「災害は傷が癒える前に忘れられてしまう」だからこそ“記憶”を伝えたい 声優グループ『声援団』が舞台で届けた笑顔と涙 新潟・胎内市
BSN新潟放送 / 2024年7月28日 7時0分
被災地を支援しようと、2011年の東日本大震災を機に結成された声優グループ「声援団」が6月末、新潟県胎内市のホテルでチャリティーイベントを開きました。
様々なアニメや映画の吹き替えで活躍する“声のプロ”がステージで伝えたいのは「遠く離れていたとしても、いつもどこかで心配してくれる人が絶対いる」こと。
そして、公演ではたくさんの笑顔と涙の語り部として、57年前の8月28日に、この町で起きた“水害の記憶”も呼び覚ましてくれたのです。
新潟県北部にある人口2万7000人ほどの胎内市。
チューリップや米粉、夜には満天の星空が望める町にあるホテルに6月29日と30日、声優グループ「声援団」のメンバーがやってきました。
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井上和彦さん、かないみかさん、勝杏里さん、檜山修之さん、伊藤健太郎さん、甲斐田裕子さんの「声援団」中心メンバーに加えて、永井真里子さんと地元・胎内市出身の長谷川玲奈さんの若手2人も参加。さまざまな人気作に出演する“声のプロ”が朗読劇や歌などを披露するイベントに臨みます。
声援団の立ち上げメンバーで声援団“援長”の井上和彦さんは以前、「いろいろなところで苦しんでいる人がいる中で、なかなか目にすることがない声優の演技を間近で見られるイベントを通じて、被災地に目を向けるきっかけにしてほしい」と話していました。
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どうして胎内市でイベントが行われたのか。
そこには、脚本・演出を手掛ける胎内市出身の男性との出会いがありました。
今回のイベントの会場となった「中条グランドホテル」。
このホテルで働く池田真一さんが、今回のイベントの仕掛け人です。
開場直前まで、座席の確認など準備に追われていました。
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池田さんはかつて東京の劇団で活動し、10年前に地元に戻ってきました。
ラジオドラマや舞台の脚本なども数多く手がけていて、「声援団」の立ち上げの時から池田さんが書いた脚本を使っている縁で、今回が7年ぶり2回目の胎内市公演となったのです。
池田真一さん
「ようやく、この日を迎えることができました。あとは無事に開演できれば…」
池田さんは声援団の公演に、3つの思いを込めていました。
ひとつは、地元の人たちに“声のプロ”の演技を見てもらいたいということ。
2つ目は多くの人に地元の良さを知ってもらいたいということ、そしてもうひとつは、胎内市を襲った災害の記憶を伝えたいということです。
「地元の出来事を題材にした演目もあるので、地元でも大きな災害があったんだよと、他人事じゃないんだよと知ってもらいたい。そして、せっかく目の前で本物の演技が見られるチャンスなので、多くの人に体感していただきたいですね」
迎えた公演には、地元の人をはじめ関東や九州からも客が訪れました。
「声援団」では、公演の売り上げのうち、必要経費を除いた全額を能登半島地震をはじめとする災害の被災地に寄付しているのです。出演者も出演料を受け取りません。
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会場で販売されるグッズの売り上げもすべて寄付するということで、多くの人に“気取らずに”寄付してほしいと、かないみかさんを中心に出演者も販売に参加。多くの客がグッズを手に取っていました。
初日の公演では、出会いと別れをテーマにした朗読劇などが披露され、訪れた人は笑ったり涙したりして楽しんでいました。
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そして、初日の公演の後には、もうひとつのお楽しみがありました。
出演した声優と一緒に参加する「アフターパーティー」です。実はこの参加費や飲み物代も寄付するということで、参加した人は憧れの声優との会話を楽しんでいました。
そして2日目の公演。
この日の演目は、特に“地元”を意識した内容となりました。
ひとつは「中条弁講座」。
地元・胎内市中条地域の方言を、プロの声優が“再現”しました。
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「やいや、ヤッケのホックちょしたら、ぼっこれでしもだ!」
(あー、上着のホックを触ったら、壊れてしまった!)
「まんずもう、さんみっけ、いごでー」
(とにかくもう、寒いから、行こうよー)
「分がんにゃん?どうせばやん!」
(分かんないの?どうすればいいの!)
