一体なぜ?処遇改善の見直しで介護報酬が“減額”に!「日本の未来」に関わる『訪問介護事業』の危機
BSN新潟放送 / 2025年1月30日 14時39分
重労働のわりに賃金が低いとされる介護職員の処遇改善のために、国は2024年度、介護報酬を見直しました。
目標は年度内の基本給2.5%ベースアップ。介護職員の平均給与に反映させると月に4000円から6000円ほどアップすることになります。
ただ、増えるのは「特別養護老人ホーム」や「デイサービス」などで、『訪問介護事業』については“減額”されることになりました。
一体なぜなのでしょうか?
新潟市内の住宅を訪問する『ホームヘルプサービス穂波の里』では、訪問介護部門のヘルパー7人が、およそ45人の利用者の自宅に行って介護を担当しています。
4年前に人工ひざ関節を入れる手術をしたのをきっかけに訪問介護サービスの利用を始めた83歳の女性は、週1回訪問してもらい、住宅の掃除や洗濯などを依頼しています。
「けっこう部屋がありますからね。1人ではとてもまかないきれません」
「来ていただいて本当に助かります」
【ホームヘルプサービス穂波の里 後藤順子さん】
「私たちは『一緒にやること』をモットーとしてやっています。できることはやっていただくのが、介護保険の中では大事なことなので…」
この日も、利用者と一緒に1時間、部屋の掃除を行いました。
訪問介護の利用者は全国で年間およそ159万人(2023年度)。
その数は年々増加しなくてはならないものになっているのですが、その訪問介護が今、窮地に立たされています。
介護報酬が、2024年度の国の改定で、2~3%『減額』されたのです。
【ホームヘルプサービス穂波の里 齋藤麻理さん】
「日々ヘルパー1人ひとりが専門性を生かして、プライドを持って、スキル知識と経験を持って援助していると自負している」
「それを踏みにじられるようなかたちに私たちは感じています」
なぜ『訪問介護』のみが“減額”されたのでしょうか?
介護分野に詳しい、新潟医療福祉大学の渡邊敏文教授によりますと、
「収入と支出の中で、訪問介護の収支差率が1番高い。要は収入がほかのサービスよりも高いことが1つ挙げられているかと思います…」
厚労省の発表では、介護サービス全体の利益率が2.4%なのに対し、訪問介護事業は7.8%になっています。
しかし、現場からはこんな声も。
【ホームヘルプサービス穂波の里 齋藤麻理さん】
「それは都会の話であって…。何十分もかけて山の中を運転して、たった20分の援助をして、また何十分もかけて帰ってくる―、という事業所が新潟には多いと聞いています」
「全体で見た数字だけで、利益・収支が上がっていると思われるのはどうなのか」
利用者が密集している地域では多くの住宅を効率よく訪問できます。
そのため、都市部では大規模事業者が利益を出して業界全体の利益率を押し上げていますが、新潟のように移動時間がかかる地方では、そもそも、訪問が可能な数に限りがあります。
【新潟医療福祉大学 渡邊敏文教授】
「事業所自体の縮小や、訪問介護の人材がなかなか確保できないがために給料への支出が減り…という現状から、実際に事業所にとっての“大きな黒字”になっているかというと、そこはまた実態とずれているのかなと思います」
厚労省の発表では利益率が高いとされていますが、その一方で全国の訪問介護事業所の36.7%が赤字経営(2022年度)だという現状があります。
東京商工リサーチの調査では、2024年10月までの訪問介護事業者の“倒産”が全国で72件あり、これは過去最多の数字となっています。
「新潟民医連(新潟県民主医療機関連合会)」が独自で行った新潟県内139の事業所へのアンケートには、数々の“悲痛な叫び”が記されています。
「すでに役員報酬を全額カットしている…」
「年収400万円を超える職員をつくれない…」
「ますますヘルパーが集まりません…」
「簡単に撤退することは…」 ―などなど。
【ホームヘルプサービス穂波の里 齋藤麻理さん】
「あなたたちが来ると元気になるとか、一緒に動けるとか…。必ずみなさん、ありがとうって、あなたたちがいないと生活していけないって言ってくださる…」
訪問介護の最中も、利用者の近況や大ファンであるバレーボールの石川祐希選手の話などで盛り上がっていました。
【利用者の女性】
「ヘルパーさんとの人間的な会話が大事なこと。こういう人にこそ本当に、処遇を良くしてもらいたいと一番思います」
介護報酬の“見直し”でひとつの危機を迎えている『訪問介護事業』。
待っている利用者がいる限り、なんとしてでも踏ん張り続けなければなりません。
【ホームヘルプサービス穂波の里 齋藤麻理さん】
「行った先で利用者が『元気かな』とか『倒れてないかな』とか…。精神的に負担が大きい仕事だからこそ、支出や収入の側面だけではなく、報酬を上げることを検討してほしい。それだけです」
国の介護報酬改定は3年に1回行われますが、3年を待たずに処遇を見直すことを訪問介護事業者は望んでいます。
もしも事業者が倒産してしまったら利用者はどうなるのか。
例えば手一杯で、ほかの事業所でも受け入れいてもらえない、という事態も大いにあり得えます。
介護は誰でも受ける可能性があるもの。
日本の未来に関わる問題として考えなければいけないと思います。
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