猫に演技させる秘訣は「命令しない、ひたすら褒めてお願いする」――岩合光昭が語る

文春オンライン / 2019年2月22日 7時0分

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©Machi Iwago

 大人気コミックを実写化した映画『ねことじいちゃん』を見て、猫がこんなに演技ができるとは、と驚いた。だが当然と言えば当然だ。監督は、世界的な動物写真家であり、猫写真家としても大人気の岩合光昭さん。とはいえ、フィクション映画を手がけるのは、監督にとっても初体験。

「オファーを受けた際は、さすがに即答できませんでした。でも原作の舞台となった愛知県の島々、なかでも佐久島には撮影で何度か行ったことがあり、そこで出会った猫や人たちを思い出すうち、島の黒壁集落を、猫とじいちゃんが散歩する場面がふっと思い浮かんだ。なんだ、もうやる気になってるじゃないかとハッとしましたね」

 脚本には、監督の意向で、人間のドラマと並行して猫のドラマも多く加わった。猫に演技をさせる秘訣を尋ねると、猫を知り尽くした人ならではの答えが返ってきた。

「命令をしない。ひたすら褒めてお願いをする。あとは、猫を観察していると、こっちに向かって歩きたいんだな、と猫の動きが何となくわかってくる。その動きに、カメラや照明の位置、キャストの動きを合わせていくんです」

 何度も同じ演技はしてくれないうえに、時に思いがけないアドリブを繰り出す猫たち。そのお相手をする、人間の俳優たちの苦労もうかがえる。

「あるシーンで、猫たちが突然喧嘩を始めちゃったんです。それを見た小林薫さんがとっさに『ほらほら、喧嘩なんかすんじゃねえ』と役である巌さんとして言ってくれて、脚本にはないシーンが見事にできあがりました。やっぱり俳優さんってすごいですよ」

岩合監督「自分が気に入ったカットはすべて入れた」

 主役のじいちゃんを演じるのは、監督が「この人しかいない」と口説き落とした、落語家の立川志の輔。愛猫タマ役には、100匹以上の中からキジトラ柄のベーコンが選ばれた。決め手は人懐こさ。

「テストで、ベーコンは志の輔師匠の横をゆっくり歩きながら、顔を2回も見上げたんです。思わず『それ本番でお願いします!』と叫びました」

 猫は自由奔放なイメージが強いが、最後の場面では、300メートル以上一緒に歩いたというから驚きだ。そんな1人と1匹の仲の良さは、画面の外でも一緒。カメラがまわっていなくても、師匠のそばにはいつもベーコンがいた。

「気持ちよさそうにしてると思ったら、バリバリと膝に爪とぎされたり、柴咲コウさんが来た途端そっちに走って行かれて苦笑したり。まさにタマとじいちゃんでした」

 自分が気に入ったカットはすべて入れた、という監督の言葉通り、映画では猫たちののびのびとした表情や動き、いびきや喉の音まで存分に楽しめる。美しい島での猫と人とのやさしい営みを、ぜひスクリーンで堪能してほしい。

いわごうみつあき/1950年東京都生まれ。地球上のあらゆる地域をフィールドに活躍する動物写真家。日本人として唯一人、米「ナショナルジオグラフィック」の表紙を2度飾った。2012年より始まったNHK BSプレミアム「岩合光昭の世界ネコ歩き」でも人気を集め、著書も多数。

INFORMATION

『ねことじいちゃん』
2月22日(金)より全国ロードショー
http://nekojii-movie.com/

(月永 理絵/週刊文春 2019年2月28日号)

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