新潟県内でも独特の語尾とイントネーションがある中条弁を完璧に表現していました。
そしてもうひとつ、脚本・演出を手掛けた池田さんが伝えたかったという、地元で起きた”災害の記憶”です。
『羽越水害(8.28水害)』は、今から57年前の1967年に起きました。
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新潟県北部や山形県に甚大な被害をもたらし、現在の胎内市のエリアでは46人の死者・行方不明者が出ました。家々が流され、多くの人が行き場を失いました。
ストーリーは孫と祖父の会話から始まります。
かつて胎内市で大きな災害はなかったという孫に対し、祖父は2年前にも新潟県北部で大きな水害があったじゃないか、と諭します。ただ孫は「亡くなった人は出ていない」などと言い、聞く耳を持ちません。
その後、孫と祖父は胎内市黒川地区にある『胎内観音』へと向かいます。
そこで親子と出会った2人。そして祖父は羽越水害の記憶を語り始めるのです。
祖父「…私は消防団員でした。堤防を守ろうと土のうを積み上げていました。突然襲った濁流の前になすすべもなく、駆け上がった高台から激しい流れをただ見つめていました。その時です。子どもを抱いていた若い女の人が、流木につかまって波の間に―」
女性「助けて!」
祖父「私と目が合うと、彼女は叫びました」
女性「お願いします、この子だけは助けて!この子だけは!お願い…」
祖父「…何もできませんでした。あっという間に流されて、茶色い水の中に消えていきました」
孫「ウソだろ…」
祖父「あの日、目の前で助けを求める親子を救えなかった…苦い記憶です」
そして場面が変わり、羽越水害の発生当時、子どもたちが書いたという手記を、地元の児童・生徒が朗読しました。
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「9時半ごろ、台所のところまで水が入ってきた。私は弟を起こしに行った。水は床の下まで来て布団が濡れている」
「私たちが逃げて20分後、バキッ、バキッと大きな音が響いた。確かに私の家が倒れる音だ」
「早く、朝になってほしい」
「…私は思った。服ももらったし、靴ももらったし・・・本当はあの日亡くなったお母さんが一番欲しい。だけど私は『手袋がほしい』、そう言った」
この町で実際に起こった災害の記憶に、訪れた多くの人が耳を傾けていました。
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参加した高校生
「この朗読劇を通して(このような災害を)知ることができて、みなさんに伝えることができてうれしく思っています」
「この活動を通して、もっと地域のことを知っていきたいなと思いました」
2日間で450人ほどの客がプロの演技に酔いしれた「声援団」7年ぶりの胎内公演。
脚本・演出を手掛けた池田さんや出演した声優も手ごたえを感じたようです。
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脚本・演出を担当 池田真一さん
「思いのほか、地元の方にも多く来ていただきまして、うれしい限りです。羽越水害のことは、胎内出身の僕自身もうろ覚えで、いつか忘れ去られてしまうかもしれないと危機感を抱きました。地元の皆さんも含め、多くの皆さんに災害の記憶を伝え続ける大切さを感じてもらえたらいいなと思います」
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声援団 団長 勝杏里さん
「前回から7年が経ってしまいましたが、こうやって胎内で公演出来て良かったです。本当のことを言うと、僕らが必要ないというか、そういう時代になればいいなとは思います。ただ災害は、その傷が癒える前に忘れられてしまう。なので、僕たちは皆さんにその記憶や思いを届け続けられるように、できる限り、無理のない範囲で続けていければと思います」
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声援団“援長” 井上和彦さん
「たくさんの笑顔を頂きまして…これからもできるだけ長く続けていければと思っています」
能登半島地震など各地で災害が起こる中、「みんなを笑顔にしたい」と活動する声援団。
来た人から笑ってもらって、ちょっぴり泣いて、そして被災地への思いをはせてもらえれば…“声援団”の思いはこれからもつながっていきます。
なお、被災地支援のため、今回のイベントの収益から必要経費を除いたおよそ150万円を日本赤十字社に寄付することにしています。
声援団メンバーの出演作品など
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・井上和彦…「美味しんぼ」山岡士郎、「サイボーグ009」島村ジョー、「NARUTO」はたけカカシ、「夏目友人帳」ニャンコ先生/斑、「鬼滅の刃」継国縁壱ほか
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・かないみか…「それいけ!アンパンマン」メロンパンナ、「ひぐらしのなく頃に」北条沙都子、「機動新世紀ガンダムX」ティファ・アディール、「コードギアス 反撃のルルーシュ」皇神楽那、「キラキラ★プリキュアアラモード」ぺコリン/キュアぺコリンほか
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・伊藤健太郎…「キングダム」桓騎、「ゴールデンカムイ」白石由竹、「BLEACH」阿散井恋次、「弱虫ペダル」田所迅、「NARUTO」秋道チョウジほか
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・檜山修之…「幽☆遊☆白書」飛影、「BLEACH」斑目一角、「勇者王ガオガイガー」獅子王凱、「機動戦士ガンダム第08MS小隊」シロー・アマダ、「鬼滅の刃」鎹鴉ほか
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・勝杏里…「とある魔術の禁書目録」土御門元春、「バキ」加藤清澄、「シン・エヴァンゲリオン劇場版」多摩ヒデキ、Marvel's SPIDER-MAN(マイルズ・モラレス)、「美男(イケメン)ですね」ジェルミ ほか
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・甲斐田裕子…「SPY×FAMILY」シルヴィア・シャーウッド、「薬屋のひとりごと」阿多妃、「チェンソーマン」狐の悪魔、「約束のネバーランド」イザベラ、「一騎当千」呂蒙子明、吹き替え アン・ハサウェイほか
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・永井真里子…「アイドルマスターシャイニーカラーズ」西城樹里、「ポケモンマスターズEX」トウコ、「太鼓の達人あにめばーじょん!」やまと/フア、「MFゴースト」若菜、「道産子ギャルはなまらめんこい」飛鳥ほか
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・長谷川玲奈(胎内市出身/胎内市観光PR大使)…「邪神ちゃんドロップキック」アトレ、「恋と呼ぶには気持ち悪い」天草理緒、「理系が恋に落ちたので証明してみた。」神楽野春、「リンカイ!」弥彦巫女ほか
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