「今の家電はユーザーに優しくない」オノデン社長が心配する日本メーカーの“変化”

文春オンライン / 2019年2月28日 11時0分

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 オノデンの創業は1941年、今の社長の小野一志さんのお父さん仁助さんが東京・台東区で始めた。

「父親は秋田県の由利本荘から家出同然で東京に出てきたそうです。貧農で食べていけないから親のカネをくすねて何時間も歩いて電車乗って、東京に出てきたら欺されてどっか連れて行かれたり、そんなスタートだよ(笑)」

 秋葉原に進出したのが51年、今も駅前にあるオノデンビルは61年に建てられた。そのころの秋葉原は日本橋の繊維問屋街を真似て、同業者が集まると人が集まるということで、最初は電機部品の問屋街が出来て、やがて小売もするようになった。

「家電といってもそんなに売る物はないから、電球かラジオだよ。いま『○○電器』って名前がついているのが昔電球を売ってたところ、『○○無線』てついているのがラジオを売ってたお店です」

「鉄板のプロ」を名乗って営業マンをしていた頃

 小野一志さんが入社したのが85年。大学を出て最初に働いたのは鋼鈑メーカーだった。

「最初は店を継ぐつもりはなかったのよ。普通に鋼鈑メーカーのサラリーマンやってて、『鉄板のプロ』って名乗って営業マンしてたんだから(笑)。うちに入った後もメーカーの工場見学で資材置き場ばっかりしゃがんで観察してた」

 入社して「鉄板のプロ」の目利きが役立った。中国の大手メーカー「ハイアール」が日本に進出したときだ。

「ハイアールが小さな冷蔵庫を持ってきたんですよ。裏の鉄板をみて、日本ではもう使っていない亜鉛鉄板を使っているのがわかりました。『これだと腐食性が早い、錆びやすいんだ』というと顔を青くしてすぐその場で中国本土に電話したよ」

日本家電は、ものの質が低下して多機能化した

「家電の作り」について最近は日本のメーカーに疑問を持っている。

「家電製品を触ってると、ものの質の値打ちが落ちてきている気がします。30年前のエアコンとか頑丈でしたもの。そういうこというと必ずメーカーさんは『コストの問題』とおっしゃるんですが」

 家電製品はものとしての質が低下した代わりに、多機能になった。IoT製品のように冷蔵庫や炊飯器がインターネットでつながり、スマートフォンでの操作も可能だ。だがそれも小野さんは腕を組んで「うーん」と苦笑い。

「スマホ経由で炊飯器の炊き分けを、うちのお客さんがするかなあ。若いお客さんなら便利でしょうけれど、年配のお客さんにはどうなんだろうと思います」

 そんな小野さんが共感しているメーカーがある。「バルミューダ」だ。ミュージシャンだった寺尾玄氏が2003年に創業した家電メーカーで、高価格だがデザインに優れ、高品質が売りだ。2015年に発売したスチームトースターは2万円を超える価格なのに、焼き上がったパンが本当に美味しいとヒット作となった。オノデンの店内にはバルミューダ製のトースターや扇風機のほか加湿器など他の量販店ではあまり見掛けたことがない製品も置かれていた。

「扇風機を作られて寺尾さんがうちに持ってこられたのが最初のきっかけでした。正直なところ4980円の扇風機の隣に2万円代の扇風機を置いて売れるのか半信半疑だったんですが、デザインが良かったので置いてみたら売れました。売れて目からうろこという商品ですね。高級マンションにお住まいで家電のデザインにこだわられる方とか、ゴルフコンペの景品として法人の総務部が購入されるケースもあります」

使いこなせるか否かで二極分化している

――デザインの高級感だけでなく、トースターのボタンが2つだけとか、小野さんがおっしゃっている「使いやすい家電」でもありますね。

「そうなんですよ。私が意見する立場にはないんですが、コンセプトが合う。寺尾さんが徹底したユーザー目線で製品を作っている意思の力を感じるんです」

「今の家電はユーザーに優しくないんですよ。10年前なら良かったかもしれないけれど、目がかすんできてパソコン用語がよくわからない人に10年前と同じ表記とか使い方はもうダメなのね。ユーザーさんの高齢化にあわせてくれないと、そこまでお客様がなかなか到達できないんですよ。使いこなせるかこなせないかという二極分化になっていますね」

一度に600万円売り上げた中国人富裕層向けの売り場

 客層が代替わりしてきた秋葉原で、新規参入客はなんといっても中国人の団体ツアーである。オノデンの前に立っていると、交差点に馴染みのない漢字4文字の旅行会社のマークを付けた観光バスが次々と停車していく。中から降りてくるのは中国人観光客だ。彼らはオノデンの右隣の免税店にまず直行し、そのあと並んでいるオノデンの店頭に殺到し、さらに勢い余ってその隣にあるアダルトショップでも物色している。おこぼれにあずかる作戦なのか、アダルトショップなのにちゃっかりと店頭には観光客が好きそうな普通の安い鞄などが置いてあるのが可笑しい。

 オノデンは最近、中国人観光客向けに4階フロアに特別な売り場を作った。日本の伝統工芸品を扱うコーナーで、安いものでも南部鉄製の鉄瓶が数万円、なかには100万円を超す逸品もある。そこだけ照明を落として高級感を演出している。

「中国人の富裕層向けです。ああいう方たちは1階のツアー客と一緒になるのを嫌がられるので。一度に600万円分も買い物したお客さんもいますよ。どうやって持ち帰るのか心配したら、プライベートジェットだから大丈夫と言われました」

ひっそりと掲げられた平和のシンボル

 4階から1階のお土産物コーナーに回ると、七色に染められた布に「PACE」と書いた旗が2枚、売り場の壁に貼られていた。「PEACE」の綴り間違いではないかと指摘すると、イタリア語で「平和」という意味だという。

「昔デロンギ(イタリアの家電メーカー)さんの本社見学に行ったときに、街のあちこちにこの旗が掲げられていて、良いもんだなと思ったんだ。平和運動の象徴みたいなものだね。それで現地で買ってきて店に貼って、それがボロボロになったからネット通販で買い直してこれは2代目」

 世界中の観光客が往来する秋葉原の老舗家電量販店で、ひっそりと掲げられた平和のシンボル。目立たないけれど、しっかり自分たちの立ち位置は明確にしておく。私はなぜか小野さんらしい、と思った。

――お客さんの反応はどうですか。

「それが来る人は中国人ばっかりだから、みんなイタリア語はわかんないのね(笑)。もっと反応あるかと思ってたよ。ま、店の意思表明みたいなものだから自己満足でもいいんだよ」

 小野さんはそう言って、最後に大きく笑った。

写真=榎本麻美/文藝春秋

(神田 憲行)

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