歯周病を最短1日で治せる「ごめんブラッシング」法とは?

文春オンライン / 2019年3月3日 7時0分

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東京国際クリニック歯科院長の清水智幸さん ©釜谷洋史/文藝春秋

「歯の駆け込み寺」として知られ、世界水準で最短1日で歯周病を治すPERIOD.の考案者でもある、東京国際クリニック歯科院長の清水智幸さん。かつてシニアの病気と思われていた歯周病は、近年10代から40代まで広く増えており、45歳以上の「歯を失う原因」の第1位は歯周病だという。初の一般書 『歯周病は1日で治せる!』 を上梓したスーパードクターが語る〈新しい歯の常識〉とは?

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10代から40代の歯周病が増えている

――ビジネスパーソンに多い歯のトラブルにはどんなものがありますか?

清水 当院は「歯の駆け込み寺」のような存在で、さまざまな歯科を渡り歩いてこられた重症患者さんが多いので一概には言えないのですが、働き盛りの各年代において、歯周病や虫歯に悩まれている方が非常に多く見受けられます。統計的に見てもここ十数年で、10代から40代の歯周病が増えているのは事実です。それにともない、働き盛りの世代に関していうと、口臭の悩みを相談される方も多くいます。

自覚しにくい自分の口臭

――職場での口臭は多くの人が気になっていると思います。でも気づいていないのは本人だけで、かといって周りも指摘しづらいですよね。

清水 たしかに、口臭はご自身の自覚は乏しく、ご家族から指摘されて相談しに来られる方のほうが多いんです。口臭には生理的口臭と病的口臭の2種類があります。夜間に唾液が少なくなると口の中が乾燥してきて、朝方はやや口臭が強くなる――これは生理的な現象ですから、さほど気にする必要はありません。朝起きて歯磨きをして、口の中の湿潤状態が上がれば自然と匂いも和らぎます。唾液には口の中を綺麗に洗ってくれる自浄作用もありますから。寝る前に舌のブラッシングをすると、翌朝の口臭軽減に大きな効果があります。

清水 ところが病的口臭、歯周病によるものは歯科医による適切な治療が必要です。歯周病とは、プラーク(歯垢)に潜む歯周病菌によって、歯ぐきに炎症が起きる病気です。歯垢1mgの中には1億から10億もの細菌が存在すると言われていますが、そんな細菌が繁殖した集合体プラークがぬめりのように歯に付着し、匂いの原因となるのです。歯周病が進行すると、膿んだ歯ぐきから、それこそ生ゴミのような匂いがします。

「歯周病」を発見するチェック項目

――歯周病もまた本人が自覚しにくい病気ですよね?

清水 すぐに痛みが出る虫歯と違って、歯周病は本人が気づきにくい「サイレント・ディジーズ」です。歯がポロッと抜け落ちてはじめて、さすがにおかしいと思って受診しにきた、という患者さんもいました。個人差はありますが、それほどまでに自覚症状に乏しい病気です。本に詳しく書きましたが、「目覚めたとき、口の中がネバネバする」「ブラッシングすると出血する」「歯ぐきに違和感がある」といったチェック項目をよく確認して、早めに発見して治療を開始する必要があります。

欧米では口腔ケアはマナーに。『プリティ・ウーマン』のワンシーン

清水 欧米だとビジネスパーソンのマナーとして日頃から口腔ケアをきちんとする、という文化が根付いており、とくに北欧諸国は歯の予防医学にも力を入れています。例が少し古いかもしれませんが、象徴的なのが映画『プリティ・ウーマン』(90年)のワンシーン。コールガール役のジュリア・ロバーツが部屋でデンタルフロスをするんですね。「ドラッグはダメだ」って実業家のリチャード・ギアが止めたら、彼女が持っていたのは薬じゃなくてフロスだった(笑)。マナーとして日常的なブラッシングに気を使っていることを示す印象的な場面でした。邦画や国内ドラマでデンタルフロスや歯間ブラシを使っているシーンはなかなか思いつきませんよね。日本では口腔ケア・予防医学にたいする意識が周回遅れになっている状況は否めません。

――どうしてそうなってしまったのでしょうか。

歯医者の思い込みが大きな問題

清水 「予防」に保険点数がつかない保険制度の問題が大きいのですが、私はそれ以上に、日本では「歯周病は治らない」「加齢とともに進行するからうまく付き合っていくしかない」と思っている歯医者がいまだ多いことに大きな問題があると思っています。これだけ医療の進んだ先進国で、たとえば歯周病のセミナーや講習会のような場で、ドクターから「歯周病って治せるのでしょうか?」という質問が出たりするわけです。エビデンスに基づいた治療をすれば歯周病は必ず治せる病気だということが何十年も前にもう証明されているのに。

――歯周病は歯科に通ってもなかなか良くならない、治療期間が長いというイメージもあります。

複数回に分けていた治療を1回にした結果

清水 保険申請の関係で、多くの医院での歯周病治療は、口腔内を6分割にして段階を追って治療を進めるため、6カ月から1年以上に及ぶ長期間の通院が必要です。治療自体も痛みをともなうものが多く、患者さんの中には、完治する前に治療を放棄・中断してしまう方が少なくありません。でも、患者さんにかかる通院の負担や心理的なストレスを考えると、やはり治療にかける期間は短いに越したことはありません。

