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『スーパーマリオ64』に1億7200万円。米オークションで破格の価値がついた理由

bizSPA!フレッシュ / 2021年7月18日 15時47分

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高値がついた「スーパーマリオ64」 ※画像はヘリテージオークションズ公式SNSより

 2021年7月11日に、「ヘリテージオークションズ」によって、NINTENDO64用ゲームソフト『スーパーマリオ64』が156万ドル(約1億7200万円)で落札され、オークションでのビデオゲーム落札価格の最高記録を更新した。

スーパーマリオ64

高額出品が相次いだ(画像はeBayより)

 このオークション後に、eBayなどのオークションサイトにも多数の同じ商品が出品された。しかし、勘違いしてはいけないのは、『スーパーマリオ64』がそれほど価値のあるゲームソフトではないということだ。今回は輸入業・輸出業にも携わる筆者が、なぜ今回のオークションでこれほどまでの高額で落札されたのか解説していく。

◆ソフト自体が超貴重というわけではない

 箱なしのソフト単体での相場は、高くて2000円程度。状態にもよるが、箱あり並品でも1万円前後、新品未開封でも20万円前後(通常よりも値が付いたほう)といったところで、ソフト自体が超貴重というわけではないのだ

 日本では馴染みがあまりないかもしれないが、アメリカやイギリスではトレーディングカードやコミックなどをプロの鑑定士に依頼してもらい、専用のプラケースに入れて、レーティングを数字として表示するサービスがいくつも存在している。

 コミックで強いのは「CGC(Certified Guaranty Company)」、トレーディングカードなら、日本にも2018年に進出してきた「PSA(Professional Sports Authenticator)」、そしてゲームとしては、今回落札されたソフトを鑑定した「Wata Games」が強い。

 鑑定サービスを通さないだけでも、落札金額は全く違ってくる。また、プラケースに入れられてしまうと、読んだり遊んだりというそもそもの目的からは外れ、資産や骨董品として扱われることになる。そのため、高額品を扱うバイヤーや比較的富裕層のコレクターが愛用しているサービスである

◆奇跡的なコンディションだからこその高値

 今回落札された『スーパーマリオ64』のレーティングは、なんと「9.8A++」という奇跡的なコンディションである。これはゲームソフトとしては、常識的にありえないコンディションに価値が付いたというべきだろう。

 新品未開封は前提として、その中でも異例中の異例である。日本でもそうだが、ゲームソフトは大量生産品。10本や20本の単位でダンボールに箱詰めされ、それが各地のゲームショップや量販店に配送される。

 ダンボールに箱詰めの際にも、コーティングされているビニールに数ミリのほころびができたり、配送される際にもトラックや飛行機の揺れや他の荷物との摩擦によって、箱がへこんでしまうことが当たり前……。

 そんな数々のダメージポイントを奇跡的にすり抜けてきたソフトでしかありえないコンディションである。同じ未開封でも一生で1度、出会えるかどうかという次元の品と言っても過言ではない。そんなものが表舞台に出てきたとなれば、投資家やコレクターは、無視できないのだ。

 そもそも「ヘリテージオークションズ」というオークションサイトは一般人向けではなく、利用しているのは投資家や資産家が多いため、その土俵に上げられるだけでも価値が跳ね上がる可能性が高くなる。

「アメリカでゲームを出品すれば高く売れる!」という甘いものではない。今回の事例は、限定的な市場で、ごく一部の層が参加できるオークションで、しかも奇跡的なコンディションに価値が付いただけに過ぎないのだ。

◆ブックオフ、メルカリが進出したが…

eBay

画像はイメージです(以下同じ)

 アメリカでは、中古品を扱うリユース店やフリマアプリなどを頻繁に利用する中間的ユーザーというのがあまり存在していない(インターネットの普及や、コロナ禍によって多少増えてはいるが)。

 2000年にアメリカ進出を果たしたブックオフも、現時点(2021年7月)では10店舗に留まっている。これは決して、成功しているとは言い難いし、独立した店舗というよりは、ショッピングモールのテナントとして入っている場合が多い。ハワイでいえばドンキ・ホーテの中の一角にポツンとある程度で、利用するのは現地の日本人が多い。

 メルカリも2017年にアメリカに進出しているが、一時は約70億円の赤字にまで陥った。さらにはテレビ番組『マネーの虎』に出演していた、リサイクルショップチェーン「創庫生活館」の堀之内九一郎社長(当時)も番組内で「アメリカでは成功しなかった」と発言している。

◆アメリカには中古品を買う習慣がない?

 現地ではTwitterでも話題となった「ストゥーピング」という文化がある。これは必要がなくなった家具やインテリアなどをマンションの玄関付近や外に置いておくと、欲しい人が持っていくというもの。

 つまり中古品は「安く売る」というより、「捨てる」もしくは「価値を付けて売る」という概念が強いのだ。リユース店が成功しないのも、「売れない」というより、リサイクル品として、安価で買取るサービスが受け入れられず、現地で物が集まらないことに原因があるのではないだろうか。

GAME STOP

 2021年に株が急騰したことで話題になった、アメリカでは圧倒的な店舗数を誇るゲームショップ「GAME STOP」は、安価の中古品を扱う店舗としては、数少ない成功事例とされていた。

 中古品だけではなく、新品はもちろん、フィギュアや独自ブランド製品なども販売することで、総合的に維持できているように思える。ところが2020年だけでも200店舗ほど閉店しており、コロナ禍でさらに閉店が続いている状況である。

 PS5やXbox Series Xなどの新型機種の発売によって、中古販売店が一時は潤うかもしれないが、大きな利益には繋がらない。実はハード機の卸値というのは、ほぼ原価で、ソフトを一緒に売らないと赤字の場合がほとんど

◆ダウンロード販売の一般化が実店舗に打撃

PS5

 日本でもNintedo Switchが一時期、品薄で爆発的に売れたが、定価もしくは、定価より値引き状態で販売している量販店の利益は多くて1割程度。ゲームも映像もダウンロード販売が一般的になりつつあるが、ハードだけ店舗で購入されて、ソフトは家でダウンロードされてしまうと、経営が成り立たなくなってしまうのだ

 コロナ禍の巣ごもり需要でゲーム市場が好調というのは、あくまで限定的な側面から見た場合。実店舗の打撃を考慮すると、決して潤っているとは言えない状況である。

 音楽ダウンロードが一般的になってしまったことで倒産に追い込まれたCDチェーン「タワーレコード」(アメリカでは倒産した「トイザらス」同様、日本では経営母体が別のため、まだ存続している)や、動画配信の波に乗り切れず倒産したビデオ・DVDレンタルチェーン「ブロックバスター」と同じような道を辿っているようでならない。

 アメリカ在住の日本人、こんまりこと近藤麻理恵の著書『人生がときめく片づけの魔法』が世界的なベストセラーとなり、Netflixで番組が制作され、映画『ハッピー・オールド・イヤー』でも物語のベースになっている。これほど「ミニマリスト」という概念が世界中で普及してきているだけに、物に価値を見出す市場と物をできるだけ持たない市場とで、今後はより2極化されていくのではないだろうか。

<TEXT/映画ライター バフィー吉川>

【バフィー吉川】

映画評論家・映画ライター。映画情報&批評サイト「Buffys Movie & Money!」を運営中。Stand.fmなどの音声メディアで「バフィーの映画な話」も定期的に配信中。著書「発掘!未公開映画研究所」が出版予定

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