3カ月で100万部超 樹木希林の“ことば”はなぜ心に刺さるのか

文春オンライン / 2019年3月27日 14時0分

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『一切なりゆき ~樹木希林さんのことば~』(文春新書)

 昨年9月に75歳で亡くなった女優・樹木希林さんの生前のインタビュー記事などから154のことばを編んだ『 一切なりゆき ~樹木希林さんのことば~ 』(文春新書)が12月20日の発売から3か月あまりで累計発行部数100万部のベストセラーとなった。

 新書のベストセラーといえば、阿川佐和子さんの『 聞く力 』(文春新書)が2012年の年間ベストセラー第1位となる大ブームを起こした過去を思い出すが、1月の発売日から12月の100万部到達まで11カ月を要していた。そう考えると、没後半年となる個性派女優の語録がこれほど売れ続けていることが、いかに異例の事態であるかがお分かりいただけるだろう。

 ヒットの理由を、読者から寄せられた感想や販売データから読み解いてみたい。

 まずは、次の感想をご紹介しよう。

誰にも媚び諂うことなく、ご自身の考え方や生き方を貫く希林さんの姿勢、素敵だなあと思いました。翻って自分自身はというと、周囲の目を気にしてばかりで「こうでなければ」という思い込みにがんじがらめになってしまっています。希林さんの言葉は説教めいたところがなく、するすると心に入ってきますね。本書はこれからもずっと折に触れて読み返したい一冊です。この本に出会えて良かった!!(41歳 女性)

表紙の希林さんのお顔が優しく可愛らしくて素敵です。「そうそう」とか「なるほどなるほど」と共感出来るお話が多く楽しみながら一気に読んでしまいました。薄くて小サイズの本なのでバッグに入れて持ち歩き可能も嬉しく、病院等の待ち時間でも気楽に読めます。何度でも繰り返して読みたい本は少ないですが確実にそうなりそうな大事な本です。(70歳 女性)

発売前にネット予約で本を買ったのも、読み終えてからも毎日手に取って又読んでいるのも初めてのことです。(71歳 女性)

樹木希林さんの死に衝撃を覚え、この本を一気に拝読しました。希林さんのように、人生をさらりと全うしたい、と思いましたが、実はさらり、ではなく、内面にはドロドロとした女性らしさを卓越したものがあったのでは、と想像させられるものでした。その上で、さらりと凛として生き旅立った希林さんはすごいとどっぷり感じた一冊でした。だらけた日々になった時々に、読み返し背筋を伸ばそうと思います。(61歳 女性)

 何度でも読み返したい、ここで紹介した以外にも、同じような声が多く寄せられている。また、

売り切れ、売り切れで結局1月の中頃に読みました。折り紙の仲間、銭湯の仲間、何人もの人に読まれ、樹木希林さんの生き方も話し合いました。(77歳 女性)

 というように、本について語り合った人、本を贈った、贈られたといった人も多く、感動の輪がクチコミで広がって行った様子が見て取れる。

選び出すより削るほうが大変だった

 この本の編集を手がけた石橋俊澄は、編集の経緯についてこう語っている。

「樹木希林さんが亡くなったあと、雑誌記事から過去の発言を調べてみると、心に迫る名言がたくさんありました。そこで本格的に大宅壮一文庫(雑誌専門図書館)から資料を取り寄せてみたところ、1本の記事に何カ所も素晴らしい言葉がある。選び出すより削るほうが大変で、膨大な資料のなかから涙をのんで絞り込み、ようやく150本くらいまで減らして1冊に収まりました」

 樹木希林さんの発言のなかでも選りすぐりの名言を集めたことが、感動を呼んだひとつの要因と言えるだろう。

 表紙には樹木希林さんが生前特に気に入っていたポートレートをつかい、タイトルは色紙に好んで書いていたことばから採った。

どんなことばが読者の胸を打ったのか

 では、どんなことばが読者の胸を打ったのだろうか。

人生は楽しむのではなく面白がる。希林さんのユーモアには思わず笑ってしまいます。(66歳 女性)

人生は、いろいろな事がおこりますが、希林さんの“面白がって”という言葉が一番心に残りました。まさにそうなのですね。読みおえて、私の過ごし方も、“面白がって”楽に生きる!!という様に変わりました。(44歳 女性)

どの言葉も、いいなあと思えるものばかりですが、中でも一番響いたのは「一回ダメになった人が好きなんです」という言葉です。私は、すぐ落ち込んで、俺はダメだと思ってしまう。いろいろなことを気にせずに、問題をさっさと解決してさっそうとすすんでいくまわりの人にとても劣等感を持っていましたが、こういう人もいるんだ、こういうものの見方もあるんだと思えて、とても肩の力が抜けました。(56歳 男性)

「モノを持たない、買わないという生活は、いいですよ」の言葉が、新聞の書籍紹介に書いてあり、この本に興味を持ちました。常々、自分が死ぬときは自分の荷物を段ボール箱一つくらいにして死にたいと思っているので、モノに対する希林さんの考えにすごく共感できました。(51歳 女性)

アラフォー・アンチエイジング・プチ整形とマスメディアはキラキラと若く若くと女性を煽りますが、希林さんは、ひっぱったり、ぬいちぢめるのではなく、つつましく色っぽいのが最高の色気(P152)と言いきります。凜としたよい年を重ねたいと本から学び納得した私です。(74歳 女性)

