西加奈子「人を信じることの尊さについて書こうと思いました」

文春オンライン / 2019年3月21日 6時0分

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西加奈子さん 撮影 若木信吾

《まくことが好きなのは、男だけだと思っていた。/1位になったF1レーサー、優勝した野球チーム、土俵入りするお相撲さん、いつだって何かをまいているのは、男だ》

 そこからはじまる西加奈子さんの小説 『まく子』(福音館書店刊) は、鄙(ひな)びた温泉街に暮らす11歳の慧(サトシ)が不思議な転入生コズエとの出会いから成長していく物語。神社の玉砂利や道端に積まれた干草と、なんでも“まく”ことが好きな女子、それがコズエである。

「はじめ、なにかを撒き散らすイメージからぶわーっと話が拡がって、そこに思春期の男の子を描きたいという想いがリンクして生まれた作品でした。映画化という話を聞いた時、まずは『まく子』を手にしていただけたことが嬉しくて。映画が大好きなので、映像としてどう表現されるのか楽しみになりました」

 メガホンを取ったのは鶴岡慧子監督。性徴期のサトシを前に、女好きでだらしなく、息子とうまく向き合えない父親に草彅剛さん。ちゃきちゃきと温泉旅館を切り盛りする女将で母親の役に須藤理彩さんを据えた。

「私には思いも寄らない演出方法でした」

「映像化にあたってはすべて監督にお任せしていましたから、完成した作品を新鮮な気持ちで観させていただきました。劇中、サトシとコズエが語る場面で、会話のイメージが砂絵のアニメーションで表現されるのですが、私には思いも寄らない演出方法でした。でも、その砂絵がとても効果的で素晴らしかったです」

 児童書として書き始めたつもりが、実は大人への物語でもあることに気付いた作品だったと西さんは言う。

「大人になることを恐れる子に“なぜ大人になるのか”と書き進めるうちに、じゃあ自分はちゃんと大人なのか、たとえば大人だって老いという変化を経ていくし、それを怖いとも感じている。私たちも同じだったんです。『まく子』には良い人しか出てきません。現実的に考えれば、そんな世界は嘘やと思われるでしょう。私も、世界に私の本しかなかったらそういう書き方はしないで、もっと悪い人や嫌なことを描いたと思います。でも人間の黒い心はこれまで幾度も書かれてきました。そう考えたとき、ならば私は人を信じることの尊さについて書こう、自分の理想とする物語にしようと思いました」

 そうして生まれた1冊の本が手に取った人によって映像として生まれ変わり、私たちの前にあらわれた。西さんの撒いたものが芽吹いたのだ。

「今回、多くの人のお力で、映画というかたちで更に大きく皆さんに発信できる機会を得ることができました。日々、なにかあらゆるものを周囲の方からいただいていると感じます。私だけではなく、生きている人はみんな何かを撒いている、そう思うんです」

にしかなこ/1977年生まれ。2004年『あおい』でデビュー。『きいろいゾウ』は宮﨑あおいと向井理出演で13年に映画化された。『通天閣』で第24回織田作之助賞、『ふくわらい』で第1回河合隼雄物語賞、『サラバ!』で第152回直木賞を受賞した。『まく子』は直木賞受賞後の第1作。

INFORMATION

『まく子』
3月15日(金)よりテアトル新宿ほか全国ロードショー
出演:山﨑光、新音、須藤理彩、草彅剛
http://makuko-movie.jp/

(「週刊文春」編集部/週刊文春 2019年3月21日号)

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