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職場の「ハラスメント調査」は本当に信頼できる?理化学研究所で悪質な事例も

bizSPA!フレッシュ / 2021年9月10日 8時47分

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職場の「ハラスメント調査」は本当に信頼できる?理化学研究所で悪質な事例も

 ハラスメントの種類と言えばパワハラ、セクハラ、マタハラなどたくさんありますが、その調査の実態はあまり知られていません。ハラスメント調査とは、基本的にハラスメント被害者や第三者がハラスメント事案を会社に相談することにより、調査の段階に進むことが一般的な流れとなります

ハラスメント

※画像はイメージです(以下同じ)

 会社の役員や社内のハラスメント調査委員のメンバーでもない限り、どのように調査が進むのか、証言しても本当に大丈夫なのか? など、その実態を知る機会はあまりないと思います。被害に遭った人が、勇気を出してハラスメント相談窓口に電話をして、初めておおよその流れが理解できる場合が多いのではないでしょうか。

 本記事では、ハラスメント専門家の筆者(村嵜要)が、ハラスメント調査の実態と関係者や目撃者としてハラスメント調査の協力依頼が来た場合に、どのように対応するのが望ましいのかアドバイスをお伝えします。

◆ハラスメント調査と第三者委員会の違い

「ハラスメント調査」とは、社内の従業員が担当する場合や外部の専門家が担当する場合もありますが、調査の結果、ハラスメントに認定する判断をした場合は、就業規則に記載されているハラスメント行為の禁止を根拠に懲戒処分を行います。調査結果に対して懲戒処分を判断する権限が社内にあるのが特徴です。

 調査で混同してしまいがちなのが、「ハラスメント第三者委員会」というものがあります。パワハラ第三者委員会など名称はさまざまです。第三者委員会の委員として外部の弁護士や専門家などに依頼し、調査結果の権限を第三者委員会に委ねて、依頼した企業は第三者委員会の見解や助言に従います。

 筆者が代表理事を務める日本ハラスメント協会では、企業や団体のハラスメント調査やハラスメント第三者委員会を外部の専門家として受託していますが、ほとんどの企業では事案に対して従業員が調査しているのが実情です。より複雑だと考えられるハラスメント調査のみ、外部の専門家に依頼しているケースもあります

◆進め方は企業によってバラバラ

大企業

 従業員がハラスメント調査をする場合、以下の人が担当するケースが多いでしょう。

【担当者の一例】
・人事部、総務部、管理部、業務部の担当者
・現場の責任者

 ハラスメント調査の対応に慣れている企業は多くありませんので、調査体制は万能ではない可能性があることも理解しておくのが良いでしょう。また、調査の進め方は企業によってバラバラです。中小企業では懲戒処分の判断を人事部と役員が決める場合もありますし、大企業では人事部と役員の意見を参考に、社内で別に設けているハラスメント懲罰委員会のメンバーが意見を出し合い、最終的な判断をする進め方もあります

 2021年7月、ポートライナーなどを運行する新神戸交通が50代の係長級男性社員をセクハラで処分。勤務時間中に職場で女性社員の頭や髪をなで、肩にふれました。

 目撃した別の職員が総務部に通報、社内調査の結果、被害に遭った女性社員は過去にも2度同じ男性社員に肩や背中、尻を触られていたことも判明。計3回のハラスメント行為を認定し、男性社員を出勤停止3日間の懲罰処分にすると発表。管理監督責任を問い、男性社員の元上司ら3人も口頭厳重注意などに処しました。

◆協力依頼にどのように対応すれば良いのか?

 ハラスメント事案の当事者と親交がある場合、依頼協力が来たら、複雑な気持ちになることもあります。しかし、自分の意見をしっかり伝えて、正しい調査結果に繋げることが大切です。証言したいと思っていたことが質問されなかった場合、最後にまとめて伝えるのも方法のひとつです。もし自分も同じ行為者から被害に遭っている場合、この機会に自分の被害内容も伝えて良いか? または別の機会に伝えたほうが良いのかを担当者に確認するのが良いでしょう。

 他にもハラスメント調査に関する大切なポイントを以下に列挙したいと思います。

【ハラスメント調査の時にやるべきこと】
・知っていることは正直に話す
・知らないことを質問されたら「知らない」と伝える
・思い出せないことを質問されたら「思い出せない」と伝える
・記憶が定かではない場合は「記憶が定かではない」と伝える

◆調査で証言するデメリットも…

ハラスメント

【ハラスメント調査の時にやってはいけないこと】
・会話を録音
・虚偽の証言
・好き嫌いで当事者どちらかの肩を持つ証言
・当事者の言動を大げさに表現

【ハラスメント調査で証言するメリット】
・会社が実態を正しく把握することで再発防止策を検討できる、会社の成長に繋がる
・被害者が守られる
・行為者に厳重注意や懲戒処分になった場合、行為者に更生を促すきっかけになる