自分の変化を楽しんだほうが得ですよの所、まさにその通りです。(64歳 女性)

手に取った読者は女性が8割

 本書は12月20日に初版5万部でスタートしたが、全国の各書店でたちまち売切れ。急ぎ重版をかけた7万部が仕上がったのはクリスマスの後。年末とあって通常の流通ルートでは輸送が間に合わず、一部では宅配便や、営業部員が直接書店に持ち込むなど異例の体制で出荷されて行った。

 発売日にTBS「ビビット」で紹介された他、年末にかけてNHK「ニュース7」など多くのテレビ番組が2018年の振り返り番組のなかで本書を紹介しながら樹木希林さんの人柄を偲んだことも大きな後押しとなった。ただし、実際に売上げ部数が大きく膨らんだのは、年が明けて追加の重版が続々と書店に届き始めてからということになる。

 書店店頭での売場は拡張され、衰えない勢いに押されるように、重版が週1ペースで続いていった。

 出版取次大手の出版取次大手の日販の調査では、購入者の約25%が60代女性。次いで70代、50代、40代の女性が多く、女性の割合が8割近くとなっている。

 通常、これほどのベストセラーになれば年齢性別の差は徐々に緩やかになってもよさそうなものだが、発売当初から現在までほぼ変わらないことも特徴的。ベストセラーだから買うのではなく、樹木希林さんのメッセージに共感した人たちが買っているのだろう。

 大型書店の売上げ規模はもちろん大きいが、全国各地の街の小さな書店での売上げが積み上がり、大きな部数となっている。

 本を買ったのは、必ずしも、樹木希林さんのファンばかりではない。

私は樹木希林という女優は嫌いでした。でも彼女は「面白がって」やっていたんだ。ここ数年、彼女の発する言葉、行動が私の胸に響く。うそのない、飾らないことが私をひきつけてしまう。(71歳 女性)

この本を読んで自分もガンを経験し、これからの生き方等を意識しながら送らねばということを感じている。希林さんのこと「変わった人だなあ」から、「自分をシッカリ持ち生き方を私達に教えてくれた人」に変わって行った。(71歳 女性)

体裁を取り繕わない等身大のアドバイス

 樹木希林さんが全身がんであることを公表したのは70歳の時。2013年に行われた、日本アカデミー賞最優秀主演女優賞の受賞スピーチだった。病と向き合って前向きに生きた樹木希林さんの姿勢に力づけられた人も多い。

2年前にがん手術を受けたが、転移とか再発におびえる毎日であった。しかしこの本を読んで自分の生き方を変えてみようと改めて思った。(71歳 女性)

私も母をガンで亡くしました。精神的にも追い詰められ家事も子供たちの事も満足にできませんでした。余命宣告を受けテレビ等で公表される樹木さんは立派でした。自分を見つめて他人にも厳しく本質をスバッと解く言葉にひかれます。哲学書です。(64歳 女性)

私は希林さんと同年。また膵癌グレーのまま2年過ぎています。「しっかり傷ついたりヘコんだりすれば、自分の足しや幅になる」。この言葉に力をもらえている。(年齢不詳 女性)

私ががんになった時は、こんな風に思って生きて行こうと思った。今は2人に1人ががんになる時代だから。(53歳 女性)

 厚生労働省の発表によれば、2017年の日本人の平均寿命は、女性が87.26歳で世界第2位、男性が81.09歳で世界3位だという。長寿社会の到来はめでたいが、一方で必ずしも幸福な老後を保証するものではなかった。年金、老後の資金、相続、墓、など様々な課題がのしかかっている。

「一番トクしたなと思うのは、不細工だったこと」

 しかし、「求めすぎない」「人生なんて自分の思い描いた通りにならなくて当たり前」「死を感じられる現実を生きられるというのは、ありがたいものですね」といった樹木希林さんのことばは、お金持ちでなくとも、病を抱えていても、心持ちひとつで残り少ない人生を豊かに生きることが出来ると教えてくれる。

 かつて『寺内貫太郎一家』や『夢千代日記』などのドラマでお茶の間に親しまれ、近年は『万引き家族』『日日是好日』などの映画で演技派女優の個性を輝かせた樹木希林さん。

「自分で一番トクしたなと思うのはね、不器量と言うか、不細工だったことなんですよ」と言い、夫である内田裕也さんとの関係を「内田とのすさまじい戦いは、でも私には必要な戦いだった」と言って、体裁を繕うところがない。だからこそ、等身大のアドバイスとして受け取られているのだろう。

 樹木希林さんは、「お互いに中毒なんです。主人は私に、私は主人に」と語っていたが、夫の内田さんは3月17日に、妻の後を追うように逝去。まさに、そのような関係だったのだろう。

 担当編集者の石橋は、本書の冒頭でこう書いた。

「語り口は平明で、いつもユーモアを添えることを忘れないのですが、じつはとても深い。そして何よりも、ポジティブです。彼女の語ることが説得力をもって私たちに迫るのは、浮いたような借り物は一つもないからで、それぞれのことばが樹木さんの生き方そのものであったからではないでしょうか」

(「文春オンライン」編集部)

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