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パン屋なのに忙しくない。32歳“元数学教員”店長の「プライドレス効率化経営」

bizSPA!フレッシュ / 2021年7月27日 8時47分

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こちらは「小倉大納言もちこ」)写真のパンは切る方向が違います…

 一般的なパン屋さんといえば夜が明ける前からパンを焼いて、早朝からいろんな種類のパンを並べてオープンしているイメージがある。だが、そんな常識を覆して、売り上げを伸ばしているお店がある。

アルテの食パン

川崎市にある「アルテの食パン」

 川崎市にある夫婦経営の「アルテの食パン」(@altashokupan)は、朝11時にオープン。店舗販売を行わない定休日が3日もあるというパン屋ではあり得ないゆる〜い営業体系となっている。

 いかにして、これで成り立たせて美味しいパンを作るのか、「アルテの食パン」の店主である長山智寛さん(32歳)に実情を聞いた。

◆高校の時からパン屋さんに憧れ

「アルテの食パン」の長山さんは、独立する前は私立高校の数学教員だったというちょっと変わった経歴の持ち主だ。「子供の時から数学が得意だったんです」。そう笑いながら話す長山さんだが、パン屋さんにも昔からなりたかったという。

「高校の時からパン屋さんになりたいと思っていたので、大学卒業後『オリエンタル酵母工業』というパン開発の仕事をしている会社に就職しました。会社では研究職というエリートコースに乗ってたんですが、お客さんと直接触れられる仕事をしたいなという気持ちから、モヤモヤしてしまったんです。ただその時点で24歳。

 人と一緒に何かをやったり、教える技術が未熟だったので、いろんな人と関われる仕事をしよう! と、先生になりました」

◆数学教員免許を会社員時代に取得

アルテの食パン

アルテの食パンの店主 長山智寛さん

 唐突とも思えるようなアイデアだが、一度決めたら猪突猛進。ところがこの時数学の教員免許を持っていなかった。そこで会社員時代に深夜まで勉強して、通信教育で取得したというから驚きである。

教員免許は、単位を取れば取ることができるんですよ。それに数学の教員はなる人が比較的少ない。いちばん難しいのは、社会ですね」

 長山さん曰く、社会は教員免許を取れる大学が多いので、就職の競争率が高くなるが、数学、そして英語は特に穴場だという。

◆売り上げを変えずに休みを増やす

 私立高校の先生を3年経験した28歳の時に、融資を受けられるタイミングもあり独立。「アルテの食パン」をオープンした。教員時代には、ほぼ定時に帰るように仕事を効率化していたが、独立してからもさらにアップデートしている。

「開店当初は10時オープン。週に1回休みを取るというスタイルでしたけど、どのタイミングだったら休んでもお客さんに迷惑をかけずに大丈夫か統計をとり、最終的に11時開店になりました。それでも朝7時半からパンを焼いています。休みを増やしても売り上げが落ちたら意味がないので、ラインナップの見直し、単価のアップ、そしてお客さんの選別をしています

 はて、お客さんの選別とはどういうことだろう。

「楽しそうにたくさん買ってくれたお客さんと全然楽しくなさそうに渋々500円しか買わない人。同じ対応だったらおかしいでしょ(笑)。雨の日でもわざわざ来てくれる方、そういう方も本当に大切しなくちゃいけない。だから大切に思ってくれるお客さんにはできる限りいい対応をしている。すると、いいお客さんがまた新しいいいお客さんを紹介してくれます」

◆生地に添加物不使用でも、常温で1週間保存

アルテの食パン

定休日は3日! でも水曜日はパンの仕込みや卸業務があるので実際は週休3日ではないそう

 そうはっきり長山さんが言うのは、パンの美味しさに自信があるからだろう。オープン当時ベンチマークとしたお店は、銀座の「セントルザ・ベーカリー」。試行錯誤の末、現在は高級食パン専門店と普通のパン屋さんの中間ぐらいを行くお店を目指したラインナップになっている。

 材料や発酵方法などのパンの配合も数学的にパズルのように考えている長山さん。「時間の無駄がパンの質を変える」と、いかにパンの質を落とさず、短時間で作るか、常に実験と研究を欠かさない。

