンビニエンスストアで店に断りなく携帯電話を充電していた中学生が窃盗容疑で書類送検された、駅構内で携帯電話を充電していた女子大学生が微罪処分された、コインランドリーでパソコンの充電をしていた男性が逮捕されたなど、電気窃盗に関する事例はたくさんあります

 いまはコンビニでもモバイルバッテリーが購入できますから、緊急だったという言い訳も通用しません。どうしてもというときは、施設管理者の方にことわりを入れてから、電源を使用させてもらいましょう。

◆大切なのは思考をめぐらせること

菊間千乃さん

菊間千乃さん

 今回ご紹介した事例は、「ついやってしまいがちなこと」のほんの一部です。日常生活にいかに法律がかかわっているかということに気づいて、日々の行動が変わったり、ニュースを見るときに、少し法律の視点を持っていただければうれしいですし、もっと知りたいと思って、深く学んでいただければ、なおうれしいです。

 しかしその一方で、私は、なんでもかんでも法律で規制しようという考え方には賛同できません。過度な規制は自分の頭で考えることを放棄することにつながりますし、法律がなければ何をしてもOKという風潮をかえって助長しているのではないかと思うところもあるからです。

 私が尊敬する作家の故・外山滋比古さんは、知識は過去、思考こそが新しいものを作る力であり、自分で考える力が大切だと常々おっしゃっていました。特にこのコロナ禍においては、自分の頭で考え、行動することが大切だなと思うことがたくさんありました

 得た知識をそのままにとどめずに、なぜこんな規制があるのだろう、この規制があるということは、こういう場合はどうなんだろう……と思考をめぐらせていただければ、幸いです。

<TEXT/弁護士 菊間千乃(きくまゆきの)>

【菊間千乃】

弁護士法人松尾綜合法律事務所 弁護士。1995年、フジテレビ入社。アナウンサーとしてバラエティーや情報・スポーツなど数多くの番組を担当。2005年、大宮法科大学院大学(夜間主)入学。07年、フジテレビ退社後に弁護士となり、紛争解決、一般企業法務、コーポレートガバナンスなどの分野を中心に幅広く手がけている Instagram:@kikuma_yukino

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