 海外ではもともと口の中を4分割にして治療を進めるのが一般的でした。ところがヨーロッパの医師たちの中に4分の1を治療しているうちに、残りの4分の3から歯周病菌が移ってくるのではないかと考えた人がいた。そこで4回に分けていた治療を1回でやったところ、なんと治療結果に差がないことが証明されたのです。私が、保険診療の枠にとらわれず、最短1日で歯周病を治す「ペリオド」を打ち出したのには、そうした背景があります。

最短1日で治す方法

――どうやって1日で治すのでしょうか。

清水 まず前提となる状況からお話しすると、一般的な保険治療においては、歯周ポケット内の歯垢を除去するために、よくルートプレーニング(歯の根っこの表面の滑沢化)というのが行われています。これは歯垢が歯根の表面につくと、歯根のセメント質が細菌の毒素によって壊死してしまうという考え方からきています。だからセメント質をとってしまうのですが、そうすると象牙質という2層目がむき出しになって知覚過敏を起こします。従来それは歯周病治療で仕方のない副作用だと考えられていました。しかし今は研究が進んでいて、歯の根っこの細菌の毒素は生理食塩水で流すだけで99%除去できることが分かっています。

 当院では、歯根表面にこびりついたプラークだけを選択的に取り除く「デブライドメント」を行っています。現存する医療機器の中でもっとも歯ぐきへの負担の少ないエアフローマスター・ペリオフローを使って、超微細なアミノ酸の高圧噴射でプラークを取り除くため、無麻酔でもほとんど痛みをともないません。歯ぐきの退縮や知覚過敏のような副作用を引き起こすこともありません。

世界のスタンダードは「感染の制御」にシフト

――それが世界的なスタンダードなのでしょうか。

清水 そうなんです。猫も杓子もとにかく、ルートプレーニングで歯垢を全部とらないと治らないという考え方はちょっと古い。今はインフェクション・コントロール(感染の制御)という考え方にシフトしてきていて、これは患者さん個々の免疫で抑えられるところまで感染源を少なくするという考え方です。免疫の強さは人それぞれで違います。風邪を引きやすい人、引きにくい人、歯周病になりやすい人、なりにくい人、さまざまです。その人の免疫で抑えられるところまで感染物質の総量を減らすというアプローチなら、歯周病菌の除去の治療も1日で、同じ結果が得られます。知覚過敏の発現率も明確に下がって、メリットが大きいんです。

――なるほど。

「ごめんブラッシング」法で歯垢を除去

清水 もう少し丁寧に説明すると、インフェクション・コントロールは患者さんが行うものと、医療従事者が行うものとがあります。患者さん自身で行うものが、日々の歯垢の除去、つまりブラッシングです。私が提唱する「ごめんブラッシング」法では、歯を5つの面で立体的にとらえます。デンタルフロス、もしくは歯間ブラシを使ってはじめてすべての面でのブラッシングが完結します。磨き残しが少なくとも30%以下、重症歯周病患者さんなら20%以下になるようにしてもらっています。ですから、「ペリオド」を実施する前段階として、正しいブラッシングをマスターしていただく必要があります。患者さん自身でインフェクション・コントロールをできるようになれば、「ペリオド」の治療そのものは多くの場合1日で、重症歯周病患者さんでも1日から3日程度で終わります。

 そして患者さんの手が行き届かない20から30%部分の磨き残しを、われわれ医療従事者のインフェクション・コントロールで定期的にフォローします。その両輪の態勢をとることで治療期間を短くできますし、その後も継続的によい口腔状態を保つことができます。

歯周病専門医からのアドバイス

――ストレス社会で働く人たちに、口腔ケアのアドバイスをいただけますか。

清水 歯周病は細菌による感染症ですから、ストレスが過度にかかる状態が継続すると白血球の機能不全を起こすリスクが高まり、口腔内の状態が悪化します。なので、日頃からできるだけストレスをうまく解消して、バランスのよい食事をとることが大切です。口の中は末梢組織ですから、末梢の血液循環をよくするビタミンEや、抗菌力が強いビタミンC、DHAやEPAの含まれた食べ物は、歯ぐきにとって特によいものです。よく噛んで食べることが、栄養になるのはもちろん、脳を活性化し、人の顔を美しくします。

 ストレスを抱えていると、どうしてもブラッシングが甘くなりがちですが、健康の要は歯にこそあります。「ごめんブラッシング」は口腔内フローラを良好に保つ、究極のアンチエイジング法でもあります。すべての方に、ご家庭でできる、ご自身の歯と健康を守るための第一歩を踏み出してほしいと心から願っています。

清水智幸(しみず・ともゆき) 1963年東京都生まれ。88年、日本歯科大学卒業。近代歯周病学の生みの親であるスウェーデン・イエテボリ大学のヤン・リンデ名誉教授と日本における歯周病学の第一人者である奥羽大学歯学部歯周病科・岡本浩教授に師事。2000年、清水歯科クリニック開設。09年、東京マキシロフェイシャルクリニック院長に就任。同クリニックは15年に 東京国際クリニック と名称変更し、現在にいたる。歯周病治療・歯周外科の症例数は10,000症例以上に及ぶ。近年はインプラント周囲炎治療の講師も務め、後進の育成にも力を入れている。

(「文春オンライン」編集部)

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