 今までビタミンCの使用だけだった添加物も、開店から4年も改良した結果、パン生地には一切添加物不使用。「パン屋さんに行くのはせいぜい週1回でしょう」と常温で1週間保存の効く美味しいパンになっている

◆売れてない時はLINEを出してフードロスゼロに

アルテの食パン

「アルテの食パン」の店内。そのままで美味しい「もちこ」とトーストすると美味しい「さくお」に別れている

 他店では絶対やらないフードロスを本気でなくすという取り組みも売り上げアップの秘訣だ。

「LINEを活発に利用していますね。いくつかある公式LINEアカウントの中には売れ残りの可能性がある日に助けを求めるその名も“フードロスヒーロー”というアカウントがあります。このアカウントは、平日と休日に分けてあり、パンの在庫が厳しい時に送ります。これでほとんど売れ残りがないようにしています。

 それでもどうしても売れ残った時だけ『rebake(リベイク)』というロスになったパンを販売しているサイトを通じて送っています。でも同じパンたちなのに、値引きして売ることになるのでなるべく送りたくない。値引きすることはパンたちにもお客さんにも失礼なことですから」

“フードロスヒーロー”のLINEは送っても、特に値引きはしていない。これは、他のお店も真似たらいいのでは?

◆ひと段落したら30分ぐらいお昼寝もする

アルテの食パン

可愛らしいイラストも

「他のお店は『ごめんなさい、今日パンが売れてません』って言うのが嫌なんじゃないですか(苦笑)。僕はそこに関してはプライド持たないから、やってます。ただパンとお店の価値を下げる値下げはしたくありません」

 その結果、売り上げも上がり、売れ残りもなくなった。“フードロスヒーロー”アカウントのLINEは、雨の日など売り上げが今ひとつ伸びない15時過ぎぐらいから考え始めて、16時ぐらいに送ると効果大だという

 1日のタイムスケジュールを教えてもらったところ、午前中はパン作りの作業。ひと段落した14時から30分ぐらいはお昼寝もする。毎日、好きなことしている以外の時間はダラダラしながら思考の時間にする、というのも効率化している要員のひとつだ。

「アップルのジョブズさんも洋服なんか考える必要あるのかと、考える必要があるところに時間を使ってたと聞きました。午前中のルーティーンのパン作りは、事前準備を徹底して毎回同じ動きでパンを作るようにしています。夕方からは考える時間。パンは研究の仕事ですから」

◆焼かなくても美味しい「もちこ」食べてみた

 筆者ももちもちしている食パン「もちこ」(500円)と巻き込み型のシフォン食パン「まっくろ小倉くるみ」(1000円)を購入してみた。

「もちこ」は、その名の通りもっちりしっとり。噛み心地もあって、耳まですごく美味しい。「まっくろ小倉くるみ」は、ミネラルたっぷり含んだ多良間産の黒糖の程よい甘さの中に小倉とくるみがたくさん入っていて、ずっしり重い。本当は焼く分を残しておこうと思っていたのに、分厚く切っていったら、あっという間に食べてしまった

アルテの食パン

こちらは「小倉大納言もちこ」)写真のパンは切る方向が違います…

 最後に学校の先生やったのは、今の仕事に役立ったのだろうか。気になっていたので聞いてみた。

「役立っています。頭の中の知識を整理して話せるようになったのは先生をやっていたおかげです。でも教員も会社員にも未練は全くありません。今後はデザイナー系の仕事、車のメーカーなど本当はやりたいことはたくさん。ゆくゆくはここを誰かに任せて好きなことやろうか……。でも自分の技術でお金になるのはパンだけだからなあ」

 そうつぶやく「アルテの食パン」の店主32歳。今後もまだまだ進化は続いていきそうだ。

<取材・文/谷亜ヒロコ>

【谷亜ヒロコ】

放送作家を経てフリーライター&作詞家として活動中。好きなテレビ番組は「ザ・ノンフィクション」、好きなラジオはTBSラジオ、得意料理は春巻き。得意領域はカルチャー、音楽、芸能、住宅、美容など。Twitter:@rokohiroko

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