「コロナで生と死が希薄に」坊主バー店主が語る、悩みとの向き合い方

bizSPA!フレッシュ / 2021年1月5日 8時45分

写真

インタビューは坊主バー(中野)にて行われた

 中野に「坊主バー」というお店があります。その名の通り現役僧侶がマスターとして訪れる人に酒類等を提供するお店です。そこに訪れるお客さんの多くが悩みを抱えていて、中野・坊主バーのマスター釈源光さん(浄土真宗)は、これまでに数え切れないほどの悩みと向き合ってきました。

坊主

中野・坊主バーのマスター釈源光さん

「悩み相談のスペシャリスト」である釈源光さんに、前回のインタビューでは坊主バー開業の経緯を聞きましたが、インタビュー後編ではコロナ禍における悩みの変化、また悩みとの上手な付き合い方について、お聞きしました。

◆コロナで増えた仕事の悩み相談

――釈源光さんはこれまでに多くの方の悩みに寄り添って来たかと思います。新型コロナウイルスの影響によって、寄せられる悩みに変化はありましたか。

釈源光(以下、源光):仕事の悩みが多くなりました。これまでは男女関係の悩みが全体の6~7割を占めていました。今では半分くらいが仕事の悩みとなっています。

 大枠で言うと人間関係の悩みが多いです。「上司のパワハラ」「同僚と上手くいかない」「部下を制御できない」などです。普段であれば給料が安いなどが悩みになりますが、今はそんなこと言っている場合じゃないですからね。

――コロナの影響による雇い止めなども増えているなかで、たとえ苦しい職場であっても、簡単にはやめられないということですね。

源光:もちろん今の仕事を辞めたいという悩みを相談する人もいますよ。辞めたいけれど、次の仕事が見つかるか不安だ、でも今の職場にずっといたら心の病気になってしまうと悩みを話す人もいます。

◆悩むことはネガティブなことではない

坊主

インタビューは坊主バー(中野)にて行われた

源光:そんなとき、まず私はこう伝えるようにしています。「私は職業安定所(ハローワーク)の人間ではないので、その人の適材適所を判断して、より良い仕事に斡旋するということはできない」と。

 宗教者の仕事は、人に気づきを与えることです。悩み相談全般で、このことが重要になります。そのうえで、その人自身にあったアドバイスをしするのです。

 もちろん、なかには「悩みの全てから解放される」ような、ある種の救済を求める人もいますし、実際に宗教で救われたという人もいます。何かしらの宗教の信者となって、その教祖様を見て涙を流している場合に、その人の心の中で起こった劇的な変化は誰にも否定できませんからね。

 ただ、宗教にそういった側面もある上で、私が坊主バーで悩み相談を受けてお話するひとつとして「悩むことは素晴らしい」ということがあります。

――悩むことは悪いことではないということですか。

源光:仏教の開祖であるお釈迦様は多分世界で一番悩んだ人です。悩みの金メダルチャンピオンです。悩みに悩んだからこそ、素晴らしい教えが今でも伝えられ続けています。悩むことは悪いことではありません。素晴らしいことなんです。

 飛行機が飛んでいるのも、医療が発達して寿命が伸びたのも、分業が発達して生活が豊かになったのも、これまで多くの先人が悩んできたからこそです。悩みは決してネガティブなものではないと言いたいですね。

◆悪い悩み方をしない方法

坊主

――そのうえで良い悩み方と悪い悩み方があるかと思います。例えば悩んだ末に、自殺してしまう人などもいます。

源光:良い悩み方をすることは重要です。ケースバイケースではありますが、とにかくあがくことが大事です。例えば、思いっきり寝るとかでもいいんですよ。もしくは、美味いものを食いまくるとか、酒を飲みまくるとかでもいいんです。

――あがくというと、何か建設的な行動をしないといけないと思っていましたが、必ずしも建設的でなくてもいいんですね。

源光:悩んでいるときって余裕ないですからね。空回りでもいいんです、とにかくあがいてみること。そうすると意外に打開策が見つかったりすることもあります。最もよくないのは、一人で悩みを抱えてじっとしていることです。

 その点で、コロナは悩んでいる人をさらに厳しい状況に追い込んでいるかもしれません。坊主バーの営業で言うと、国の緊急事態宣言後、都の自粛要請を受けて4月から8月はほぼ全休していました。その間、ネットで悩み相談を受けてはいましたが、直接お店でお悩みを聞ける時と比べると数は多くはありませんでした。悩み相談は「密」になるので、コロナの影響は大きいです。

◆コロナで生と死の尊厳が希薄になる

坊主

――外出や人に会うのが困難な場合に悩みを抱えている人はどうすればよいでしょうか。

源光:悩みと対座することができれば理想です。日記でも、詩でも、小説でも何でもいいので、文章にして表現するんです。文章にすると悩みの交通整理ができるんですよ。旅行や読書や運動なども、悩みと上手く付き合う上でよく勧めるものです。

 その上で、悪い悩み方をしないことは重要です。先ほども話しましたが、坊主バーではメールでの相談も受け付けています。悩みを抱えているものの、何かしらの事情でお店に来られない方はメールでも大丈夫ですのでご相談ください。

――今年1年を振り返ってみると、コロナという昨年までは全く想像もしていなかった厄災の影響を大きく受けた年となりました。源光さん自身、コロナ禍をどのように思っていますか。

源光:ひとりの坊さんとして、通夜や告別式を行わずにお亡くなりになられた場所から火葬場に直接搬送する直葬が増えていることは気になっています。

 葬儀で一番お金がかかるのがお坊さんへのお布施なんです。これは定価がなく、地域相場となっています。結構な値段を取っている地域も少なくありません。この坊さんへのお布施を払うのが困難で、コロナを理由に直葬にする人が増えているのだと思います。

 私は冠婚葬祭がなくなることはいいことだは思っていません。葬式をちゃんとあげないようになると死の尊厳が希薄化します。そして、それは生の尊厳が希薄化することにもなります。

◆1人の宗教者としてできる限りのことをする

坊主

――生と死の尊厳が希薄になると、どういった悪いことが考えられますか。

源光:生きることと死ぬことが軽くなるんです。こうなると、例えば他者の命を踏みにじるような殺人事件も増えてしまうかもしれません。生と死の尊厳のためにも冠婚葬祭は重要な意味を持ちます。

「新しい生活様式」という言葉があるように、この1年で生活レベルではコロナ禍への適応がある程度はできるようになったと言えるかもしれません。ただ、生活とは少し離れた場所での変化の社会的影響が今後出てしまう可能性があるかもしれません。

 それが良い種類の変化だったら何も言うことはないですが、悪い変化の場合はそうもいきません。社会が悪い方向に行かないように、1人の宗教者として、できる限りのことはしたいと思います。

<取材・文/菅谷圭祐 撮影/荒熊流星>

【釈源光】
浄土真宗・真宗大谷派瑞興寺僧侶。1953年神戸市生まれ。パリ大留学より帰国後、JAICA、政治家秘書、広告代理店、スーパーゼネコンなど数々の転職を経て、50代を目前にして仏門に入る。2014年より東京・中野「ワールド会館」で坊主バーの経営者も務める

【菅谷圭祐】

大学受験情報誌、IT情報サイトなどでライター経験を積み、2018年よりフリー。最近の趣味は休日の農業、リサイクル業も兼業

×


この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング