本当にここを走るの? 東京五輪マラソンコースを巡ってわかった「強烈な環境」

文春オンライン / 2019年8月25日 5時30分

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 東京オリンピックが開催される2020年が迫ってきました。同大会の開催期間は7月24日〜8月9日。56年ぶりに日本で開かれるオリンピックに期待が膨らむ一方、記録的な猛暑となった2018年の夏を受けて、暑さ対策が急務になっています。特にマラソンや競歩など、屋外で行われるスポーツでは、晴れた日は選手が長時間にわたって直射日光に晒されるため、気温によっては熱中症や脱水症状に陥るリスクが高まります。

 かなり前の記録ですが、1900年のパリオリンピックでは、気温35〜39度の中で男子マラソンが行われ、半数以上の選手が途中棄権を余儀なくされました。また、1912年のストックホルムオリンピックでは、猛暑のなか男子マラソンが行われ、ポルトガルの選手が脱水症状により命を落としています。

 これらは、大会運営や選手へのサポート体制が今ほど整っていなかった時代の話ではありますが、記憶に新しい2004年のアテネオリンピックでも、憂慮すべき事態が起きています。同大会では、18時から女子マラソンが行われました。夕方から夜にかけてのレースなので、時間とともに暑さが和らいでいったとはいえ、スタート時の気温は35度。湿度が高かったこともあり、メダリストは全員、ゴール後に嘔吐してしまったのです。

 では、東京オリンピックでは、選手たちはどれくらいの暑さのなかで競技を行うのでしょうか。私は2018年7月末の晴れた日に、温度計を持って実際のマラソンコースを巡ってみました。マラソンは当初、午前7時半スタートと発表されていましたが、暑さ対策のため、30分繰り上げた午前7時スタートに変更されています。

 その午前7時、スタート地点の新国立競技場付近では、既に温度計は30度。浅草や東京タワーなど、東京の観光スポットを通るコースの中で、33キロ付近に位置する皇居外苑へ9時に行ってみると、なんと気温は39度を超えていました。

 夏の朝方は湿度が高く、70〜80%くらいはあったのですが、それ以上に驚いたのが日差しと照り返しの強さです。朝なので直射日光も少しは柔らかいかな、と思っていたのですが、そんな予想を裏切るほどの強烈さ。路面も熱く、しばらく立っていると靴底を通して足の裏がじりじりとしてきました。私は現場に行っただけで、走ってはいないのですが、それでも少しくらくらっとなってしまうような環境で、選手たちは本当にこの中を走るのか……というのが正直な感想でした。私自身、このような暑さのなかでマラソンを走ったことは一度もありません。

 こうした暑さへの対策も、少しずつ行われ始めています。例えば東京都は、路面温度の上昇を抑える「遮熱性舗装」を、マラソンコースや競技場周辺の道に整備しはじめました。ただ、私もマラソンコースを巡った際に、遮熱性舗装がされた道路を実際に触ってみたのですが、残念ながら選手が気付くレベルでの違いは感じられませんでした。

お金をかけないシンプルな対策

 他にも散水車や送風機、可搬式緑化など、様々な猛暑対策が検討されてはいますが、こうしたものを導入するにはどれも、かなりの費用がかかります。しかも、どれくらい効果があるのかは、実際に試してみないとわかりません。私はそれよりも、お金をかけずにできるシンプルな対策の方が、何倍も有意義ではないかと考えています。

 それは、競技時間のさらなる変更です。たとえばマラソンは、現時点の午前7時スタートをもう一段階繰り上げて、5時スタートにするのです。夏は4時半くらいから日が出てくるので、5時の時点で外はもうかなり明るくなります。これだけで、確実に競技中の暑さは和らぎます。

 2019年にカタールで行われる世界陸上では、マラソンのスタートはなんと午前0時です。真夜中のレースというのは斬新ですが、これだけ思い切ったやり方もあるのだな、と参考になります。

 早朝の開催は、運営側にとって負担になるとは思いますが、なにより大事なのは選手の安全です。彼らの身体を守るためにも、ぜひ競技時間の繰り上げは実現させてほしいです。

 一方で、暑さに気をつけなければならないのは、選手だけではありません。これは観客やボランティアも含め、会場を訪れるすべての人が注意すべき問題です。

 ただ、どんなに対策を施そうと、2018年並みの暑さが続けば、おそらく熱中症で倒れる人は出てくるでしょう。そのときのために、みんなで助け合える環境を作っておくことが大切ではないでしょうか。目の前で熱中症になった人がいたら、どんな応急処置をすればいいのか。心肺停止になった場合にはAEDをどう使えば良いのか。そうした知識を一人ひとりが持つことで、みんながみんなの安全を守る大会にするのです。

 オリンピックが終わっても、毎年暑い夏はやってきます。地球環境の変化に伴って、これからも年々気温は上がっていく可能性が高いでしょう。オリンピックをきっかけに、みんなが熱中症に対処できるようにしておくことは、今後を考えても決して無駄にはなりません。

 2008年の北京オリンピックでは、大気汚染の影響を懸念したトップ選手がマラソン出場を辞退し、大きなニュースになりました。そしていまでは、「日本の夏はとても暑い」という情報が、世界中の選手の耳に届いています。このままでは、東京の暑さが競技人生に与える影響を心配して、出場を辞退する選手が出てきてしまう可能性もゼロではありません。

 オリンピックは、私たち一人ひとりが支え、作り上げていくものです。猛暑対策も他人事とは考えず、みんなで議論し、その結果をもとに最善を尽くしていく。その先に、東京オリンピックの成功があるのではないでしょうか。

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(千葉 真子/文春ムック 文藝春秋オピニオン 2019年の論点100)

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