「不正なことはしていない」と言い張るJOC竹田会長退任で、五輪買収問題を幕引きとしていいのか?

文春オンライン / 2019年3月23日 6時0分

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日本オリンピック委員会(JOC)会長と国際オリンピック委員会(IOC)委員の退任を表明し、記者の取材に応じる竹田恒和会長=3月19日、東京都渋谷区 ©時事通信社

 2020年東京五輪・パラリンピック招致をめぐる汚職疑惑で捜査対象になっていた日本オリンピック委員会(JOC)の竹田恒和会長が19日、記者会見を行い、6月の任期満了をもって退任すると表明した。疑惑に関しては潔白を主張したが、詳細を明らかにする言葉もなかった。竹田氏と汚職疑惑をめぐる発言を追った。

竹田恒和 JOC会長
「この定年を迎える6月27日の評議員会をもって任期を終了し、退任することにしました」
産経ニュース 3月19日

 JOCは19日午後3時から理事会を行い、予定されていた議題を話し合った後、理事会の最後に竹田氏自ら会長職を6月の任期満了をもって退任することを表明した。「解任」でも「辞任」でもなく、あくまで「退任」。退任の理由はあくまで「選任時70歳未満」の役員の定年規定に従うためであり、会見では疑惑と退任は関係ないと強調し続けた。当初は続投が既定路線で、本人も東京五輪までの続投を強く望んでおり、今年2月には70歳定年の例外を検討していると報じられた(時事ドットコムニュース 2月18日)。

退任後、なんと名誉会長就任の方向に

 理事会に出席していた小谷実可子氏は「今までの経験を生かしていただくことが2020年東京五輪の成功に不可欠だと思います」と涙ながらに語り、名誉会長への就任を提案したという(朝日新聞デジタル 3月19日)。どうやら本当に名誉会長に就任する方向で調整が進んでいるようだ。続投に意欲を見せていた竹田氏の面目を保つためだとも報じられている(朝日新聞デジタル 3月19日)。驚くほかない。

 竹田氏は国際オリンピック委員会(IOC)の委員も退く考えを示した。こちらの「辞任」に関してはIOCの強い意向があったとされる(日刊ゲンダイ 3月21日)。仏司法当局に拘束される恐れがあるからと海外で行われた会議に欠席を続けたのだから当然といえば当然だ。

竹田恒和 JOC会長
「不正なことはしていない。潔白を証明すべく今後も努力していきたい」
朝日新聞デジタル 3月19日

 招致委員会の理事長だった竹田氏が、正式に仏司法当局の捜査対象になったのは2018年の年末。今年1月15日、疑惑を否定するために開いた記者会見の会見時間はわずか7分。「フランス当局が調査中の案件のため」との理由で質疑には一切応じなかった。

 疑惑のあらましはこうだ。竹田氏が理事長だった東京五輪招致委員会が2013年7月と10月の2回にわたって、シンガポールのコンサルティング会社、ブラックタイディング社に180万ユーロ(約2億3000万円)支払った。支払いの一部が同社を通じてアフリカ票に影響を持つラミン・ディアク氏とその息子、パパ・マッサタ氏に渡ったと見られている。2016年のブラジル・リオ五輪では、まったく同じ構造の贈賄容疑で同国五輪委員会会長だったカルロス・ヌズマン氏が逮捕されている。

 竹田氏は1月15日の記者会見で、「招致委員会からブラックタイディング社への支払いはコンサルティング業務に対する適切な対価であった」と強調したが(FNN PRIME 1月15日)、JOCも竹田氏も2億3000万円の使途については把握していなかった。何がどう適切なのだろうか? 退任表明後の取材では「潔白を証明すべく今後も努力していきたい」と語ったが、具体的には何も語らなかった。

疑惑の多数に電通が関与

竹田恒和 JOC会長
「電通にその実績を確認したところ『十分業務ができる、実績がある』と聞き、事務局で依頼を判断したと報告を受けた」
BuzzFeed News 2016年5月16日

 竹田氏が退任することで一連の疑惑が一件落着すると考えている人は皆無だろう。東京新聞の社説は「彼一人の責任だろうか」というタイトルで「一連の問題の責任を一人に押しつけて幕引きとしてはいけない」と記した(3月20日)。朝日新聞は「疑惑契約は官民含む『オールジャパン』」という見出しを打っている(3月19日)。記事では、ブラックタイディング社との契約について後押ししたのは広告会社・電通の関係者であり、招致委員会に出向していた文部科学省や外務省の官僚、都庁の役人も関わっていたと指摘した。

 2016年5月16日の衆院予算委員会に出席した竹田氏は、ブラックタイディング社から「売り込みが招致委にあった」と答弁。電通に確認を取った後、コンサルティング業務を依頼したことを認めた。東京五輪招致の疑惑に電通が関わっていることは多くのメディアで指摘されている。

