「豚そば 成」は、なぜ12球団のファンが集まるラーメン屋になったのか

文春オンライン / 2018年12月16日 11時0分

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「豚そば 成」店主の指村成彦さん ©井手隊長

 今年も依頼来るかな? 来ないかな? と思いながら日々過ごしてきたがやっぱり来た、ウィンターリーグの執筆依頼。「ラーメンと野球を井手隊長ならではの切り口でお願いします」というぶん投げ企画(笑)。

 ラーメン専門のライターとしてやらせていただいているものの、プロ野球も大好きで、小学1年の時に清原の活躍を見てしまって以来、30年来の西武ファンだ。今年は喜び半分、悔しさ半分、そしてFAでの悲しみがプラスオンという一年だった。

 今回の企画はどうしようかいろいろ考えたが、そういえばプロ野球好きのラーメン屋さんってどれぐらいいるんだろうという疑問が湧いてきた。知り合いのラーメン評論家さんやラーメンフリークから情報を集めたらいくつか候補が現れた。

 プロ野球好きでも、野球を観ていてラーメン作りが疎かになってしまうお店では困る。ラーメンが美味しいのが大前提だ。そんな中でも一番多くの方から紹介されたお店が横浜は下永谷にある「豚そば 成」。有名店出身で確かな腕を持った店主が営む、12球団のファンが集まる、プロ野球なくして成り立たないぐらいのお店らしい。

 今回の趣旨を説明したところ、喜んで取材を受けてくれた店主・指村成彦さん。まずは指村さんの経歴を見ていこう。

なぜラーメン屋「豚そば 成」に12球団のファンが集まるのか

 大学時代、「一風堂」が新横浜ラーメン博物館にあった頃にアルバイトで入り、ラーメン作りを覚える。一度就職をするが、2002年「一風堂」出身の中坪正勝さんが独立して開店した「麺の坊 砦」(渋谷・神泉)に社員として招かれる。こうして再びラーメンの世界に。

「砦」は人気店となり、指村さんはその後店長に。独立は特に考えていなかったが、家のある下永谷から渋谷まで通うのが大変だったこともあり、地元でラーメン店を開くことを考え始める。6年の修業の後、2008年6月、「豚そば 成」をオープンした。

 1番人気は「豚のり玉そば」。「一風堂」「砦」イズムをしっかり感じる本格博多豚骨ラーメンで、臭みは全くないがクリーミーで豚骨の旨味がバッチリで旨い。激戦区である環状二号線沿いでも人気のお店だ。

 ラーメンは旨いが、球場に近いわけでもない、店主が元プロ野球選手というわけでもない。ではなぜこのお店にプロ野球ファンが集まるようになったのか。

 幼い頃から大の巨人ファンの指村さんだが、「一風堂」「砦」での修業時代はもちろん野球を観ることができない。野球ニュースで結果を見て我慢する日々が続いていた。いよいよ自分の店を持つことになっても、お店にテレビを置くことはやめた。野球が気になってラーメン作りに集中できなくなるからだ。

 プロ野球ファンなら勘づくかと思うが、「成」がオープンした2008年は巨人が絶好調。84勝57敗で優勝した年である。打ではラミレスや小笠原が大活躍、投でもグライシンガー、内海、クルーンが大躍進した年だ。せっかく自分のお店を持ったのに、絶好調の巨人の試合を観られないなんて……。結局指村さんはラジオでナイターを毎日流すようになる。そこから完全に火が点いてしまった。

 毎日ナイターを流しているので、プロ野球好きの人が自ずと集まるようになる。一緒に巨人を応援してくれる人もいれば、逆に巨人が負けている日には嫌味を言いに来る人も。今や開幕前、オールスター前、日本シリーズ後の年3回、プロ野球ファンを集めてお店で飲み会を開くほどに。ユニフォームは各種取り揃え、その数300以上。お客さんにも無理矢理ユニフォームを着せて飲み会を開いている。

 そんな指村さんにお話を伺ってきた。

野球が繋いでくれたお客さんとの縁

――好きな選手は?

