NYタイムズも盲信したアメリカ政府の嘘を、ただ一社暴いた“弱小”新聞記者たちの闘い

文春オンライン / 2019年3月28日 11時0分

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ロブ・ライナー監督

 イラク戦争開戦時、アメリカ政府の大義名分であるイラクの大量破壊兵器保持という政府の嘘をいち早く見破り、真実を暴こうと孤独に立ち向かった者たちがいた。“弱小”新聞社ナイト・リッダーの記者たちの知られざる闘いにスポットをあてた映画『記者たち ~衝撃と畏怖(いふ)の真実~』が、このたび公開される。

 政府の圧力を押しのけて真実を伝える記者たちという主題は、昨年話題を呼んだ『ペンタゴン・ペーパーズ』にも通じるが、『記者たち』の物語は実に感動的ではあるものの、必ずしも大団円を迎えない。彼らの記事は闇に葬られ、アメリカは、イラク侵攻へとつき進んだからだ。映画の原題「Shock and Awe(衝撃と畏怖)」は、ブッシュ政権がイラク侵攻時に実行した作戦名から付けられた。

 本作を監督し、さらにナイト・リッダーのワシントン支局長役を自ら演じたのは、『スタンド・バイ・ミー』『恋人たちの予感』の名監督、ロブ・ライナー。その作風から、新作の持つ政治色の強さは一見意外に思えるが、実は前作『LBJ ケネディの意志を継いだ男』もジョンソン元大統領の人生を描いた政治ドラマ。ライナー監督の口からは、現政権への強い危機感が溢れだした。

NYタイムズもワシントン・ポストも「嘘」をそのまま報道した

──監督がナイト・リッダーの記者たちの物語を知ったのは、いつ頃のことだったのでしょうか。

RR イラク侵攻が起こった当時は、彼らの存在をまったく知りませんでした。劇中で描かれているとおり、『ニューヨーク・タイムズ』でさえ、ブッシュ政権が発表していることを鵜呑みにして、それをただ印刷しているだけだったからです。やがて侵攻が現実のものとなり、初めて真実が隠されていたことが知られるようになり、衝撃を受けました。イラク侵攻に反対する人々にとってもっとも必要だったはずの真実が、まるで届いていなかった。それ以来、もし報道が真実を伝えることができなかったら何が起きるのか、をテーマに、イラク侵攻をめぐる映画をつくりたいと思っていました。でもそれをどう映画にしていいのかがわからなかったんです。いろいろ模索していたときに、リンドン・ジョンソン元大統領のホワイトハウス報道官だったビル・モイヤーズがつくったドキュメンタリー(Bill Moyers Journal : Buying the War)で初めてナイト・リッダー社の記者たちの存在を知り、「これだ! このアングルで映画をつくれるぞ!」と確信したんです。

──映画で描かれたのはブッシュ政権とジャーナリズムをめぐる関係性ですが、これは現在のアメリカにも置き換えられる問題に思えました。

RR 私が『記者たち』で一番伝えたかったのは、報道の自由がいかに重要か、それを失えば民主主義は崩壊するだろうということです。おっしゃるように、トランプ政権は報道の自由を遮断し、自分たちのプロパガンダだけを報道させようとしている。大統領は、自分たちの言うことをきかない報道機関を「民衆の敵」とさえ呼んでいます。民主国家において選挙で選ばれた大統領がそんなことを口にするとは、とても信じられません。このままでは、アメリカは民主主義を失い独裁主義的な国家になってしまう。だから今こそ、この映画を通して改めて感じることが重要なのです。いかに報道が自由であるべきか。そしていかに真実を人々に届けることが大切か。

現代は民主主義の『スター・ウォーズ』だ

──この映画を撮影中は大統領選の最中だったわけですね。選挙は、映画をつくるうえでも影響を与えましたか?

RR いえ、実際には大統領選があったのは映画がほぼ完成していた時期だったし、直接的な影響はなかった。ただ、今の時代と強く呼応しあう作品となっていることは強く実感しました。まさにいまアメリカで起きていること、世界中で起きていることの映し鏡のような作品になっていると思います。アメリカは、世界中からいろんな民族がやってきて暮らしている国。多様な人々がうまく共存できている側面もあれば、残念ながら、人種差別や、ホモフォビアのような恐ろしい出来事も同時に起こっている。アメリカだけの話ではなく、地球の上でみなが仲良く暮らせるのかどうか、人類が存続できるのかどうか、その重要な岐路に我々は立っているわけです。現在は、民主主義のなかで悪と善が闘っている瞬間。民主主義の『スター・ウォーズ』だね(笑)。

──報道の問題については、今の日本も、まさに同じ状況に置かれています。公共放送は政府の発表をそのまま報道するだけ、一方で政府に都合の悪い質問をする記者は会見の場から追い出される、といった出来事が続いています。報道機関が政府の言いたいことを代弁するだけの存在になりつつあるひとつの原因として、日本の記者クラブ制度という独特のシステムもあるかもしれません。