「どこの国で開催したときも、毎回あるの」

高橋治之 コモンズ会長、東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会理事
「こういうことは必ずあるんですよ。どこの国で開催したときも、毎回あるの」
『週刊現代』 2016年6月18日号

「招致のキーマン」とされているのが電通元専務で東京五輪組織委員会理事を務める高橋治之氏である。電通社員だった30代の頃から世界のスポーツ機関とわたりあい、数千億円規模とされる放映権料の取引を行ってきた。竹田氏とは慶応大の同窓生で旧知の仲であり、ラミン・ディアク氏とも極めて親しい。

『週刊文春』2016年6月23日号では、「『東京五輪』招致 電通元専務への巨額マネー」と題した特集記事を組んでいる。記事によると、07年には電通スポーツヨーロッパを創設して、高橋氏の部下だった中村潔氏が社長に就任し、ディアク氏が会長を務めていた国際陸連のマーケティングを担当する。2020年の五輪招致活動では、この電通スポーツヨーロッパがその起点となったという。

 一方、高橋氏はコモンズという会社の代表を務め、コンサルタント業務を開始。五輪招致委員会のスペシャルアドバイザーに就任し、同社のコンサル部門は11億円を超える大口収入になったと大手民間信用調査会社がレポートしていた。

取材に対し「何の問題もない」と言い切った

『週刊現代』2016年6月18日号に登場した高橋氏は、東京五輪招致をめぐる疑惑について「あれは五輪招致委員会が払ったものであって、僕はまったく関係ありません」と全面的に関与を否定したが、問題そのものに関しては「こういうことは必ずあるんですよ」と語り、ブラックタイディング社へのコンサルティング料についても「何の問題もない。さっきも言ったとおり、どこの国だってみんな、同じことをやっているんだから」と断言してみせた。電通や高橋氏が関与していても「問題ない」のなら、すべてを白日の元にさらしてみてはどうだろうか? 

 なお、2013年に就任したIOCのトーマス・バッハ会長は、東京の招致委員会の体験談も参考にして、次のように招致ルールの是正を行った。「IOCは招致都市のために活動するコンサルタント/ロビイストについて、有資格者を登録制とし、監視する」(朝日新聞デジタル 3月21日)。

「日本では電通なしでは何も起こらない」

マイケル・ペイン 前IOCマーケティングディレクター
「日本では電通なしでは何も起こらない。そんなことは他の場所では起こらない」
AP News 1月24日

 AP Newsが配信した「フランスのオリンピック捜査で疑問視される日本企業」という記事の中で紹介された発言。マイケル・ペイン氏は英国のスポーツ・プロモーション企業を経て、アディダス代表のホルスト・ダスラー氏と電通の服部庸一氏が1982年に設立したISLマーケティングがIOCと始めたオリンピックのグローバル・マーケティング・プログラムのために引き抜かれた人物(「オリンピックビジネスをつかんだ男 服部庸一(8)」ウェブ電通報 2015年12月27日)。先述の高橋氏もISL事業局長を務めていた。

鈴木大地 スポーツ庁長官
「止まっているわけにいかない。国として、JOCや大会組織委員会などと連携を強化して、前に進んでいくしかない」
朝日新聞デジタル 3月20日

 コンサルタント料について、「我々のような末端には伝わっていなかった」(日刊スポーツ 1月15日)と言っていた鈴木大地・スポーツ庁長官は、竹田氏退任についてこのようにコメントした。疑惑があっても振り返ることなく、掲げた目標に向かって邁進する。まるで戦時中のようだ。そもそも鈴木氏は「末端」でも何でもない。

森喜朗 東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会会長、元首相
「大変なご英断。(20年近い在任期間は)長い」
朝日新聞デジタル 3月19日

 竹田氏の退任表明を受け、大会組織委員会の森喜朗会長は「非常に残念だったろうと思う」とコメント。定年制の導入や役員任期の制限の議論に触れ、「大変なご英断。(20年近い在任期間は)長い」と述べた。

 かつて森氏は五輪招致をめぐる不透明なお金の流れについて、「進めていくにはコンサルタントにお願いしないといけないことがたくさんあるんじゃないでしょうか」と理解を示していた。また、「組織委員会は(招致が)決まってから作ったもの。(中略)その前どうだった、プロセスどうだったかは、僕らが申し上げることではない」とも述べていたが(ハフポスト日本版 2016年5月16日)、森氏は東京五輪招致委員会の評議会議長を務めており、招致に大きな役割を果たしたとされる。

 後任の会長について「竹田さんも会見で言っているように、この際、若返られたら良いと思う」と述べたが、大会組織委員会の会長も「英断」で若返ったらいかがだろうか? その上で竹田氏とともに当事者たちの手で疑惑を解明してもらいたい。

(大山 くまお)

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