「巨人・菅野選手です。真っ向から勝負するエースっぽいところが好きですね。主力から三振を取りに行く姿勢がカッコいいです。でも背番号18は個人的にはナシですね。菅野といえば19でもう慣れ親しんでいましたし、上原が来ても渡さなかった番号なのに今更変えなくてもとは思います。今年は沢村賞のプレッシャーが大きく、投げすぎだったので、来年反動が来ないといいなと思っています。由伸前監督とは野球部時代に試合をやったこともあります。ホームランを打たれましたが今や誇りです(笑)」

 お父さんが長嶋ファンだったこともあり、幼い頃から巨人ファンの指村さん。中学・高校時代は野球部で、高橋由伸だけでなく井端、野村克則と試合をやったこともある。松井秀喜と同い年で、甲子園の明徳義塾戦で松井が5打席連続敬遠を受けた時は、部員全員でテレビの前で泣いたという。そんな松井が長嶋監督率いる巨人に入った時は本当に嬉しかったそうだ。

――野球好きで得したことは?

「野球が繋いでくれた縁に感謝ですね。お客さんが地方の球場でお土産を買ってきてくれたり、うちの子供を球場に連れて行ってくれたり、本当にありがたいです。チケットやグッズのネットワークもできましたし、楽しいですよ。何しろ野球の話がお客さんとのコミュニケーションになっていますからね。ナイターがない日の売上が落ちちゃうのが玉にキズですけど(笑)」

 指村さんはこう話しているが、お客さんから恩恵を受けているだけではもちろんない。お店に12球団のファンが集まるようになったため、巨人だけに飽き足らず、ヤクルト、横浜、楽天、ソフトバンクのファンクラブにも加入。野球好きの子供のためにチケットを取ってあげるなど、もはやラーメン店主の範疇を大きく超える手厚さだ。

――野球好きで損したことは?

「お客さん同士のケンカが始まることですね。酷い試合だと罵り合いになったりして、私がレフリー役で止めに入っています(笑)。あとは、お店をやっていると球場になかなか行けないのが辛いです。お店を閉めてまでは行くわけにいかないので、子供と奥さんだけでも行ってもらうようにしています」

 巨人の荒れ試合では指村さんがヒートアップすることもある。そんな時は奥さんがレフリー役に回る。試合運びによってラーメン作りに影響が出ないといいが、このお店の評価を見る限りそこは問題なさそうだ。「成」のラーメンの味の更なる向上のために巨人には頑張ってほしい。

――来年期待したい選手は?

「巨人の岡本選手ですね。補強はやはりつまらないとは思います。まずは4番の岡本がしっかり来年も30本打つこと。来年は今年と違ってマークされるでしょうからなかなか大変かもしれませんが、頑張ってほしいと思います」

――お店に来てほしい選手は?

「やはり地元横浜なので筒香選手に来てほしいですね。横浜はコーチ、スコアラー、寮長まで来ているので、ぜひ! これを読んだプロ野球選手の方、ご来店いただいたらラーメン1杯ご馳走しますのでぜひどなたでもいらしてください!」

「豚そば 成」は定休日を設けていない。10年間で30日休んだかどうかというぐらい休まないお店だ。休む時は野球の移動日を選ぶなど、そこも野球ありき。毎日店に出て朝から晩まで働いているが不思議と辛さはないという。大好きなプロ野球の話をしにお客さんが集まってくれるからだ。それがストレス発散になるし、逆に負け試合の時はストレスになることもある。毎日が野球とともに忙しく過ぎて、早10年。気づいたら美味しいラーメンもたくさんの人に食べてもらえるようになった。

豚そば 成

神奈川県横浜市港南区下永谷3-4-6 森元ビル 1F
045-827-2361

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(井手隊長)

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