RR メディアと政府は、ある種の共生関係にあります。一番大きな理由は、アクセスの問題です。メディアは、情報に近づく権利、真実を掴む手段を政府から得なければいけない。真実を究明するために、ある程度政府が言いたいことを受け入れながら情報を探ることになる。そうしないと、真実へと近づく手段を失ってしまうからです。アメリカでは、大手のメディアは大企業の子会社となっていることが多く、経営会社の意向を汲んで言葉を飲み込んでしまうことがある。報道機関は、絶対に独立した立場を保つべきです。

ふだんからTwitterでもトランプ政権のことをたくさん呟いているよ

──『LBJ』と『記者たち』と、政治的な作品がここ最近続いていますね。もちろん、大統領の恋愛模様を描いた『アメリカン・プレジデント』という作品も過去につくられていますが。もともと政治的なことを映画によって語りたいという思いがあったのでしょうか。

RR 今の自分がもっとも関心を持っているのが、こういうことなんです。アメリカで、そして世界中で、民主主義がかつてないほど攻撃されています。民主主義を守るため、今こそ立ち上がらなければ、自分に何ができるかと日々考えるうち、自然と政治的な作品が増えてきたんです。ふだんからTwitterでもトランプ政権のことをたくさん呟いているし、最高裁をテーマにした新作の企画も進めています。

──日本では、エンタテインメントの場での政治的な発言が敬遠されがちですし、映画においても、特に商業映画の分野では、今の政権を批判するような作品はほぼつくられていません。監督は、映画はもっと政治的であるべきだとお考えでしょうか。

RR 映画が必ずしも政治的であるべきだとは思いませんよ。コメディや恋愛もの、アクションもの、アドベンチャーまで、映画にはいろんな作品があり、それぞれの場所があるんだから。そのなかに、政治的な考察を促す映画の場所もある。私もいろんな映画をつくってきたけれど、これまで一生をかけて考え続けてきたことを表現したいと思い、この映画をつくったんです。アメリカでも、政治色の強い作品はつくりにくいもの。特にこのタイプの映画の資金集めはとても大変です。映画業界も観客も、アクションスターが駆けずり回りジャンプして闘うような映画ばかりを好ましく思うのは事実だしね。とにかく、私は今の政治的な思いを映画にしていくつもりでいる。誰かに「ロブ、もういいかげんやめなさい」と言われるまではね。ただし、どんな映画であれ、映画にはある種の娯楽性が必要。『記者たち』にも笑いの要素はしっかり入っていると思いますよ。

どれほど痛みがあっても闘い続けてほしい

──『記者たち』の中で大きな要素となった新聞というメディアについて、監督はその可能性をどのように考えますか? 紙媒体としての新聞は、ネット・ジャーナリズムの台頭とともに厳しい局面に立たされていますが。

RR 紙媒体のメディアはどんどん数が減少していて、はっきりいえば死に向かっていると言えますね。自分も『ニューヨーク・タイムズ』を購読しているけれど、すでにオンライン版に切り替えているので心苦しいのですが。大事なのは、紙の新聞をつくってきた記者たちの姿勢や気概が、媒体が変わっても生き残っていくかどうか。ネットという媒体は、とても助けにもなる一方で、人と人を遠ざけるような力も持ってしまう。特にネットはミームによって印象を操作するのがうまい。大事なのは、そういったわかりやすい効果に惑わされず、何も手を入れられていない真実の報道をどうやって展開できるのか。誠実でフィルターやバイアスがかからない報道が、今後も続いていってほしいですね。

──最後に、日本のジャーナリストたちに向けたメッセージを。

RR 闘い続けて。とにかくそれだけです。私たち市民が自分を守る唯一の方法は、真実を知ることであり、それを伝えるのがジャーナリズムの役目。日本でも、核武装をめぐる論議など、様々な論議があることを私も知っています。戦争、侵攻、こういった問題の審議が必要となるときこそ、真実が必要とされます。そうでなければイラク侵攻のような悲劇が生まれかねない。だからどれほど痛みがあろうが、闘い続けてください。

Robert “Rob” Reiner/1947年アメリカ合衆国ニューヨーク市生まれ。子役として活躍の後、映画監督に。『スタンド・バイ・ミー』(86)、『恋人たちの予感』(89)、『最高の人生の見つけ方』(07)など話題作を次々世に送り出した。今作ではナイト・リッダー社のワシントン支局長を自身で演じている。

INFORMATION

『記者たち 衝撃と畏怖の真実』
3月29日(金)よりTOHOシネマズシャンテ他にて全国公開
http://reporters-movie.jp/

取材・文 月永理絵

(月永 理絵)

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