【調査で証言するデメリット】
・会社のハラスメント対策がしっかりしていない場合、証言したことが特定されて、「ジゴハラ」(ハラスメント調査終了後に行為者、被害者、関係者に向けられるパワハラやセクハラなど様々なハラスメント行為)の被害に遭う可能性がある

◆会社を守る悪質なハラスメント調査も

ブラック企業

 しかし、すべてのハラスメント調査が正当な目的のもとで行われるとは限りません。たとえば担当者から、以下のような会話が展開された場合は、悪質なハラスメント調査の可能性があります。

担当者「被害者●●さんも悪いところがあったから、行為者●●さんはこのような発言になったのですよね?」
担当者「行為者●●さんも優しいところありますよね? 以前に●●の案件で被害者●●さんのことをほめていましたよね?」
担当者「行為者●●さんは、他の部下3名とは良好な関係ですよね?やっぱり被害者の●●さんの方に何か問題があるのでしょうかね?」

 共通するのは行為者にとって有利になるハラスメント調査の報告書を作成するために、誘導的な質問を用意していて「イエス」を言わせるように仕向けてきます。このようなハラスメント調査には気をつけましょう。

 2013年、理化学研究所の非正規職員Aさんが同年代の女性職員からのパワハラ被害を理研本部のコンプライアンス室に相談。コンプライアンス担当者による関係者への聞き取り調査が行われましたが、パワハラの事実は認定されませんでした。

 翌月、室長から呼び出されたAさんは、雇用契約を更新しないことを告げられました。理由はコミュニケーション能力が足りない(コンプライアンス室に相談したから)でした。その後、理研側と話し合いをしましたが、解雇理由はいつの間にか「予算上の都合」にすり替わり、パワハラを揉み消しされました。

 納得できないAさんは、さいたま地裁に不当解雇による労働裁判を申し立て。審理の結果、理研側がAさんに30万円を支払う審判が下されました。

◆ハラスメント調査への対処法3つの要点

 行為者を守る前提のハラスメント調査が行われた場合の対処法の一例として、以下3つのポイントを軸に調査状況に合わせた対応をとるのが良いでしょう。

「なぜ行為者が守られるような一方的な質問ばかりするのか、担当者に確認する」
「(自分への聞き取りが終わった後に、どう考えても行為者が有利になる質問が多く、不信感を持った場合)根拠を伝えて調査協力を辞退することも1つの選択肢に入れておく」
「被害者がいつ、どこで、どのようなハラスメントを、どのくらいの頻度で被害に遭っていたか信憑性のある証言をする」

 そもそも、ハラスメント調査の協力は断っても良いのでしょうか? 特別な事情がない限り、原則は協力するのが望ましいですが、何らかの理由により協力したくない、あるいは協力できない場合(正当な理由がある場合)は会社の担当者に相談するのが良いでしょう。

◆協力できない事情として考えられるのは…

ブラック企業

「協力したくない」「協力できない」事情としては例えば以下のようなパターンが考えられます。

◆ 過去にハラスメント調査の証言をしたら、何らかの不利益な取り扱いがあった
◆ 過去にハラスメント事案があった際、退職者が不審に相次いだ
◆ ハラスメント調査担当者と行為者の仲が親密なため、証言した守秘義務が守られるか不安、または過去に守られないことがあった
◆ ハラスメント事案の当事者とほとんど接点がない。あるいは当事者のことを知らないのになぜか自分も聞き取り対象者に入っている

 会社には従業員への安全配慮義務がありますので、調査に協力することで安全が脅かされる状況を理解してもらえれば、協力しなくても良い方向に繋がりやすいと思います。

◆調査報告書には証言した人の実名が入る?

 調査報告書では原則、誰がどの質問に対して、どのような証言をしたかの実名が伏せられることで証言者のプライバシーは守られます。

 例えば「社員A」「社員B」「乙1」「乙2」などと表記されて特定されないように記載します。しかし、ハラスメント事案の対応に慣れていない企業は調査報告書に証言者の実名が入っているケースも存在します。心配な場合は事前に調査担当者に確認してから調査に協力するのが良いでしょう。

 あなたの証言が被害者を救うこともあります。ハラスメント調査では録音など確かな証拠がない場合、当事者同士が「言った、言わない」になる事も少なくありません。その際は特に関係者や目撃者の証言が懲戒処分の有無を左右する貴重な判断材料になります。

 現在、職場の身近なところでハラスメントが起きている人や、身近なところでハラスメントが起きていない人も、調査が行われた時はどのように対応すべきか。本記事がそれを考えるきっかけにしてほしいと思います。

<TEXT/ハラスメント専門家 村嵜 要>

【村嵜 要】

1983年、大阪府出身。ハラスメント専門家。会社員時代にパワハラを受けた経験があり、パワハラ撲滅を目指して2019年2月に「日本ハラスメント協会」を設立。年間50社からパワハラ加害者(行為者)研修の依頼を受け、パワハラ加害者50人を更生に導く。 Twitter:@murasaki_kaname

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